五輪便乗

確かに慶事ではあるのだから東京五輪開催決定の余波が色々なところに波及する事情も当然だと思う。

五輪関連株を中心として株式相場の上昇、海外から押しかけるといわれる1000万人ともいわれる旅行者の受入れ設備建設を当て込んでの湾岸地区を中心とした不動産バブルへの「思惑」、リニアの繰上げ営業運転のこれまた期待感も高まっているだけに、東京のみならず地方経済への波及への期待感も高まっているという。

景気は「気」から、といわれるけれどロゲ会長のあの「トーキョー」の一言以来、あっちでもこっちでもうわっついた感じさえする強気の虫が蠢き、「安倍さんも、汚染水問題であんなに太鼓判を押してしまって大丈夫なのか？」等といったちょっと冷めたコメントを発すると、皆から冷たい目で見られる−−−等というまさに国民躁状態ともいえるような状況だ。

10月初には安倍さんが決断するといわれる消費税の予定通りの値上げの判断も、五輪決定、経済指標の好転、アメリカのシリア攻撃回避の動き等々もあって、どうも「GO」サインとなりそうだ−−−となって財務省のお役人たちはニンマリしているとか。

消費税が3％上がるだけで8兆円の増収となるというのだからお役人が「しめしめ、その分、多く使える！」と手ぐすね引いている気持ちはわからないではないが―――本来、消費税の値上げ分は「社会保障費の増額分を補う為」という目的だと説明していたことを忘れないで欲しいものだ。

そんな心配がふっと頭をもたげたのは、今朝朝刊の一面に「スポーツ庁創設へ！」という記事が踊っていたのを見たからだ。従来、オリンピックは文科省、パラリンピックは厚労省の所管となっているが、東京開催に向けてこれを「一省庁にまとめて一元的に推進する為」だと政府は説明している。スポーツ庁の創設と同時に新たな大臣ポストである「五輪担当相」迄置くのだそうである。

五輪祝賀ムードで湧く今だけに、「スポーツ庁、五輪大臣ポストの増設」といった。ちょっと前までは与野党各党が口を揃えていっていた「国家公務員数の削減」に真っ向逆らうような話がでてきても、「なんで新たな役所や大臣を置く必要があるのだ」という一見政府の「五輪へ向けての意気込み」に水をさすようなケチはつけ難い。だからこそ、この祝賀ムードに便乗した役人たちが考えた「悪だくみ」こそスポーツ庁新設なのではないか−−−とも思える。

スポーツ庁をどこの省の下に置くのだろうか。「スポーツ庁」の言いだしっぺの文科省は、当然自庁の下に置くつもりだろうが、いままでパラリンピックや身障者行政に携わってきた厚労省が黙っているとは思えない。スポーツ庁の長官という椅子一つ、新しい部局の幹部の椅子、を巡る両省の争いは大変な見ものになるだろう。

喧嘩両成敗ということでスポーツ庁を内閣府の下においたにしても、新省庁誕生に伴い、あたらしい権限とポストが生まれ、五輪が終わった後も未来永劫その権限や椅子を彼等が手放さないことは「官僚の総職員数は、なすべき仕事の量の増減に関係なく増加する」というパーキンソンの法則からも明らかだ。

祝賀ムードに酔っている内に、頭のいい役人や政治家が消費税増税分を自分達のフトコロに入れるための悪だくみを次々と繰り出してくるのではないかとの疑念が浮かぶのだが−−−。

（09/10/13 9:00pm S.T.）

被害者なき犯罪

普通「犯罪」といえば、加害者と被害者がいると思われるが必ずしもこの二つがそろわなくても「犯罪」だといわれるものは多い。

例えば、売春や賭博、麻薬やポルノといったものには被害者はいない。(被害を言いたてるものはいるだろうが)

武器の所持とか不法移民、脱税や談合といったものも例えば善良な市民だとか、納税者といった者を「彼等こそ被害者だ」と言い立てることは出来るし、往々にしてそういう論法が使われるが、殺人や窃盗のような意味での被害者、加害者という概念とは随分違ったもので、見方によっては屁理屈に近いともいえる。

一部の国にある背信罪にしても、「被害者は、名誉を傷つけられた神様」などという訳でもないだろうから、外国の国旗を焼いた場合にとわれる国章毀損罪等などと同じように被害者がどうもはっきりしない犯罪である。

社会道徳を守る為だとか、安寧な社会秩序を維持する為、等という理由で「犯罪である」と定められたものの具体的な被害者がはっきりしないこの主の犯罪も、もちろん罪刑法定主義（法で定められた物に反すれば罪になる）という刑法の大原則に基づいて「犯罪だ」とされているものではあるが、それこそ、為政者側の以降次第で犯罪になったりならなかったりするという意味では「個人の自由」という民主主義社会の大原則に真っ向反する可能性はある。

ある国では宗教の定めるところによって女性は公共の場ではベールを被り髪、時には顔を隠さなければならないと定められている。裸に近い恰好をした女性が「自由」に歩くことさえ許されている国から見れば、ベールを被らなければ犯罪に問われる国は、女性の自由を束縛する、とんでも無い国ということになる。そもそも、女性がベールを被っていないからといって「誰に迷惑がかかるというのだ！」という議論もでてくるかもしれない−−−しかし、その宗教国の罪刑法定主義ではそう決まっている以上犯罪は犯罪である。

麻薬や売春、ポルノ、賭博、に至っては、これらを合法化している国もある。方やどこにも被害者のいないと言ってよいこれらの「罪」を犯せば、極端なケースでは死刑、という国だってある。方や合法、方や死刑、というのだから随分と極端だ。

改造したモデルガンを自室に飾ってよろこんでいたおじさんが先日逮捕されて厳罰に処せられたという。厳しい銃刀法規制があるからこそ日本の治安は維持されている、という事実もあるからこのガンマニアおじさんの肩をもつ気はさらさらないけれど、人口2億6千万のアメリカには合法、非合法を合わせて3億丁の銃器があり、銃による殺人被害者は年2万人に及ぶという。

それに比べたら（比べるのも変だが）、自室の壁にモデルガンを飾ってニンマリしていたおじさんの被害者はゼロなのに―――何で厳罰なのかなぁ〜等と思わないではない。

（09/09/13 9:00pm S.T.）　

2020年東京オリンピック

64年の東京オリンピック以降、日本は計4回、次の開催地として立候補している。

88年の名古屋、08年の大阪、16年と20年の東京だが、前3回の内、名古屋はソウルに惨敗、08年大阪と16年の東京も惨敗といっていい負け方であり、なんだか日本のオリンピックに対する猛烈な片思いが、ヨーロッパ貴族たちが牛耳っているといわれるオリンピック委員会に、毎回コケにされ、バカにされているようにさえ思えて、「ええぃ、そんなにまでしてオリンピックなんか来て欲しくはねぇやぃ！」といった気分にさえなっていたのは事実。（参照：「やめようオリンピック」6/04/12、他）

負癖のついていたオリンピック開催地争いだけに、今回も最終投票直前に「原発汚染水問題がネック」などという報道を見て「今回も、また土壇場で冷水を浴びせられ、東京はいい物笑いの種にされるのでは−−−」などという弱気の虫も起きていたのだが−−−。

朝5時過ぎに起きてテレビを点けると「東京五輪開催決定」とのテロップが流れていたのでなんだか自分もミーハー的に思わず「ヤッター！」等と叫んでしまった。

前回、東京オリンピックはタカさんが高校2年生の時だった。高校に券が回ってきたこともあって雨の国立競技場に陸上競技を見にいったこと（一体どんな種目をやっていたのかの記憶はきわめて曖昧だ）、男子マラソンを京王線に乗って追いかけて生アベベ、生円谷を見たことなどをよく覚えているし、女子バレー決勝の東洋の魔女達や体操のチャスラフスカや、重量挙げのジャボチンスキー等という名前も鮮明に思い出すが、なにせいまから50年近く前のことだけに今、50代半ばより若い世代にそんな話をしても、「昔、日露戦争があって、敵の将軍にステッセルとかクロパトキンというのがいた」という話を聞かされるのと同程度の意識しかもてなくても当然なのだろうと思う。

「オリンピックなんかやるだけ騒々しい」なんてしらけたことを言っていたタカさんだが、最近、前回には勿論影も形もなかった娘が「でも、私は未だ見たことがないから、東京に来てほしいなぁ〜」と言っているのを聞いて、そうか、娘の子供達、すなわち孫達にも、昔タカさんがそして娘の母親である我が妻たちが経験したあの「オリンピック」の思い出ができるなら、自分も一緒になって2020年の東京オリンピック開催決定を寿ぐべきではないか、とおもうようになっていた。

景気の先行きの話なんて天気予報と同じで全く信用はできないけれど、オリンピック開催ともなれば公共工事などが盛んになりそれに従って景気も上向くのでは−−−？などという話もあるし（まあ、東京が落選するよりは、当選の方が景気にはプラスだろうとは思うが）、工事による喧騒とか、テロに対する不安、原発問題による電力不足懸念等々、課題を言い出せばキリのないオリンピックではあるが、まあ、差し当たって日本の先行きの景気にとって悪材料ではないだろうとは思える。

そんなこんなでもあり、7年後に孫達がオリンピックをその目で見られるようになること、そして少しは景気にとって良い材料になるであろうことに期待を込めて、今晩は東京オリンピック開催決定に祝杯を上げるとしよう。