行っておけばよかった

東京に住んでいる人なら「東京23区の名前を全部言えるか」などというクイズをやったことがあるのではないだろうか。自分の住んでいる区の周辺を中心にスラスラと何区かの名前は出てきても、残り2-3区になると詰まってしまうという人は多い。

タカさんは小学生時代、文京区にいたし高校は杉並だったこともあって都心及び都の西部の区の名前はでてくるが、神奈川寄りの太田、品川、目黒、それに埼玉寄りの板橋とか足立辺りが中々出てこないことがある。

ロスに駐在していた時、アメリカ人の同僚たちと一杯飲んでいた時、彼らが「全部の州名を言えるか」という座興を始めた。州は全部で50もあるから中々大変だ。連中、西部寄りの州名とか、独立当時の13州(多分学校でこの辺は習うのだろう)は（小さい州にもかかわらず）案外、スラスラ出てくるのだが、やはり残り幾つかになると中々出て来ない。（中西部の州は、人口も少ないこともあって中々出て来ないようだった）

そんな時、タカさんが「アイオアはまだでていないよ」といったら、連中「それ、それ！」と感心した目でみてくれた。

タネを明かせばタカさんの大好きな映画の2作品、「マディソン郡の橋」と「フィールド・オブ・ドリームス」の舞台がこの州だったからタカさんにとっては極めて親近感の持てたからにすぎないのだけれど−−−。

その後、ひょんなことでアイオアに行くことがあって(仕事で1泊しただけだったが)この州のニックネーム（「コーンステート」―――とうもろこし州）であるどこまでも続くとうもろこし畑の中のハイウェーを走ったけれど、「マディソン郡の橋」の舞台となったあの屋根つき橋も、「フィールド・オブ・ドリームス」のロケの為に作った野球場にもいけなかった。「いや、又近いうちにアイオアには来るだろうからその時に行けばいいや」と思っていたのだが、結局あれから一度もチャンスがないままに帰国、リタイアした今となってはこれからもアメリカに(遊びに)行くことはあるだろうが、わざわざ中西部のとうもろこし畑しかないアイオア州に行くことはないと思う。あの時、無理をしてでも1日、2日旅程を伸ばして憧れの屋根付き橋と、野球場を見ておけばよかったと残念でならない。人生何事も、手近にチャンスがあるならそれをつかまないと後で後悔するということなのだろう。

もう行けないだろうと思うと益々、あの屋根付き橋と球場への憧れは募る。

マディソン郡の屋根付き橋でなければ、シカゴからセントルイスにかけて、あるいはオハイオなどでは見たこともあるし渡ったことある（スイスのルッツェルンにも有名な屋根付き橋があった）それでも、やっぱりマディソン郡の橋でなければ−−−というこだわりは消えない。

「フィールド・オブ・ドリームス」のロケに使われたあの球場は、売却されてしまったというニュースを何年か前に聞いたが今はどうなっているのだろうか。ああ、あの時、行っておけばよかったのに−−−という思いは野球場がもうないとなると「自分は一体なんていうもったいないことをしてしまったのか！」という慙愧でさえある。

あの映画でも、ケビン・コスナー演ずる主人公は、10代で父と諍いを起こし家を飛び出し、その父と和解しないうちに父が亡くなったことで深い後悔の念をもっているという設定だった。

その彼がトウモロコシ畑を潰して作った野球場にプロ野球選手を目指していた若き日の父が現れるというのが、ラストシーン近くだ。

父：「ここは天国かい？」　

子：「いいや―――アイオワだよ」

父：「天国だと思ったのだが−−」

子：「天国ってあるの？」

父：「ああ、あるとも、それは夢がかなう場所だ」

最後に父とキャッチボールをしてからもう50年以上が経つ。もっと一杯やっておけばよかったとここでも後悔が募った。

（11/21/12 9:00pm S.T.）

覚悟のほど

総選挙後には首相に返り咲く可能性が高いといわれる自民党安倍総裁だったが、ここにきて各種世論調査によればその人気、期待度にはかげりが出てきた。世論にとっては「お腹が痛いから」と突然政権を放り出したという安倍さんの前科の記憶も、4年余りの月日とその後の民主党政権のていたらくもあって随分薄らいでいたようで、自民党総裁選後の「首相に相応しい人」ランキングではそれまで一位だった石破さんを抜いてトップに躍り出た安倍さんだったが、党首討論での「16日に解散しましょうよ！」という野田首相の乾坤一擲の迫力にひるみその場で即答できなかった「覚悟の無さ」で、多くの国民に「本当にこの人に又任せて大丈夫なのだろうか？」という疑念を持たせてしまったようだ。

この週末に行なわれた各報道機関の世論調査では「首相に相応しい人」として安倍さんを挙げた人は、次期衆議院選挙での投票先として「自民党」を挙げた人の割りには少なく、「野田首相」を挙げた人との差は一週間前に比べて大幅に縮小している。しかも、総裁選では党員投票ではトップだった石破さんが再び「首相に相応しい」ランキングで上位に進出してきたのも気がかりだ。「党員の支持では負けておきながら、派閥長老の力で総裁選に勝った」といわれる安倍さんへの一般国民の期待度は、安倍さんのはしゃぎぶりほどには高くないようだ。

民主党は自民党との差別化を意識してか、次回総選挙で「脱世襲」を全面に打ち出す方針らしい。先の総裁選での候補4人が全員世襲、現党幹部も大半が世襲議員という自民党にとってはやはり痛いところであり、民主党の作戦は、世襲の申し子ともいえる安倍さんへの少なからぬ逆風であることは確かで人気低下の一因になっているのかもしれない。

それにしても、あの党首討論における野田さんの狙い済ました一撃は、やはりたたき上げの政治家らしい裂帛の気合が感じられたが、次期首相となればまさに国の命運を背負って瞬時の判断が必要となるにもかかわらず、即答を迫られながら目が泳ぎ当惑の表情を見せ即答できなかった安倍さんは全国にその「世襲のお坊ちゃん」ならではの覚悟の無さを見せてしまったように思う。

安倍さんが、建設国債の発行、国債の日銀買入れなど際限なしの金融緩和、インフレターゲット導入といった次期政権経済対策のリップサービスをしているお陰で株は上昇を続けているけれど、この安倍経済対策に対してばら撒きの本家ともいえる民主党の野田さんが「こんな禁じ手ばかりでは財政規律が守れない！」と噛み付いているのだから、この二大政党のばら撒きを巡るドタバタは笑わずにはいられない。

野田さんが指摘するまでもなくこれらの安倍経済対策はどれも禁じ手であることは財政学の教科書には書いてあることだが、世襲のお坊ちゃんは財政学の勉強などしなかったのだろうか。

ちなみにインフレターゲットというのは、景気のバロメーターであるインフレ率を上げるという政策だ。気温が低いからといって、寒暖計に息を吹きかけてその目盛りを上げても気温は上がらないようにそのアホらしさは子供にも分かるはずなのに。(導入して実際に効果が出ている国はない）

いや、本当に安倍さんで大丈夫なのだろうか−−−。まあ、他に適任者がいる訳ではないけれど−−−。