神がいない死体　　　　　上野正彦　　　　　　朝日文庫　

東京都監察医務院の院長を定年退官した著者がその2万体以上に及ぶ検死、解剖経験に基づいて表した著書は多数でこの読書日記でも扱うのはこれが四冊目になるが（「死体は語る」、「ヒトはこんなことで死んでしまうのか」、「死体を科学する」）、やはり死体という極めて特殊でありながら、いずれは自分もなる物についての話は、怖い物見たさ的な興味もあってついつい手が伸びる。皆同じなのだろう、著者の「死体は語る」などはいまも売れ続けているという。

本書もそんな前著とほぼ同工異曲の感は否めない。

著者は「昭和の事件には人情味を感じる死体が多かったが、平成の事件は無味乾燥でクールな死体といえるのではないだろうか」ということを本書のテーマに置いたと言っているが、その趣旨が本書の中で明確にされているとは言いがたい。

元タレントの孤独死、老人のオナニー中の突然死といった検死状況がそれを指すのかもしれないが、それが昭和と平成の大きな違いである−−といった論旨にはつながらないような気がするし。

読者も死体に関する「怖い物見たさ、聞きたさ」で手に取る本なのだから、そんな要望にこたえる検死案件を適当に見繕って―――といった安易な作りになっているようにも思える。

著者の最初の頃の物珍しさも今や薄れ、読者の方が「死体慣れ」してしまったからこそ、そう思うのかもしれないが。