国民的番組

放送中から「史上最低の視聴率」などといわれていた大河ドラマ「平清盛」が先週終わった。NHKでは、当初にあった「薄汚れた画面」という批判を考慮し色調を調整したり、「人間関係が複雑すぎて分かり難い」という批判には、番組冒頭に人物解説コーナー設けるなどして視聴率挽回に努めたようだが、全50話の平均視聴率12.0％と、今までの最低視聴率であった94年の「花の乱」の14.1％を大きく更新してしまう結果に終わった。

気が短い所為か、連続ドラマをじっくりと見るということに耐えられないタカさんは、以前から大河ドラマを見ることはほとんどなかったが、近年はNHKのBSプレミアムで日曜の夕方6時から放送されているものを予約録画しておいて総合テレビで放送される8時の前に早回しと、画面飛ばしで、15分ほどで見終えてしまうという方法で見るようになった。そんなテンプラ視聴者ではあるが、一応、全50話を曲りなりにでも視聴した一人として、なぜ、今年の大河ドラマが低視聴率であったのかを考えてみた。

当初兵庫県知事が「薄汚れた画面」と批判したような（リアルさを追及しようとしたのだろう）粗い画面は、確かに日曜夜の家族団らんの一時には違和感があったがそれが「視聴率低迷の原因」といわれるほど酷いものだったとは思わないが、朝廷、平家一門、源氏一門だけでも登場人物がむちゃくちゃ多く、その人間相関関係が複雑過ぎたという点は娯楽番組としての大河ドラマを欲する視聴者に、無理矢理、「お勉強の時間」を強いるようなところがあったという意味で問題だったと思う。

金に糸目をつけない大スペクタクル！という「NHK大河ドラマらしい見せ場」に乏しい平安期の朝廷、貴族、そして武士たちという狭い世界でのネチネチした権力争い、という筋立ても大河ドラマらしさを欠いていたといえる。

時代背景に馴染みがない上に、登場人間関係のごちゃごちゃばかりが目立つ物語展開だと、途中でちょっとトイレに立っただけで、風邪で2,3日学校を休んだ生徒がその後授業についていけなくなるように、もう物語についていけなくなる。そうなると、一度、どこかで‘LOST’してしまった人は、その次の週から見なくなってしまう−−−といったことが重なったのではないだろうか。

今年の大河ドラマには、原作がなく脚本家がオリジナル作品として書いていたという。そうであれば尚更逃げ場がない訳で、金看板番組を任された制作責任者や演出家も脚本家同様、相当力が入っていたはずで、「低視聴率」という出だしでつまずいて以降は必死に手直し、手直しと益々問題を複雑にしてしまい、いわゆるドツボに入ってしまったように思う。

完全懲悪、善玉はいい男いい女、悪玉は悪人顔、という「水戸黄門」的なイージーな時代劇の対極を行く複雑で分かり難い物語を日曜夜のテレビに求める視聴者はそんなに多くはなかったはずだ。

主役の松山ケンイチを始め当代一流の演技派ぞろいの俳優たちの熱演に次ぐ熱演も重苦しすぎた。今やテレビに求められるのは笑って見ていられるバカ騒ぎのバラエティー番組レベルの娯楽作品なのだ。

視聴率が低いからといって視聴率が高かった50年前の大河ドラマのレベル（「水戸黄門」レベルだった）に戻しても時代錯誤だし、かといって「新しい大河ドラマ」を目指してみても今の視聴者はそんな製作者の勝手な思い込みについてこようとはしないだろう。

一人に一台テレビがある時代、しかもテレビ以外の娯楽が山ほどある時代に、一年間連続で延々と続くドラマという娯楽そのものの賞味期限が切れ掛かっているのではないだろうか。いや、もっといえば、テレビという媒体そのものが娯楽の手段としての賞味期限を失いつつあるようにも思う。

大河ドラマばかりではない、嘗ては90％近い視聴率を誇った紅白歌合戦も近年の視聴率はその半分にも満たなくなってきているという。

大河ドラマも紅白も「そうはいっても国民的番組だから」という訳で止める訳にもいかないし、変える訳にもいかないというジレンマは、NHKという大組織が、大きくなり過ぎて絶滅してしまった恐竜やマンモスのような道を歩んでいるということを象徴しているようにも思う。

（12/26/12 9:00pm S.T.）

アンチエージング

歳をとりたくないというのは何も女性だけがもつ願望ではない。秦の始皇帝や、豊臣秀吉など権勢を極め、これ以上望む物はないだろうという地位にまで上りつめた人でさえ、どうしても手に入れたいと思っていて、しかも叶わなかった物が「不老不死」だ。

医療技術の発達に伴って将来不死までも可能になるという希望もあるようだが、さしあたってはやはり「人の致死率は100％」と考えざるを得ない。そうなると、せめて「歳より若くありたい」というアンチエージングに人々の思いは集中する。

新聞などには「えっ、とても60代には見えないわっ！」などという惹句とともに確かに20歳は若く見えそうな女性の明るい笑顔が載ったアンチエージング広告が出ている。

「若く見える」ことが女性にとって生死にも等しいほどに大事なことだとは聞いているが、若く見えるといったって限度はあるだろう。70歳なのに30歳に見えたらバケモノだ。何事にも程度っていう物があると思わないではない。

アンチエージングアドバイザー（？）の医者やら、セラピスト、美容研究家などは、食事だとか、睡眠、お肌の手入れなどといった様々なことを言っているが、それらを全て総合して一言でいえば、若さの敵は、「ストレス」だそうである。

確かに、暴飲暴食、喫煙、睡眠不足や過労等々が生理的、精神的なストレスとなりそのストレスの積み重ねが、様々な老化現象を招くことは、誰でも経験的に知っていることとはいえる。しかし、その一方では、我々が生きていく上でストレスは、避けようがないという事実も認めざるを得ない。

古代欧州文明の担い手であったトラキア人は、子供が生まれると、その子がこれから生きていく上で遭遇するであろう様々な苦しみを思って嘆き悲しみ、人が死ぬと、もうこれ以上苦しまないで済むと、その死を祝ったというし、仏教でもこの世を「苦界」であると考え人は生きていく上で「生・老・病・死の四苦と愛別離苦、怨憎会苦、求不得苦、五陰盛苦の四苦、あわせて八苦」に苛まれると教えている。

トラキア人も古代インド人も、人が生きて行く上ではストレスが避けられないと言っていたことを思えば（ちょっと大げさだが）秦の始皇帝も現代のアンチエージング狂いも、随分と無駄な抵抗だと思えてくる。

そうそう、ユダヤ教の律法書であるタルムードには、はっきりと「老化を早める四つの原因」が「恐れ、怒り、子供、悪妻」と書かれている。後ろの二つはまあどうにか避けることはできるかもしれないが（かなり難しいとは思うが）、前の二つは生きていく上では痴呆老人にでもならない限り避けることはできまい。ユダヤ教も既に4000年近く前から「アンチエージングはムリ」と言っているのだ。

先日、大島須美子の「ゼラニウムの庭」という小説を読んだ。人に比べて何倍も歳をとるのが遅い女性の物語なのだが、アンチエージングの人生を送る女性が果たして、幸せなのかどうかを考えさせられ、つくづく相応に歳をとるということが、なんだかとてもありがたいことだと思えてきた。最近老化に悩む読者諸氏にも、是非一読をお勧めしたい一冊だ。