教授とミミズのエコ生活　　　　三浦俊彦　　　　　三五館　　　　　

ダーウィンが30年に亘ってミミズの生態研究をしていたことがよく知られている所為もあるのだろうか（参照：｢ダーウィンのミミズ研究｣、｢ミミズと土｣）、地中にいてさして目立つこともないミミズに対する関心は一般でも中々高いようだ。

そういう関心の中には、ダーウィンの遺髪を継ごうというミミズ生態学的見地の研究も数多くあるが、最近ではミミズの土壌改良作用に着目し、ミミズを環境問題の切り札としの活用法に重点を置く動物行動学、あるいは環境学の見地からのものも少なくないし、中にはミミズを可愛いペットとして扱う物もある。

「ミミズなんて気持ち悪い！」という人も多いだろうが、飼ってみると意外と興味を引かれる生物らしいということはエイミー・スチュアートの「ミミズの話」などで知った。

本書の著者のミミズに対するスタンスはそれらの物とはかなり違うと言ってよい、著者自身が言っているように、その関心は生物行動学、環境問題、としての関心というよりは、ペットを通り越して「ミミズオタク」的なそれと言ってよいものだ。

著者は投資資金の回収もできないだけではなく寧ろ地球環境に負荷をかける結果になってしまうソーラーパネルを設置した経験から、ミミズ飼育による有機肥料生産、地球環境保護、に対しても否定的だ。そういった環境問題的アプローチはミミズ業者のウソであるとさえ言う。

それでは、なぜミミズ飼育などという「無駄」なことをするのかといえば、それはひとえに著者が一旦ひょんなきっかけではじめてしまったミミズ飼育にオタク的に引き込まれ、まさにそのオタク魂に火がついてしまったからということらしい。

全編を通じて著者の生活がミミズ中心になっていく様子がユーモラスに（本人は至って真剣だ）述べられ、ミミズ飼育の為の努力の数々、ミミズが全滅してしまった己の愚かな過ちの懺悔、といった「ミミズ尽くし」で溢れている。

単なるオタク話だけで留まらないのがこの芥川賞候補作品を書いたこともあるという著者のミミズエッセーのよい所だ。ミミズ道楽の過程で著者が得ていく生命というものに感じるはかなさ、いとしさの教訓が面白い。

ミミズ飼育はその初期条件のちょっとした違いが、そのコンポスト内の環境を大繁栄に、あるいは絶滅に導いてしまうことを幾度も経験するなかで、著者はミミズ集団の生命維持が実はカオスの中に委ねられているという｢生命のはかなさ｣に思い至る―――といった所など中々、考えさせられる。