最後の初恋　　　　　　ニコラス・スパークス　　　　　ソフトバンク　　　

「きみに読む物語」「きみを読む夜空に」等のニコラス･スパークスのベストセラー　ラブストーリーには、さすがに恋愛小説における人気作家と思わせる「上手さ」があるとおもったものだが、大衆受けを狙ったかのような手馴れただけの小説といった感覚を受けないこともなかった。

本作も、そんな気持ちも半分あってどうせ予定調和の恋愛小説だろうと読みはじめたのだが、正直に言って又も、スパークスによってつむがれる大人のおとぎ話的な恋愛物語を堪能してしまい、まさに彼の術中にすっぽりはまってしまったと思った。

ポールは54歳、その人生を自ら切り開き優秀な外科医として富と名声を手にしてきたが、その代償として家庭を顧みることをしなかった。

そんな彼に失望した妻は愛人を作って家を出て行き、一人息子はそんな父のような人生を歩みたくないと反発して、エクアドルのボランティア医師として彼の下を去っていった。

エイドリアンは45歳、夫に裏切られ、大きな喪失感を味わっており、そんな両親の離婚という状況の為に心に傷を負った3人のティーンエイジャーの子供と暮らしている。しかも彼女は介護施設で暮らす愛する父親の面倒をみなければならないのだ。

人生の途中で大きな喪失感を抱いているこの二人が、嵐が迫ろうとしている海辺の宿で出会った。

たった二人で、海辺の淋しい宿で過ごすことになった二人だが、その嵐の中で二人は、人生の最初にして最後の恋愛に陥っていく。

わずか5日間のできごとだが、二人はこれまでの人生で決して得られることのなかった「自分は愛される価値のある人間だ」と実感させてくれる相手にめぐり合えたのだった。物語はそんな二人の切ない恋を淡々と描いていく。

小説は、エイドリアンがこの14年前の愛の5日間を、夫を亡くして喪失感に打ちのめされている娘アマンダに始めて語る、という形で展開する。

物語の中には、様々な登場人物が抱える「かけがえのない愛」の物語と、裏切られた愛によって味わった自己喪失感の物語がいくつも織籠められている。

物語の設定の大筋が ウォラーの「マディソン郡の橋」と似ているのは、中年過ぎの大人の恋愛物語設定としては、この形の筋立てが王道ということなのだろうか。