旅猫レポート　　　　有川浩　　　　　　　　文芸春秋　　

この作家の作品では以前「フリーター、家を買う」　「図書館戦争」などを読んだことがあるが、そのストーリーテラー振りには感心させられたものだった。

本作は、前2作とは、毛色の違った作品だが、そのストーリーメイク、ストーリーテラー振りは変わらないし、浅田次郎張りに「泣かせどころ」をきかせるといった職人芸なども中々手慣れたものだ。

ネコとネコ好きの青年を主人公に、この二人（？）の相思の仲の歴史を物語に仕立て、時にはネコ、時には青年、あるいはその青年の友人達の一人称を切り替えていく形で物語は進む。

野良として孤高の生活をしてきた主人公のネコは、ある日、車にはねられて大けがをしてしまう。その時、彼が助けを求めたのは、日頃、可愛がって手を出そうとしていたネコ好きの青年悟であった。悟はネコをナナと名づけ、二人(?) の暮らしがはじまる。

しかし、5年後この二人の生活も終わりを告げることになる。ある事情で悟はナナと一緒に暮すことができなくなってしまうのだ。悟は小学校、中学校、高校の同級生を訪ね、ナナを貰い受けてもらおうと旅にでるのだが−−−。

この友達訪問の二人旅というロードノベル的なストーリー展開が中々良い。登場人物は全て善人、そしてナナが会うペット達も皆個性があるものの、全て善人（？）といったサザエさんスタイルの物語の清々しさは、少年少女向けともいえるものだし、訪ね歩く土地々々のネコ目線でみた自然景観の描写も中々感動的だ。

かつては野良であったというナナの野生的な本性からでる、人やペットたちの運命に対する、ある種冷静で達観した見方で描かれる、悟とナナの別れ、そして後日談の部分などの泣かせどころは、おもわず「上手い！」と感じてしまう。

どちらかといえば「ネコ派」にとって、主人に対して忠勤に励む（？）単純明快なイヌよりも、「我輩は猫である」や本書に登場するネコのように、もうちょっと複雑（そうに見える）ネコを主人公にした物語の方が、面白いように思う。女性にひたすら慕われるよりも（そんな経験はないが）、中々なびいてくれないが、時にちょっと笑顔を見せてくれる、あるいは時にちょっとつれない女性の方に惹かれてしまうという、タカさんの性格からみると、この作者も真性のネコ好きであり、その理由もタカさんに似た物ではないか−−−などとも思う。