二重らせんの私　　　 　柳澤桂子　　　 　　早川書房　

日本における草分け的生命科学者である著者だが、その研究生活の最中、難病におかされ以後40年間、その痛みと死の恐怖にさらされ続けている。

そのような境遇にあるからこそ科学的な面から見た生命の驚異とその不思議さに感動すると同時に、科学的に究明し続けても決して理解することができない「生きるとはなにか」「死とはなにか」を哲学的あるいは場合によっては宗教的に捉えようという思いは強いようだ。

著者の「意識の進化とDNA」　「生きて死ぬ知恵」　「われわれはなぜ死ぬのか」等はいずれもそのような思いの中から著されたものであり、生命科学だとか哲学といった一つの側面から捉えるだけではなく、「命」についての一人の人間としての懐疑と思考の様がなんとも清々しく写るものだった。

この作品は、著者がその難病におかされるまでの少女期から一研究者としての目覚しい活躍をした時期を回顧したエッセーであり、著者がそういった日々をいかに真摯に「生命」というものの真の姿を探究していったのかが美しい文章で綴られている。（ちなみに、本作品は日本エッセイストクラブ賞を受賞している）

柳澤桂子といえば、どうしても上記に述べたように「難病に苦しむ生命科学者」という先入観でその著書を手に取るが、本書は、むしろその難病という部分は最後に少し触れられているだけで、御茶ノ水女子大から米コロンビア大学へ進み、Phdを取得するまでの感性と才能に恵まれた一女性の人生論、回顧録であり、又、現在の「利益追求」に振り回される生命科学への批判書でもあり、珠玉の生命に関するエッセーとして楽しめる一冊といえる。