六大関

惜しくも千秋楽に大逆転を喰って初優勝は逃した鶴竜だが、13勝2敗の好成績で大関昇進を果たした。

千秋楽の夜、NHKテレビの「サンデースポーツ」に出演した鶴竜が、勝っても負けてもポーカーフェースを保っているのは意識してやっているのかと聞かれて「相手に対しての礼儀として表情を表すのは相撲の伝統に反すると教わったので、それを守っている」と答え、横にいた白鵬が「この大関は立派だ！」と褒めたのが印象的だった。

朝青龍や日馬富士といったモンゴル人力士が、勝負がついてからガッツポーズや露骨な表情したりするのは大相撲の伝統を知らないから仕方がないとは思うものの、日本人力士の中にも喜びや、悔しさ、あるいは「しまった」といった表情を見せる力士や、ロボコップのようなパフォーマンスをする力士がいるのを、苦々しく思っていたタカさんにとっては、この鶴竜の「相撲の礼儀、相撲の伝統」発言には感心した。


大関といえば、タカさんは、稀勢の里の後援会員だ。久しぶりの日本人横綱誕生の期待が琴奨菊ともどもかかっている大関だが、春場所を見る限り横綱への挑戦意欲を失いクンロク大関に安住しようとするかの不甲斐ない相撲にがっかりさせられた。入幕したての頃の綺麗な立合いが今場所は、姿を消しているのも「相撲の伝統」をいうモンゴル人大関鶴竜の綺麗で鋭い立合いに比べて残念でならない。勝ちたいという意欲ばかりが先立つ所為なのか、あるいは稽古不足の所為なのか今場所は、立合いが悪いだけではなく終始腰高だった。あんな相撲では―――。

鶴竜の昇進で、来場所からは大関が六人になる。大関六人ともなれば星の潰し合いが激しくなり、相撲が益々面白くなるという見方もあるが、やはりどうしても大関の負け越し、角番といったケースも増えてくるだろう。ただでさえ「大関陣がだらしない」といわれて久しいだけ六大関が却って相撲人気に水を注すことになるかもしれない。

というのも、タカさんが小学2年生の頃、横綱は四人（今でも空で四人の名前を言える。千代の山、吉葉山、鏡里、栃錦の四人だ）いたが、この四人横綱であった昭和30年から33年にかけての14場所中（当時は年4場所）、四横綱全員が勝ち越したのはわずかに1場所のみで、しかも二横綱が8勝7敗というギリギリの星だった。それ以来、平成11年7月から平成12年3月の曙、貴乃花、若乃花、武蔵丸まで7次に亘って、延べ44場所の四横綱という場所があったが、その内、全員が勝ち越したのはわずか8場所のみだ。そんなことから四横綱時期は往々にして「横綱の粗製乱造」だの「弱すぎる横綱」という批判がたかまり、大相撲人気が却って衰えるということも多かった。

負けが続けば引退せざるを得ないが横綱と違って、大関は負け越しても引退を迫られる訳ではない。極端な話、一場所毎に8勝上げておけばいつまでも大関に留まることもできる。それだけに六大関となって毎場所何人かの大関がクンロクだ、勝ち越しギリギリ、あるいは負け越し、角番などということが続くと、折角の豪華な番付も却ってファンの大相撲離れを招きかねないと危惧する。



鶴竜には、来場所こそ、今場所逃した初優勝目指してがんばって欲しいと思うと同時に、稀勢の里にも白鵬、鶴竜と千秋楽まで優勝争いをして欲しいと思う。

（3/29/12 9:00pm S.T.）

2012年3月29日

採用削減と間違ったダイエット

民主党マニフェストにあった｢国家公務員総人件費の2割削減｣は随分前に「断念」となったが、野田内閣になって、消費税増税の前提条件として「2割とはいわないまでもいくらかは人権費の削減をしなければなるまい」という自覚は出てきたようだ。

本音は「削減なんてできない！」だとしても、野田内閣としては、少なくとも「削減努力はしている」というフリは見せたいところだ。

「人件費削減」という目標を達成する為には、早い話が大きく言って二つの手法しかない。人員を削減するか、給与を削減するかだ。

業務の効率化だとか、民営化といった方法もあるにはあるが、民主党政権にはそんな才覚も実行力も期待できないとなれば、やはりこの二つということになるだろう。

ところが「給与を2割削減する」などという荒療治は、官公労という公務員の組合を支持母体にもつ彼等にできる訳もないし（できもしないのに、よくもマニフェストに掲げたものだ）かといって、公務員の人員整理（クビ切り）など尚更できない相談だ。

そんな訳で、政府が打ち出したのが「2013年度の国家公務員採用数を前年度の約6割削減」という人員削減案である。今いる人員を削減する訳ではなく、｢採用人数を減らす」といういわば敵のいない人員削減策だから事勿れ主義の民主党政権にとっては願ってもない「名案」だ。

無駄な人員、無駄な組織を洗い出して、府省庁ごとにメリハリのついた採用抑制というのではなく、ミソもクソも一緒に「全ての府省庁で6割カット」というのだから、こんな削減案ならアホでもできる。（民間企業で、製造部も、研究部も、そして人事部、経理部も全部、6割削減、なんてやっていたらこんな会社は早晩潰れる）


国家公務員組織のムダの本質は、二重行政だとか、縦割り行政といわれる組織体質にこそあるのであって、そこを正せば、「多すぎる公務員数」を是正することは簡単にできるはずだ。民間企業ならば組織効率を徹底的に見直すことによって既存組織の人員合理化を果たそうとするだろうし、組織（企業）の維持のために、必要最低限の（将来を担う）若手の新規採用は優先的に守るだろうに。

若手が入らなくなり、上の人間ばかりが滞留する組織は、5年、10年とはいわずわずか3年位でおかしくなっていく。そんな例を今までどれほど見てきたことか。もっとも、5年どころか3年先にはなくなっているであろう民主党政権にとっては、若手公務員の減少による政府組織の弱体化などどうでもよいことかもしれないが。

数年前、フランスでは組合が既得権益団体として強すぎるために、若者の雇用機会が極端にへっていることで暴動が起きたことがあったし、今も、こういった硬直した雇用環境がかの国の発展を妨げているといわれているが―――。


ダイエットも肥大化した人件費を減らすのも最適の方法は同じだ。

体を壊したり、リバウンドしてしまったりといった失敗をしないためにも、規則正しい（適量の）食事、適度の運動を続けることが必要だ。

運動もせず、だぶついた腹回りの肉をそのままにして食事の量だけを6割減らすのでは、「体重が減った」と喜ぶと同時に入院！などということになりかねない。

民主党がスケープゴートにしたがる官僚（公務員）だが、官僚組織を叩くことが、日本という国を浮上させる訳でもないし、官僚を叩けば民主党の人気が上がるという時代はもう去った。

それにしても、莫大な借金を背負わされ、将来の年金にも不安があるといわれる若者たちが、就職機会までも奪われて、尚、黙っているということが、なんとも不気味だ。

（3/28/12 9:00pm S.T.）

2012年3月28日

悪の養成所

巨額の年金資産を消失させた「AIJ投資顧問」の浅川社長が、衆院財務金融委員会に参考人として出席し「最初からだますつもりは全くなかった」と弁明した。

2000億円もの資金を預かり、「高利回りで運用している」と偽り続けた挙句にほとんど全額がどこかに消えてしまったという。この間の事情を聞くかぎりこれは単なる投資の失敗等というものではなく、立派な（？）詐欺事件と言うべきだと思う。

事件が発覚した2月以来、淺川社長は何故逃げ隠れしていたのか、損失が出ていることを本人は把握していたにも係わらず、年間7千万円もの報酬を取り続けていたという彼のモラルとは一体いかなるものなのか。どんなに弁明しようとも、詐欺師が厚顔にも悪銭を懐に入れていた、というのと何の違いもないのに「最初からだますつもりは全くなかった」などというぬけぬけと言い逃れようというのだから―――。(詐欺師は皆、「騙してはいない」とか「騙すつもりはなかった」というものだ)

簡単な話しだ。淺川社長という人、2000億円もの巨額詐欺を働いた「悪人」だということなのだ。

ところで、浅川という人、野村證券OBだという。野村證券OBといえば、オリンパスの巨額飛ばし事件で逮捕されたアドバイザー、いまだに海外を逃げ回っているといわれる飛ばし指南役も野村證券OBだし、数十億円といわれる報酬を懐にした「悪の指南役」であったという点で浅川さんと共通項を持つ。

その他にもつい最近、中央三井の巨額インサイダー事件で逮捕されたのも野村OBであった。これだけ次々と野村OBが不正や詐欺で逮捕され、告発されているとなると、もうこれは偶然とばかりいえず、野村という企業そのものが「悪の養成所」になってしまうような体質をもっていると考えざるを得ない。

思い返せば、バブル期に「推奨銘柄」と称して自社で仕込んだ株を顧客に売りつけ、「客ころがし」で莫大な利益を上げたと批判されたこともあったし、暴力団と組んで、東急株で大儲けしたといわれたのも野村證券だった。90年代には「飛ばし」や｢損失補てん｣で日本の証券市場を混乱におとしいれたのもこの会社だった。

あれだけの問題を起こしコンプライアンスを強化したはずだったのに、これだけの悪徳金融マンを次々と排出しているとなれば、やはり彼等の体質は何も変わっていなかったといわれても仕方なかろう。AIJやオリンパス、中央三井での不祥事は氷山の一角に過ぎないのではないかという疑いももたざるを得ない。

ロッキード事件の頃、若手商社マンには縁談が来なくなったといわれたことがあった。世間の親たちが「大事な娘を、悪徳商社マンの嫁にする訳にはいかない！」と商社マンを毛嫌いしたからだったが、年収1千万超といわれるエリート野村證券マンも「悪徳證券マンに娘はやれない！」などと言われているのではないだろうか。

（3/27/12 9:00pm S.T.）

2012年3月27日

ケニアで4位

ケニア陸連は今年1月、ロンドンオリンピックマラソン代表選手最終候補として男女各6名を発表した。4月末迄にはこの男女各6名が更に各3名に絞りこまれる正式にケニア代表として発表される訳だが、今や世界のマラソン界を席巻しているケニアの代表というのだからこの男女6名がロンドンの表彰台を独占する可能性は高いといってよいだろう。

オリンピックでのメダル獲得が、貧しい国ケニアの青年たちにとっては破格の「富と名声」を約束するものであることを考えれば、ケニア4位で代表になれなかった選手との差は、まさに天国と地獄の差と言ってもよいかもしれない。

ちなみにオリンピック参加標準記録を持つ150人のケニア男子選手の中から選ばれた6人の内、ベストの自己タイムは、ジョフリー・ムタイ選手の2時間3分2秒、上位4人の自己ベストは2時間3分台、6番目の選手でも2時間5分4秒だ。

この記録からすると2時間4分を切っていないケニア人男子選手は「富と名誉」への切符を手にすることはできないということになる。

2011年に2時間7分を切った選手は世界で20人いるが全員がケニア人、日本の男子代表で最高タイムを持つ藤原新選手の記録2時間7分48秒は、ケニア選手の中では30位にも届かないという。

そうそう、お笑いタレントの猫ひろしが、ロンドンオリンピック男子マラソンのカンボジア代表として決定したというニュースが伝わってきた。国籍をカンボジアに移しコツコツと修練を積んできたであろう彼の根性には脱帽だし、心から応援したいとは思うのだが、１国3名という代表選手枠の制限によってオリンピック切符を手にいれられなかったケニア第4位以下の選手たちのことを思うと、複雑な思いにもかられる。

ちなみに猫ひろしの自己最高記録は、2時間30分31秒と、オリンピック参加標準である2時間18分にも遠く及ばないが、「標準記録に達した者が一人もいない場合は、一人だけ参加できる」という特例がカンボジアに適用された結果だという。

スポーツ選手が国籍を変えてオリンピック等に参加する例は世界的には珍しいことではないというから、猫ひろしの今回の快挙（？）は批判されるものではない。むしろこれを参考にして、日本も将来、ケニア選手をスカウトしてきて日本代表としてオリンピック参加させるなどという時代が来てもよいかもしれない。

現にラグビーなどではワールドカップ日本代表選手には外国人選手が外国籍のままで参加しているし、駅伝などでは高校生からケニア出身の選手が活躍していることを考えれば、「参加することに意義がある」などといわずに日本も積極的に外国人選手を日本代表に選び「オリンピックでのメダル獲得」に本腰を入れるというのも一案ではないだろうか。（日本の国技、大相撲も既に上位5人は外国人だ）

「いやいややはり日本代表はやはりネイティブ日本人でなければ！」という人もいるだろうが、それならば、東京マラソンを｢市民参加型の国際マラソン｣と名打っておきながら、その翌日に「藤原、日本人一位！！」と大騒ぎして優勝したケニア人選手（マイケル・キビエゴ選手―――彼はケニア代表に選ばれておらず当然、ロンドンオリンピックには参加できない）のことを一言も触れないといったウソっぽいことをせず、「東京マラソンはネイティブ日本人のみのローカル競技会」に格下げすべきだと思う。