Ｐの悲劇　　　　　　高橋瑠美子　　　　小学館　　　　　　　　　　　

高橋瑠美子の短編傑作集が数多く出ているようだが、一説によると（？）彼女の短編集の中でも傑作な三冊はというと「専務の犬」、「赤い花束」とこの「Ｐの悲劇」の三冊なのだと聞いて前二編は読んだこともあったので、こうなれば一応網羅しておこうというので94年発行というから随分と古い作品だが探し出して読んでみた。

前二作と同様に、漫画というメディアを使うことで可能になるストーリーや物語の背景を極端にディフォルメしながら、イリュージョン的な仮想空間や物語を創りだすという手法は、この作者は実に見事に手中にしていると思った。

この作品集に掲載された6篇全てが恐らく短編小説あるいはショートショートといった類のメディアで描いたならば、随分と安っぽいものになってしまうのではないだろうか。

いや、決してこの6篇の漫画のストーリーが安っぽいという意味ではない。いずれも、漫画という手法で描かれると、ユーモアとペーソスに溢れ、それぞれのストーリーが読み手にそれ以上の思索や、感情を沸き立たせるものがある。

表題作の「Ｐの悲劇」は、ペット禁止の団地に、夫が取引先の重要人物から断れぬまま預かったのが何とペンギンだったという設定。団地の中でもボス的な存在の筧夫人は、ペット禁止の急先鋒、いかにこのペンギンを隠すかに汲々とするこの家の主婦、しかし、小学生の息子はクラスの男の子全員にペンギンのことを話してしまったからさあ大変−−−、という典型的な漫画的コミカル設定だが、この作者にかかると、こんなストーリーがすんなりと入ってくるし、可笑しくてしかも最後にジーンと感動させる仕掛けがあって素直に楽しめる。

その他、五編。中でも何故か新築の家がゴミを呼ぶかのように、家の前にゴミを捨てられて困るという泣き笑いを描いた「ポイの家」が面白かった。