ビヨンド・エジソン　　　　 　最相葉月　　　　　ポプラ社

｢絶対音感｣や「青いバラ」「星新一」など綿密な取材に裏打ちされた著者のノンフィクションは、そのテーマ選びや、問題提起に、著者のノンフィクションライターとしての抜群のセンスが感じられる傑作だが、本書も著者らしさが十分感じられる作品だ。

科学の門外漢であると自称する著者が、「科学者とは一体どんな人たちなのだろうか」「科学者とは何を生きがいにしている人たちなのだろうか」といった一般人的な素朴な疑問から、12人の気鋭の科学者たちに取材して、その答えを浮かび上がらせるというこれまた着眼点の面白い作品に仕上がっている。

取り上げられた科学者12人は、いずれも世界を舞台に活躍する若手、中堅科学者たちであり、それぞれの研究分野では超有名人なのだが、正直言ってノーベル賞候補などといって騒がれている訳でもなく、科学者仲間以外には余り知られていない人たちばかりだ。

ひょっとしたら例の蓮舫さんの「仕分け」では、研究費カットされてしまいそうな研究ばかりといってもよいが、それぞれの科学者が、決して恵まれない研究環境の中で、自分の研究の目標を定め、その研究にひたすらまい進する姿はなんとも感動的でもある。

彼等全員が、自らの研究を突き詰めることが、人類の平和にとって極めて重要だ、いう信念をもっていること、そしてその目的の為ならば、「命を賭す覚悟」で取組んでいるという点では共通している。

それでは、そういった信念の科学者たちは、一体、どうして現在の彼等の人格を形成していったかを、ノンフィクションライターらしい徹底した取材と、インタビューから探っていくのだがそこにも12人のある共通点が見出せる。

アフリカ睡眠病の特効薬開発に挑む医師、首長竜研究における世界的な権威、南極の「空気の化石」、顕微鏡を覗いて「生命」とは何かを探る研究等々、さほど日が当たっている訳ではない研究に没頭する人たちに対する、著者の淡々としながらも愛情溢れる眼差しは実に温かく、尊敬に満ちている。

(12年2月発行)