パノララ 柴崎友香 講談社
たいしたストーリー展開があるわけではなく、ありふれた人々のありふれた日常をえがくことで、そこはかとない無常観を漂わせる独特の世界を描く、という柴崎友香の作品は、今年に入ってから、第151回芥川賞受賞の「春の庭」や「きょうのできごと」 「きょうのできごと十年後」など立て続けに読んでいるが、またまた、本書を手にとってしまったのだから、この作家の不思議な魅力が結構気になっているのかもしれない。
いつもの、柴崎友香らしい大きなストーリー展開のないところは変わらないが、本作では、それに加えていくらか心理劇的かつ不可思議さを加えた「奇妙さ」という要素が強く漂う作品になっている。
主人公の田中真紀子は28歳、両親から離れたくて単身上京し、友人のイチローの実家に間借りする。このイチローの家は、イチローの父が自力で建増しを重ねてきたやたらと外階段の多いコンクリート3階建てと黄色い木造の二階建てが無理やり合体させられたような建物だが、その家の住人は、時々全裸で歩き回るイチローの父、そして奔放な女優の母、家にこもりがちの姉、映画オタクの妹、という構成だ。
かつてのテレビドラマ「時間ですよ！」ではそれぞれ個性のある登場人物のちょっとした事件を軸にドラマが進行、毎回、お約束といってよい全員が食卓を囲んでワイワイと話をする場面があったが、もちろん大きな出来事はないと言ってよい不思議な雰囲気のドラマだったが、この柴崎友香の作品も、「時間ですよ！」同様に、この真紀子の間借り先の風変りな一家と真紀子自身、そしてその両親との間にあるちょっとしたエピソード的な出来事のつみ重ねを描くことで展開していく。
それだけに読後感のようなものがたいして残ることはないし、印象も薄いことは事実だが、又、もう1冊ぐらいは彼女の作品を読んでみようかなぁ〜と思わせるところがあるのは、「時間ですよ！」を何となく翌週も見てしまっていたような予定調和的なものが感じられるからなのだろうか。
(15年1月発行)