機会の平等、成果の平等

「格差社会」という言葉が使われる時、それは「いけない事」であるというニュアンスで使われる。「格差はあってはならないこと」という訳だ。

「格差は悪」という考え方は、釈尊の教えの根本には「平等思想」があったとか、フランス革命の精神として自由、博愛とともに「平等」が掲げられていたことなどから生まれたものだろう。

平等が至上の物である以上、格差はあってはならないことになる―――という訳だが、どこかおかしい。

釈尊もジャン・ジャック・ルソー(フランス革命の理論的支柱でもあった)も共に、平等を説いたがそれは格差そのものを否定したということではない。

ルソーは「平等」を説く中で、「いかなる市民も他の市民を金で買うほど豊かであってはならず、またいかなる市民も自らを売らざるを得ないほど貧しくあってはならない」とはいっているが、「法の下では全ての人間が平等」であれば、豊かさや貧しさに違いが出ることを否定してはいない。ルソーが言っているのは、人権の平等を害するほどの格差はあってはならないということなのだ。釈尊も仏の前では男女は平等の庇護を得ることを唱えたのであって、男女にジェンダーによる差異(格差ではない）があること自身を否定している訳ではない。「平等の概念」を「格差の否定」とはき違えてはならない。平等の尺度と、格差の尺度は同じではないのだ。

「日本は格差社会だ！」という非難には、例えば、年収250万円以下の給与所得者が全体の25％もいる一方、年収2000万円以上の人が人口の0.4％いることを「けしからん！」という意味合いが含まれる。それでは給与所得者の年収を強制的にならして「みんな同じ年収400万円にすればよい！」ということなのだろうか？　たしかに同一労働であるならば「格差はゼロ」が理想の社会といえるのだろうが−−−。

もちろん、同一労働であるならば、ジェンダーや年齢の違いによる給与に格差をつけるべきではないかもしれないが、職種や職位、あるいは個人の能力や成果、労働時間などに違いがあるにも係わらず「格差もまかりならから全員、同一賃金」などということになると、果たして、人々が勤労意欲を持ち続けることができるだろうか。

嘗てソ連の国営企業や農場でノルマ制を敷いて、同一賃金制を導入したことがあったらしいが、「働いてもはたらかなくてもどうせ同一賃金なのだから」と、労働者達は与えられたノルマ以上の仕事をしようとせず、国全体の生産力はがた落ちしてソ連邦崩壊を招いたという歴史がある。サッチャー以前の英国では所得税の累進性が極めて高く一時期、最高税率94％という時代があった。一億円の収入を稼いでも手に残るのは600万円、ストばかりやって仕事をしない労働者の実入りと変わらないというのだから、「英国病」が蔓延しあの大英帝国の栄光が地に落ちたのは当然だったかもしれない。

ソ連の例も英国の例も、「格差＝悪」の自縛に陥る余り「悪平等」の呪詛に絡めとられたと言ってよい。最近の日本も、格差は悪、格差が生じさせる原因である競争も悪、という考え方が蔓延しているように思う。「競争＝悪」は、戦後の日本の教育をダメにした日教組の専売特許だったけれど、それがあのデタラメ民主党政権以来、日本の社会の至るところに蔓延しているように思う。

機会は万人に対して平等であるべきだが、与えられた機会の中で皆が競争し、競争の結果得られた成果や報酬まで平等である必要など果たしてあるだろうか。

結果の平等にばかりを気にして、あるべき競争すら嫌悪する今の日本人の甘えの構造は、社会崩壊の危険をはらんでいるように思えてならない。

（04/16/13 9:00pm S.T.）

古民家のシャンデリア

アメリカ流経営こそがもっとも優れた経営であるという熱に皆が浮かされていた90年代、日本の伝統的経営は「古く遅れた経営」だと散々に叩かれた。

日本式経営といえばそれはその一例は、「終身雇用」システムである。「終身雇用」という暗黙の契約（？）があればこそ、従業員は時には身を粉にしてまで会社に忠義を尽くす。労使の関係は「主従もしくは家族同士」といったまるで封建時代のような関係こそが日本的経営を支えたといってよい。

もっとも、あの時代、なぜそんな「日本式経営」が一気に「アメリカ的」経営にとってかわられようとしたかといえば、それはは「日本式経営」の賞味期限がそろそろ切れようとしていたタイミングだったということもできよう。そんな時に偶々入ってきた「アメリカ的経営」が、これこそ行き詰まりつつある日本的経営に代わるものとして飛びつかれた、ということだったのかもしれない。

アメリカ式経営は、別に悪い経営システムだとは思わない。社会がそれを認めており、そのシステムで動いているならまさにもっとも合理的な経営システムだともいえるのだろう。ただ長い間、日本独自の経営システムの下で活動してきた日本の労使のみならず日本社会全体には、そのシステムと馴染まない面があまりに多かったということではないだろうか。入母屋造りの日本の古民家に、シャンデリアを飾ったようなものだったということではないだろうか。

終身雇用があればこそ成り立った「苦しい時には経営者も従業員の側も共にその苦難を乗り越えるべく協力しあう」などといった日本の伝統は、終身雇用という相互信頼のベースが失われた今、労使双方にとっては悪い冗談のようなものになってしまった。ブラック企業といわれる企業による従業員の「使い捨て」、それに対抗しようとする雇用者側の企業に対する忠誠心の欠如等々、いまや、マルクスが言った「資本と労働の対決」が遅まきながら日本にも実現しつつあるようにさえ見える。

アメリカ式経営の弊害といえば「企業は誰のものか」という問題についての日本式とアメリカ式の考え方の違いが今になって日本社会に大きな混乱をもたらしている。

以前の日本では、「企業は経営者と従業員の物」だというのが日本の常識だった。しかしアメリカ式経営が入ってきて以来、「企業は株主のもの」というのが常識になってしまった。

アメリカのハゲタカファンド、サーベラスが西武鉄道の大株主として様々な要求（かれらは提案だと言い訳しているが）を突きつけ、TOBによって西武を丸裸にしようとしているといわれている。サーベラスは、経営陣に自分たちの息のかかった元金融庁長官などを送りこみ、従業員の大幅合理化、不採算といわれる路線の廃止や西武園、豊島園などの売却といった難題を次々と突きつけている。サーベラスの最終的な目的は、西武鉄道という会社の大幅合理化や資産の売却によって株式価値を上げ、彼等の持株を高値で売り抜ける大儲けすることだ。彼等がいかに否定しようともその本音は隠しようもない。

「会社は株主のもの」だとすれば、西武鉄道に長年勤めてきた従業員、関連企業や取引先、あるいは廃止となる可能性のある線の沿線に住む人々のことなど、「企業の持主である株主の利益」の為なら、どうなっても仕方がないし、そもそも文句をいう権利さえないということになるのだろうが―――。

確かに、サーベラスばかりが責められるべきではなく、ことここに至るまでに西武鉄道の経営が様々な失敗をしてきたという事実も責められなければなるまい。株式上場廃止になる以前の西武の経営陣のデタラメや、現経営陣の企業経営努力の不作為といった様々な問題を、サーベラスという「投資家集団」の非を責める余りに忘れてしまってはならないのは事実だが―――。

シャンデリアを飾るには日本の企業システムという入母屋造りの居間は、まったくそぐわなかったということなのではないだろうか。

（04/14/13 9:00pm S.T.）

スタバもある！

盛んに国内旅行をしていたものだが、最近はそれがちょっと億劫になってきた。

全国各地、土地それぞれに特長があって―――というのは今は昔の話。少なくとも旅行者にとっては土地ごとの特長がどんどん失われ全国どこの町も均一化された同じ風景になってしまったという淋しさがあるからかもしれない。特に新幹線の駅ができた街は全国すべて金太郎飴のようになってしまった。

高架で乗り入れる新幹線だから駅舎もやはり高架になる。高架の線路、高架のプラットホームという建設条件の下では、かつてのように個性ある駅舎を作ることもできないのはよく分かるが、あたかも全国一律の「統一規格」があるかのように同じデザインの駅舎、駅前広場を見ているとここが岡山駅なのか、秋田駅なのかを、見わけることさえ難しくなってきた。

まして、岡山も秋田もあるいは長野も、駅前広場に立ち並ぶビル群に大差はない。立ち並ぶ看板も店舗も全国に店舗網を持つ銀行、証券、サラ金、車販売、コンビニ、居酒屋、カラオケのものばかりだ。列車を降り立って駅前にある大衆食堂で地場産のつまみでビールを一杯！などという昔の旅の楽しみなどは最早望むべくもない。

もちろん、新幹線の通っていない土地ならばまだまだそういった食堂はありそうだけれど、割安パック旅行全盛の今、一人で田舎をのんびりと散策する旅は、贅沢なものになってしまった。安近短の旅に慣れてしまった身には「なにもそんなところまで出かけていかなくても〜」と旅に出る元気が出ないところがある。

それもこれも、地方そして地方都市の個性が失われてしまったからではないだろうか。「地方分権」だとか「地方を元気に」という掛け声は確かにあるけれど、橋下さんやら河村さんをはじめ、そういった掛け声を出しているのはほとんどが政治家であり、彼等がどこまでその主張に真剣なのかはどうも疑わしいところがある。（橋下さんにしても大阪府構想は、維新の中央政界入りの為の地元選挙対策ではないかと思える節もあるし、河村さんやら元国会議員の各県知事さんたちの「地方、地方」の掛け声は、自らの就職活動（選挙）道具なのではないか？と見えてしまうのだ。

「外国産のコメに席巻されて日本のコメは全滅する」とTPP反対を叫んでいる元気があるなら、「地方の元気に」と叫んでいる各首長さんたちは、地方を席巻しつつある全国チェーンの進出を阻むべきだったのではないか。いまからでも遅くない！全国チェーンのコンビニやらサラ金、居酒屋の看板を駅前から一掃すべきではないか？

先月、スターバックスが島根県の松江に店を開いたという。これでスタバの店のない県は、タカさんの出身県である鳥取県だけになったという。ネットでは「唯一のスタバなし県」となった鳥取の人達は悔しがり、他県の人たちは鳥取をからかう書き込みで随分にぎわっていることを考えると、どうも「全国チェーン進出阻止政策」は、「TPP反対」のような支持は得られそうもないようだが。「地方を元気に」という掛け声はあっても、本音は「都会と同じ金太郎飴」だとしたら−−−「全国チェーン進出阻止政策」は不人気にちがいなかろう。

新幹線に乗ってどこという特徴のない街の駅で降りて、昼は駅ビルの「COCO壱番屋」のカレー、夜も駅前の「和民」で食事して「ルートイン」に泊まる―――それだったらなにも遠くまででかけなくても―――となってしまうのは、タカさんが怠惰である所為ばかりではないような気もする。