夕映え天使　　　　　　浅田次郎　　　　　　新潮文庫　　　　　

一時期、長編小説作家に変身してしまった感があった浅田次郎の久しぶりの短編集だ。

「蒼穹の昴」「中原の虹」などの長編で読者をうならせた力量は、本書評でも度々取り上げて賞賛したが、正直言って浅田の本領はここにはないなぁ〜と思わせるところがあった。

それは浅田が余りに上手いストーリーテラー「過ぎる」故だったような気がしてならない。長編だと、どうしても長いストーリーの中で、彼の「創作部分」のアラ(無理な辻褄合わせ等の）が気になる部分が出てきてしまう。

それに対して、短編ならば、彼の意表をつく着想、ストーリー性は破綻を見せない内に物語が終わってしまうところがあるからだ。(意表をつくどんでん返しも、短編の方が読者に与える衝撃は強い）

彼の代表作「鉄道員（ぽっぽや）」や「ラブレター」にある「あり得ないようなストーリー」「泣かせどころたっぷりのストーリー」が短編ならば、読者の意表をついたところで完結するのに、長編になると同じような意外性のあるストーリーを次々に重ねて、引っ張っている内に読者も、なんとなく「余りにも作為的」と思ってしまうからではないだろうか。

久しぶりの短編集ということもあって6篇何れも楽しめた。

ただ「夕映え天使」「切符」といった作品は、かつての「鉄道員」と同じような雰囲気をもった浅田らしい作品だが、「鉄道員」のレベルには達していないいささかマンネリも感じられる。

中では「特別な日」の浅田にしては珍しいSFチックなどんでん返しが一番面白かった。