どうすりゃいいんだ！

東日本大震災が「想定外」の震源、そして規模で起きたことで原発関係者はもちろんのこと地震学者といった専門家、政府や地方自治体、あるいは企業や個人にいたるまで、「想定外」という言葉で見るべきリスクを見ないですませていた人々、すなわち日本人1億3千万人が総反省を迫られたこの1年であった。

その反動は、想定外などという余地を全くと言ってよいほど排除し「考えられうる最大限のリスクに備える」という、震災前とは180度違ったリスク想定の連発となって、再び日本中が大騒ぎになっている。

西日本で想定される東海、東南海、南海の三連動地震の規模は、震災前の想定最大マグニチュード8.7が9.0に修正され、この地震による津波の被害地域の面積、津波の高さともに従来予測の倍近くに修正された。高知県の太平洋岸ではところによって津波の高さは38メートルと発表されていてこの地域に住む人たちの間では動揺が広がっている。相模湾での地震、津波の予測数値も大幅に上方修正（？）され、横浜駅周辺、鎌倉市では水没する地域の予想範囲の広がりを聞かされた住民は夜も眠れないのではないだろうか。東京湾北部（市川市の海岸沖辺り）での直下型地震の想定も発表され、首都圏の大部分が震度7、あるいは震度6とこれまた従来想定よりはるかに激しい揺れが予想されるとの発表で、しかも津波水没地区の予想地図を見る限り東京湾岸は「ほぼ水没」といえる状態だ。

この他にも北海道沖、東北における異常な地震頻発も予想されており、こういった地震予測を鵜呑みにすればもはや日本列島に住むこと自身が、導線に火がついた爆弾を抱えているかのようなリスクといわんばかりである。

見据えるべきリスクに目をつぶり、原発事故も、震災、津波も「想定外」という言葉でその責任を逃れた政府をはじめとする多くの関係者が（地震学者たちも恐らくその中に含まれるだろう）おおいに「反省」し厳しく見直した結果、想定規模が大きくなったというならそれはそれでよいことというべきだろうが、何となく「できるだけ予想を大きく言っておけば、もし本当に地震や津波が起きたとしても、自分達の責任は問われないで済むだろう」などと考えて「考えうる最大級の被害規模」を予測発表しているのではないか、と思えなくもない。(東京湾北部地震については過去に発生したという記録はないが、「10万年前に、起きたとおもわれる痕跡がある」という学者の解説を聞いて−−−自分としては本当にどこまで警戒すべきなのか大いに悩んでいる)

原発にしても福島での事故のことを思えば、これだけの揺れや、津波の想定が出ているとなれば、地震列島の日本で再稼動することは最早不可能という結論になるだろうし、西日本の太平洋岸沿いの町や村は全て放棄して住民は、海抜20メートル、30メートル以上の高台に移住しなければならないということになるだろう。予測を信じるなら正直行って日本列島に人の住めるところなんてなくなるのではないだろうか。

高台移住を町ぐるみで行うにせよ全住民が移住に賛同するなどということは考え難い。高齢者などの中には「もう、老い先短いからこのまま海岸近くに住みたい」という人もいるだろう。そうなると町は、道路や水道などのインフラは高台と旧市街というダブルで維持しなければならなくなる−−−。財政難の折、そんなことができるだろうか。

こうなったら、グランドキャニオンに柵を設けず「ここから先に行くのは自己責任」という看板があるだけというアメリカを真似て、「海抜、30メートル以下に住むのは自己責任」といった看板でも立ててつきはなすなどという手もかんがえなければならないが―――「一人でも反対がいたら橋をつくらない」などという美濃部流コンセンサス社会である日本ではそんな強攻策は無理だろう。

「考えられる最大の被害予測」の発表も結構だが、「だからどうすればいいのか」が全く示されず（精々、「なるべく早く高い所へ避難」などという意味もない掛け声だけだ）只々、「xx年以内に起きる可能性は80％」などと言われても、徒に不安が募るばかりだ。

相次ぐ被害想定の上方修正は、いかにも責任ある態度のように見えて、これこそ究極の無責任ではないかとも思う。

（4/03/12 9:00pm S.T.）

刺青公務員

大阪市の福祉局職員が児童に自分の刺青を見せて怖がらせた、というウソみたいな話があり、長年積もり積もった(一部であるにせよ）大阪市職員の質の悪さと、それを助長してきた歴代市政の怠慢とが問題となっている。

中には市職員となってから刺青を入れた者もいて職場でお互いがその刺青を見せ合って自慢していたというから、こうなるととても「公僕たち」の職場とはおもえない。市役所は、まるで暴力団事務所のような所だという非難の声が上がるのも仕方がない。

一説によれば大阪市には少なくとも200人の「刺青職員」がいるという。橋下市長は「刺青を消せ！　消さなければクビ！」と息巻いているというが、刺青は市職員としてモラル的に問題があるとは言え、刺青そのものは、犯罪ではないし、刺青の有無を調査するとなれば「プライバシーの侵害」などと騒ぎ出す「人権派」も出てくるだろうから、市長のいう通りに刺青職員排除という訳にはいかないかもしれない。

ところで、いかに大阪が特殊だったとはいえ、200人もの刺青職員がいるとなると、他の市町村あるいは国家公務員の中にも少なからぬ刺青者がいると考えてもよいのではないだろうか。

大阪市の職員組合同様、権利ばかり主張して評判のよくない組合といえば、日教組など数多くあるが、案外、日本中の先生達を調べてみると刺青を入れた「コワーイ」先生が相当数いる−−−という可能性も考えられる。教職試験の際に刺青の有無をしらべる訳にはいかないとなると、教育上よろしくないイレズミ先生の排除も一筋縄ではいきそうもない。

今でこそ、入れ墨に対する社会認識は厳しいが、人類の歴史とともに始まったといわれるこの風習は、かならずしもタブー視されるようなものではなかった。

太古の時代の人類は戦いの際に敵を威嚇する目的、あるいは部族の団結を表す為、そして装飾の為に入れ墨を行っていた。近代に至っても自己の属する集団を表すアイデンティティーシンボル、あるいは死体となった時の識別の為（漁師や兵士が刺青をしていたのはこの目的もあったという）といった様々な目的で行われていたこともあったが、現代のように「アウトローの象徴」といった見方をされるようになったのは、世界各国で囚人の識別の為に刺青をある種の刑罰として入れたことによるとも言われている。

現代では、ニューカルチャー等では、入れ墨、タトゥーが既存カルチャーに対する反抗の象徴として捉えられているとか、異形の美としての価値観を表すといった見方もあるが、やはり世界的に見てもこの風習は「野蛮」なものとみなされ、「まっとうな人間はしない」ものというのがコンセンサスとなっているようだ。

若気の至りで軍隊に行っていた時期に上腕に入れた刺青を、暑い夏の間でも長袖で隠していたアメリカ人の一流ビジネスマンがいた。アメリカでもやはり「エリートは入れ墨なんかしない」というのが常識のようだ。

小学校低学年だった今から半世紀も前、タカさんは、隠居していた母方の祖父と早い時間に銭湯に行っていたが、3時頃の一番風呂には、立派な刺青をした爺さんたちが一杯いたものだった。あの頃は江戸の職人たちにとっては刺青はその心意気を表すものだったからいっぱしの職人は、皆入れ墨を入れていたものだった。（立派な龍の入れ墨も、しなびた爺さんの背中ではミミズのようになってはいたが）

大阪のイレズミ公務員も、自分達の公務員としての何かの心意気でも表しているつもりなのだろうか。

（4/02/12 9:00pm S.T.）

匿名による言論

「アラブの春」の大きな起爆ツールとなったソーシャルネットワーク(SNS)であるFacebookの世界会員総数は9億人に達し、しかも今も日々その会員数は急増しているといわれる。これだけの会員数を誇るFacebookだが、日本ではそれほどの伸びを見せていない。08年5月には、早くも日本語サービスが公開されたにもかかわらず、その後4年間で日本での登録者数は未だに500万から600万人と総人口に比べてかなり低いレベルで推移している。

日本でFacebookが普及しない理由としては、アラブ地域などに比べて、日本には既に、mixi、モバゲータウン、GREE、Twitterといった既存のSNSが普及していた為に後続のFacebookがそれほど必要とされなかったこと、あるいはFacebookが英語を基本コミュニケーション言語としているのに対して日本では英語で世界とコミニュケーションできる人口、あるいは英語でコミニュケーションする必要を感じる人口が少ないことなどがあげられている。（日本人同士が、日本語でコミュニケートできれば十分だ！という日本人が多いということ）

しかし、タカさんはFacebook不振の一番の原因は、Facebookユーザーとなるには、実名登録をする必要があることなのではないかと思う。

Facebookのユーザー登録画面を開いてみればよく分かるが、まず本人の実名と顔写真、実社会でのプロフィールの登録が義務づけられている（しかも登録必要事項がまさに根掘り、葉掘りとやたらと細かい）。多分、通称などでの登録も可能だとは思うが、あくまでもFacebookの基本哲学が「匿名に隠れた無責任なコミュニケーションではなく、お互いがプロフィールを明らかにした上での「ガチな（？）」意見交換の場」であることを考えると通称や偽名を使うことはルール違反だろう。

しかし、実名や詳細なプライバシーをネット上で明らかにしてよいものなのか−−−となると、学校裏サイトだの、2Chあるいは、ネットにおける「荒らし」の実害の話を知っている日本人の多くには躊躇われるところだ。

変な言い方だが、日本人は昔から、匿名や偽名に隠れた上での発言は得意だが、堂々と個人名で、あるいは個人プロフィールを明らかにした上での発言は（選挙に立候補するならともかく）苦手だし、こちらの名前を明らかにして相手をクソミソに批判するなどという欧米流の論争になれてはいない。　Facebookのプラットフォームは、日本の風土にはどうも合わないように思う。

太宰治の｢人間失格｣に、『「それは世間が、ゆるさない」「世間じゃない。あなたが、ゆるさないのでしょう？」「そんな事をすると、世間からひどいめに逢うぞ」「世間じゃない。あなたでしょう？」「いまに世間から葬られる」「世間じゃない。葬むるのは、あなたでしょう？」』という有名な一節があるが、日本人はいまでも、「世間」だとか、「世論」といった匿名に隠れて他人を批判するし、アメリカの新聞では社説でさえ多くの場合、署名入りであるのに対して日本では、社会の公器を名乗る新聞ですらほとんど全ての記事が無署名、すなわち匿名(朝日新聞だとか読売新聞という偽名に隠れたある意味では無責任な言論)だ。「匿名や偽名に隠れて発言し、批判からは我が身を隠す」という姑息な言論が日本人の言論の本質だとなると淋しい気はするが−−、我が身に翻って考えてみたい課題だ。