シーズン終了

｢勝ちに不思議の勝ちあり、負けに不思議の負けなし」ということばは、肥前平戸の藩主であり剣客としても知られた松浦静山の言葉だ。「成功か、失敗か」の決め手は紙一重のものであることを言い表した中々の名言だとおもう。

あまたの恋敵を尻目に彼女のハートを射止めたのは―――大してイケメンでもない、冴えない男だったりすることはよくあるし、株で大儲けしたのは、偶々付き合っていた彼女の名前(例えば、彼女が豊田さんや本田さん、松下さんといった)と同じ会社の株を買ったから―――等といった具合に、「不思議な勝ち」ならいくらでもある。

しかし、逆にこれが負けという結果になれば、「イケメンでもない冴えない男の俺が彼女を射止めるなんていうことができる訳はなかった」とか「よく調べもしないで行き当たりばったりで株を買ったのでは損をするのは当たり前」などと「失敗の理由」はいくらでもあげることができる。｢不思議の負け」というのは確かにない。

プロ野球のレギュラーシーズンの日程が全て終了、タカさんの贔屓チームである巨人はセリーグでぶっちぎりの優勝を決めたが、もう一つの贔屓チームである千葉ロッテは、シーズン折り返し時点では貯金15で首位を走りながら後半にきて大失速、最終成績は5位に終わってしまった。「昨年のリーグ最下位に比べれば5位なら一つ上がったじゃないか―――」なんていうからかいの声も聞こえるが、なにせ前半のあの勢いの記憶があるだけにクライマックスシリーズにも残れないBクラスで終わったことに、タカさんの傷心の度合いは半端ではない。

巨人の優勝が「不思議の勝ち」なのかどうかは議論の分かれるところながら（4月、5月のていたらく、小笠原の不振、清武問題、原監督の暴力団への資金提供問題等々からかんがえれば「不思議な勝ち」という声もあるだろう）、やっぱり優勝という結果からみれば「勝つべくして勝った」と思える点は多々ある。

しかし一方、千葉ロッテの5位、要するに「負け」には不思議な負け、という要素はないといえよう。

先発5人衆＋α（成瀬、唐川、藤岡、グライシンガー、渡辺俊、ペン、小野）、中継ぎ、押え（益田、中後、大谷、中郷、香月、伊藤、荻野、薮田、etc）の中でシーズンを通して活躍できたのはほんの数えるほどで、唐川や渡辺、中後などは後半戦では一軍登録さえなかったし、その分酷使された中継ぎ陣は次々と脱落してしまった。投手陣のガス欠に加えて、打撃陣、特にベテラン陣の井口、サブロー、大松、今江といったところの不振（不信ともいえる）は、酷かった。1億円以上の年俸を取っているベテラン人が皆、打率2割前半（大松に至っては1割台）というのだから。阪神が城島、金本といった高額プレーヤーの不振で5位に甘んじたのと同じだ。

それでも、投手陣でいえばグライシンガーや小野のように好投しつづけた投手もいたが、何せ角中、根元をのぞけば2割そこそこの打撃陣では勝ち星もつかないからそのうち投手陣もやる気を失ってしまった感がある。（まあ、そんな中で大谷や中郷、益田等の活躍は救いだったが）

まあ、そんなこんなで昨夜の最終戦(タカさんも現場に駆けつけていたが)で、西村監督は辞任を発表した。投手陣を立て直せなかったこと、少ないヒットを得点につなげる工夫がほとんどなかったこと（ワンパターンのバント戦略、走塁指示のミス続出といった）、不振のベテランばかりを偏重して若手、中堅を育てようとしなかったこと（角中、根元のような選手をもっと育てるべきだった）等々、考えれば3年前に日本一になったとは言え、二年連続の後半失速、Bクラスという結果は、やはり「首脳陣の責任」ということになるだろう。「負けに不思議の負けなし」であり、政治と違って責任者が失敗の責任を取るのはスポーツのよいところだ。

そうはいっても千葉ロッテ一筋31年という西村監督がチームを去ることには、5位という結果に終わり傷心、怒りで一杯だったタカさんも一抹の淋しさを感じる。ご苦労様でしたと言いたい。

タカさんにとって今年のパリーグは終わった。明日からは巨人の日本一に向けての応援一本に絞って行こうと思う。

（10/10/12 9:00pm S.T.）

iPS細胞の行く先は

候補として前評判も高く、期待度も高かった京都大学の山中伸弥教授に2012年度のノーベル生理・医学賞授与の決定との報に官民あげての大歓声が湧き起こっている。

3年前の事業仕分けで予算削減対象となり「希望を奪わないで！」叫んだ山中教授だが、その仕打ちを許すかのように「まさに、日本という国が受賞したようなもの」と持ち上げてくれたのをいい事に、野田首相や真紀子文科相が自分の手柄であるかのようにはしゃいでいるのには興ざめだが、まあ「はやぶさ」の時にも、宇宙予算を削った蓮舫さんや枝野さんが、自分の手柄のような顔をしていたことを思い起こせば、民主党のこの種の厚顔無恥さ加減に今更、驚いてもしょうがないとは思うが―――。

山中教授の受賞は、同氏が開発した体細胞を人為的な操作で、受精卵のような発生初期の状態（iPS細胞）に戻す技術に対するもので、その開発技術発表からわずか6年という超スピードでの受賞だ。それほどに画期的な技術ということなのだが、これほどの技術開発のスピードとなると、生命倫理が追いつかないことが懸念される。山中教授自身、受賞記者会見の席で、iPS細胞研究所内に研究倫理の専門家を迎え倫理問題の検討を同時平行的に進めていく意向をあきらかにしているのは、本人もこの辺りを懸念しているのだろう。(原子力技術の進歩に、安全基準や倫理が追いついていなかったことで我々は痛い目にあったばかりだ)

確かに、近年の生理・医療技術の急激な発展は、常に倫理問題を置き去りにしてぐいぐい前に進んでいる面がある。例えば、臓器移植は、脳移植を除けばあらゆる臓器の移植が可能なところまできているが、それにともなう様々な倫理問題は全くと言ってよいほど手付かず状態だ。

幼い命(例えば5歳の女の子)が、こういった医療技術によって救われる！という話ならば、確かに「よかった！よかった！」という話にもなるが、ヒトラーのような人間が不老不死の命を得ることにもなる！と聞けば、「それはちょっとやりすぎだ！」と思う人も多いのではないだろうか。だからといって、子供なら救うが、年寄りなら救わない！などということになれば、それこそエイジディスクリミネーション(年齢差別)にもなってしまうだろうし(現実に臓器移植の優先順位に年齢は大きな要件になっている――かと言って、臓器をオークションにかけるのも問題だし―――)

そもそも人間が神のように「生命倫理」などというものの規準を作る能力を持っているとは思えないのだが―――。

15-6年も前になるがクローン羊の「ドリー」誕生のニュースが世界を駆けめぐった。クローンとは遺伝子が全く同じ個体をあたかもコピーするかのように複数作る技術だ。同じ哺乳類の羊でコピー羊ができるなら人間でもできるはずであり、当時からコピー人間は技術的には可能と言われてきた。ヒトラーが自分のコピーを何百人も作ったら―――といったまるでSFの世界のような話が、実は既に可能になっているのだ。ある面からは夢の技術、又、別の面から見たら悪魔の技術が、肉牛生産の場などを除けばまだ押し留められている理由が、単に規制があるからと−−−という一点だけだという危うさはやはりなんだか薄気味悪い。

iPS細胞技術では既にマウスの体細胞から、卵子と精子を作るところまで成功しているという。−−ということは、この技術をつかえば、100歳の夫婦がそれぞれの髪の毛から卵子と精子を作りこれを受精させて赤ん坊を作る―――ことだって可能になるかもしれない。

いよいよ、人間は神の領域である「生命｣を誕生させることも可能になる―――ということなのだが――単純に「医療技術の進歩｣と喜んでよいものなのかどうか――。

山中教授の受賞に水を注すつもりなど全くないが、いささか気になるところではある。