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2018年10月
＜＜10月タイトル＞
10/31 武蔵の杖 10/30 不磨の大典 10/29 六度目の拘束 10/26 労働力と人間 10/25 遺跡と廃墟 10/24 仏作って
10/22 スーパーヒーロー 10/19 Here or To Go? 10/18 始末に困る人 10/17 どうせタダなのだから 10/16
パッチを履いた 10/15 抜け駆け横取り 10/12 身の引き時 10/11 高額配当 10/10 化学の力 10/09 やっぱり腹が立つ
10/05 再建断念 10/04 髪の薄いオジサン 10/03 時代の読み 10/02 知恵者がいる？ 10/01 破獄
2018年10月31日
武蔵の杖
安倍首相の祖父であり「昭和の妖怪」と言われた元首相岸信介は、91才で没するまで政界の黒幕的存在として活躍したが、長寿の秘訣を問われて「転ぶな 風邪ひくな 義理を欠け」の３つを挙げたという。
高齢者ならずとも「風邪」は万病の素ともいわれこれが原因で長く寝込むことになる人が多いこと、又、付き合いでついつい飲みすぎ、夜更かしをしてしまいそれが元で体調を崩して―――という例が多いことを考えればなるほどこの２つは特に高齢になったら気を付けたいことがらであるが、最初にあげた「転ぶな」にはちょっと意外感を持つかもしれない。
しかし、高齢になっての転倒事故は、倒れて打ちどころが悪くて―――と直接の死因に繋がるケースもあるが、骨折を伴う場合が多く、足の骨や腰の骨などを折ったりすると、老人は若い時に比べて回復までに何倍もの時間がかかるし打ちどころによっては寝たきりになってしまう場合が多い。
起き上がれないで寝たきりになった場合、体力も知力も衰え、それが死につながるケースは多い。確かに岸信介が長生きの秘訣の第一に「転ぶな」を挙げたのも分からないではない。
新聞によれば、バスの発進、停車の際の特に高齢者の転倒事故が増えており、今年、関東運輸局とバス会社が転倒事故防止キャンペーンをやっているという。
そういえば、高齢者がバスに乗ってくると座席に着くまでバスが発車しないとか、降車の際にはやたらと「バスが完全に停まるまで座席を立たないように―――」というアナウンスが流れるような気がするが―――そんなアナウンスに気付くのも、タカさん自身が運転手からみて「高齢者」と判断されるようになってきているからかなぁ〜とも思う。
確かに、最近バスに限らず電車でも席が空いていない場合、手すりやつり革をがっちり掴んでいないとちょっとした揺れや、発進、停車の際の加減速の際にバランスを失いそうな恐怖感がある。若い頃は手すりもつり革もつかまらずに電車の中で文庫本を読んでいたのに―――なんて思うと、まさに朱子のいった「少年老い易く、学成り難し」をしみじみと感じる。
そういえば、以前「宮本武蔵展」を観にいったことがあるが、生涯60有余の果し合いを闘い、一度として負けることがなかったという武蔵の「木刀」が展示してあり、その先端部分に少しくぼみがあって、説明によると年老いた武蔵はこのくぼみに鉄をはめ込み、木刀を杖変わりにして歩いていたという。
あの剣聖と言われた武蔵でさえ年をとってからは「転ぶな」に気を付けていたということだと聞いてタカさんも、若ぶって歩くのは止めようと思った。
（10/30/18
10:00pm）
2018年10月30日
不磨の大典
大日本帝国憲法（明治憲法）はその発布に当って天皇の詔（天皇のみことのり）によって「この憲法は不磨の大典である」とされた。
神に等しい存在である天皇が「すり減る事がない法典であるから、永久に変更することができない！」と宣言したのだから、イスラム教が「神の言葉であるから無謬であり人間ごときが変更することは許されない！」と定めているコーランと同じように、そこに書いてある以上は、未来永劫「酒を飲んではいけない」「豚肉を食べてはいけない」「ホモやレスビアンは禁止」の戒律が、変更不能であるのと一緒だ。
しかし、明治憲法も（そして畏れ多くもコーランにだって）も解釈の仕方によっては、どうとも受け取れる文言があり、その解釈によって人々は「不磨の大典」や「イスラム法」を、恣意的に解釈してきたという歴史をもっている。（コーランには例えば9才以下の少女を妻にしたムハンマドの例もあり、少女婚や幼女婚を禁じてはいないが―――現代ではまずどこの社会でもそんなことをやったら重罪だ）
明治憲法だって天皇の「統帥権」を勝手な解釈によって我が物とした軍部によって日本という国が、先の大戦への道（破滅の道）を歩んだことは周知の通りだ。
土台、法律というものは、「神の名」を借りるにせよ、「日本国民の総意に基づく」と言いつくろうにせよ、その時の「人間」が作ったものである以上、時と共に矛盾も出てくるし、時代に合わない部分も出てくるのは必然だ。
それを「神の言葉」だからあるいは「不磨の大典」だから、絶対に変えてはいけないとなると、イスラム原理主義組織や、昭和初期の軍部のようなものの跋扈を許し、必ずや社会に不幸をもたらすことになるだろう。
日本国憲法は既に制定後72年が経過、現行憲法としては世界最長の歴史を刻んでいる「一度も改正されていない憲法」であり、歴史的にみても80年間続いたという「イタリア王国憲法」（1946年に廃止された）に間もなく迫ろうという実質的な不磨の大典となってし。
しかし、制定直後から「持たない」と憲法で規定されている「戦力」とは自衛隊の問題（防衛力は戦力ではないといったこんにゃく問答）やら、男女平等をうたいながら女系天皇を認めていないといった問題、一票の格差を結局是認している問題（よくはなったとはいいながら今も3倍までの格差は合憲とされている）をはじめ数多くの矛盾点がありながら、どうにかこうにか無理やりの「解釈」によってごまかしてきている点は否めない。それなのに、現行憲法を「片言隻句変えてはいけない」という「憲法原理主義者」たちが多いのはどういう訳だろう。
リベラルといわれる人たちの中に「護憲派」といわれる人達が多いけれど、最近でいえばリベラル派が主張する同性婚許容については現行憲法は「婚姻は両性の合意のみに基づいて――」と規定しておりどう考えても「同性婚」を認めていないと思われるのにリベラル派から「憲法を改正して同性婚を認めよ！」といった声はあがっていないのはどうしてだろう。
個々の条文には随分、改訂すべきところもあるように思うのだが―――なにしろ現行憲法の「不磨の大典化」だけは避けたいものだ。
（10/29/18 10:00pm）
2018年10月29日
六度目の拘束
特に年末年始の休みを利用して昔の山仲間と再び冬山に挑戦してみようというアマチュアから、いわゆる「冒険」といわれるような難しい氷壁に挑もうというプロ級の登山家までがこの難しい時期に、難しいといわれる難コースに挑もうとするのは、遠い昔、山をやったタカさんにとっては幾つになっても憧れのロマンである。
しかし、必ずと言ってよいほど、冬山登山では何件かの遭難事故が起きる。その内の何件かでは遭難死する者も出る。冬山遭難となると一報が入ると地元の警察、消防や民間の山岳救助隊が出動して捜索に向かい、場合によっては運悪くこの救助隊員の中にも二次災害に巻き込まれて遭難し、死亡する人もでるかもしれない。そんなことになった場合、必ずや巻き起こるのが「山岳登山に於ける自己責任論だ」
冬山登山での遭難の場合、それなりに経験のある登山者が多いとはいうものの、事故に合う、ということは、遭難した側に何らかの落ち度があるのが普通だ。
「絶対に冬山事故に合わないためには冬山に行かないことだ」といわれるが、そうである以上、「ロマンを求めて」「昔を懐かしんで」冬山にチャレンジする以上は、それが引き起こす結果は、一切他人には迷惑をかけず、万一遭難した場合でも、その結果は100％自分が引き受ける覚悟が必要ということであり、そんなことが実質的にできない以上（遭難と聞いて地元の警察や消防が何もしない等ということはありえないし、遺体の収容を本人がやるなんていうことも出来ない以上）―――冬山遭難に自己責任論を持ち出しても虚しいだけだ。
何も、冬山登山に限ったことではない。人間、生きていく以上ほとんどの場合、他人の手を煩わせず、全てを自己責任で処理し完結する等ということは不可能だ。
しかし、そう言ってしまって遭難を助けるのは当然だ、二重遭難して事故死した人も、ある意味、仕方がないことなのだ―――と言ってしまうのも、その一次事故の救助に向かい二重遭難した人の、遺された家族の身になれば、耐えがたいことに違いない。
シリアで3年半拘束され過酷な人質生活を送ったのちに漸く解放された日本人ジャーナリスト安田純平さんについて、日本政府が渡航しないようにと勧告していたにもかかわらず渡航し拘束され、日本政府とその働きかけによるカタール政府の手によって解放されたことで、再び自己責任論の論争が起きている。
どうも、この反政府勢力は、外国人の人質をとって身代金を取ることで、テロなどの資金源にしている――とも言われており、今回も、日本政府直接ではないがカタール政府が日本政府の肩代わりをして3億円余りの身代金を払ったともいわれている）
彼が、イラクやシリアで拘束されたのは今回が六度目であり、前回も渡航中止勧告を無視して拘束されたということから、彼がジャーナリストとしての使命感から現地に赴いたらしいとはいえ、「誰も頼んでもいないのに、無謀なことをして、その結果、3億ものテロ資金を提供してしまったではないか」という非難の声も、相当高いことは事実だ。
タカさんは本件に関しては、自己責任論に与するものではないが、安田さんに余りに「ジャーナリストの使命」を持ち出されるのもいい気持ちはしないし。
願わくは「六度目の人質」にはならないようにとお願いするばかりだが―――。また、出かけていくのだろうなぁ〜。
（10/28/18 10:00pm）
2018年10月26日
労働力と人間
嫌われる仕事として3K（きつい、危険、きたない）仕事には人が集まり難いとわれるようになって久しいが、こういった仕事は、人が集まらないこともあって国外にでてしまうとか、かなり機械化が進んでいることもあって、あまり聞かなくなったが、それに代わって新3Kといわれる人が集まり難い仕事が注目されているという。
新3Kとは、すなわち「給料が安い、休暇が少ない、カッコ悪い」仕事ということらしい。たとえば介護や看護などの仕事は、女性達がその主力となっているけれど「やりがい」を感じる仕事とはいえ、他の女性達がつく仕事のような華やかさはないし、介護職などは報酬も安く、又、人相手のサービス業といった面から細やかな気遣いが要求されるわりには、何かとクレームがつき易い仕事だ。
給料もそんなに高くないし、年中忙しいし、文句を言われることが多い仕事―――となれば、「人手不足」が言われる現在では、中々なり手の無い仕事と言えよう。
人に接する仕事であり、それ故に細やかな気遣いが要求される仕事といえば、外食産業などの接客業もそうだ。外国人観光客が増え、さらに東京オリンピックに向けて益々、接客サービスへの需要が増えていくとなれば、この新3K問題をどうにか解決していかなければならないことは確かだ。
3K職場の人手不足解決策としてはロボットやAIが取り入れられてきてはいるが新3Kの方のロボット化やAI化は結構難航しているようだ。
タカさんの街にも「変なホテル」というロボットが接客するタイプのホテルの一つがあるが、物珍しさで覗いてみたが、あんまり客も入っていないようだし、何しろ受付のロボットの違和感は半端なく、これなら不愛想で不細工な人間の方がまだマシだ―――とも思ってしまった。（スーパーのレジも、無人よりも人のいるレジに並ぶ方がいいと思ってしまう年代だからこその感想なのかもしれないが）
安倍首相が所信表明演説で掲げた項目のなかに、人手不足に対処するために「外国人労働者の受け入れ」を挙げていたが、今まで外国人の移民、難民の受け入れが世界一厳しいといわれていた日本にしては180度といってよい方針転換だ。
ただ、いまから半世紀以上前に労働力不足を外国人労働力で補おうとして積極的に移民を受け入れた欧州では今や移民とその家族、子孫の人口に占める割合はスエーデンの20％を筆頭に、軒並み10％台後半に達していて、深刻な人種問題を招いている。
外国人を人手不足対策で大量に入れると一時期は急場しのぎになるかもしれないが、やがて彼等の2世、3世など家族が増え、そこに複雑な差別問題、人種問題が起きないとも限らない。（未だもって、完全に宥和できているとはいえない在日朝鮮人の問題などもその一例だ）
50年前に既に移民の大量流入で混乱していたスイスの評論家マックス・フリッシュが言ったという「我々は労働力を呼んだつもりだったが、来たのは人間だった」という言葉が、今、まさに欧米諸国を悩ませている移民問題の根本であることを考えれば、安倍首相もそういう先々のことまで考えているのだろうか―とちょっと心配になる。
（10/25/18
10:00pm）
2018年10月25日
遺跡と廃墟
「甲子夜話」にある「鳴かぬなら、鳴くまで待とうほととぎす」は家康の忍耐強い性格をあらわした句だといわれている。
天下統一を図る秀吉にとって若き家康は目の上のたんこぶのようなものだったから、言葉巧みに家康を、徳川代々の領地であった駿府から当時未開の地といってもよい江戸への領地替えを呑ませ、駿府城を自らの家臣に与え、自らの威光を天下に知らしめるため家康の城よりよりきらびやかな城を築かせた―――ということが、先ごろ行われた駿府城天守台跡の発掘によって明らかになったという。
天守台跡からは家康の建てた駿府城とは異なる形状で、自然石を積む大規模な野面（のづら）積みの石垣や、きらびやかに金箔が施された瓦が大量に発見されたというから、秀吉が家康を江戸に追いやった後、駿府の領民たちに前の領主の家康にくらべ、いかに秀吉の権勢が強大なものであるかを示したかったかが分かるという。
しかし、この秀吉の目論見も、結局、豊臣が滅び再び駿府が徳川の領地になるや秀吉の城は、破壊され、その城址の更に上に巨大な「徳川の」新しい駿府城が築かれたのだから―――まさに家康の熟柿作戦やおそるべしであり――歴史のロマンを感じる。
ただ、この新聞記事を見た時、家康も天下をとって豊臣の権勢の跡を消してしまいたかったのなら、後世、400年後に発掘されてしまい自分（家康）が、秀吉に負けていた時期があったということがバレてしまうような中途半端な壊し方ではなく、もっと跡形もなく秀吉の城を壊してしまわなかったのだろうか？とも思ったが―――城の石垣や天守跡まで城丸々一個を跡形もなく壊すなんていうことは石垣や城を新たに作ることの何倍も労力がいることだったので―――古い城の上に新しい城を作る（被せる）という―――やっつけ仕事にならざるを得なかったのかなぁ〜とも思った。
タカさんの住んでいる街に「段差道路」といわれる奇妙な道路がある。この道路、片側車線ともう一方の車線の間に1メートル位の高低差（段差）がある。従って当然、車で道路を右折するとか、Uターンすることができないという代物だ。
何で、こんな変な道路があるのかといえば、かつてここは海岸の堤防の跡であり、埋め立てが進んだ際に頑丈に作った堤防を壊すことが出来ず（費用も労力もかかり過ぎるため）かつての堤防をはさんで両側に舗装道路を作ったためにこんな奇妙な道路ができたという―――今や、この段差道路、我が町のちょっと有名（？）な遺跡になっており、あのブラタモリでも紹介された位だ―――。
「作るのに比べて壊す方が難しい」という言葉は、建築物などに限らずよく言われることだが（経験はないが――結婚は簡単だが、離婚は大変だ――という話もよく聞く）駿府城の発掘がその一例だろうか。
ところで、ここまで書いてきてふっとおもったのだが―――遺跡と廃墟の違いってなんだろう―――戦後の一時期栄えた温泉地にいまは心霊スポットとして残っている廃ホテルなども、あと何十年か何百年経てば、「遺跡」になるのだろうか？
（10/24/18 10:00pm）
2018年10月24日
仏作って
障害を負っている人は中々仕事に就けないという実情があり、社会的にもこの問題をどうにかしなければいけないという機運が高まって「障碍者雇用法」が制定されたのは1960年だったというから、意外と歴史は古い。
障害者の範囲をどうするか（酒の飲みすぎのアル中は障害か？などという議論があったような気がするが―）、あるいは障害者雇用をどのように企業に義務付けるか等について様々な議論や改訂が行われ、今日の形になったのは1975年のことだった。
企業と官庁に於いての運用義務は多少ことなるものの、要は各組織ともにそこで働く者の約2％は、障害者を雇用することが義務付けられたから、すなわち一事業所で50人以上の従業者のいる組織は、必ず障害者を雇用しなければいけないことになった。
「我が組織は社会貢献に熱心で障害者を積極的に雇用していますよ！」という実績を示せればその企業や組織のイメージも上がるからと積極的に障害者雇用に取り組む組織も多い一方、相変わらず消極的な組織も多いことから、法律では義務を果たしている組織に対しては障害者一人当たり5万円の報奨金を支給、一方、未達の組織にたいしては月4万円のペナルティーを課する――というようなことをやっているらしい。
但し、障害者であるのか、そうでないのかの基準は、「障害者であることを証明する物」（障害者手帳等）を確認する必要があるというのが大前提だが―――。
国の第三者検証委員会が一斉、調査したところによると、国の中央省庁で総勢4000人もの「障害者ではない者」を障害者だと報告していたことが判明、すなわち国の省庁では少なくとも4000人の障害者の雇用チャンスが失われていながら、「わが省は、ちゃんと、身障者に雇用チャンスを与えていますよ」とウソをついていたことが判明した訳だ。（中には、最高裁判所という国で一番、ウソをついてはいけないはずのところまで、水増しをしていたというのだから――何をかいわんやである）
この検証委員会の検証結果が公表されるや、水増しをやっていた28省庁は、弁解に追われているが、「認識が足りなかった」「恥ずかしい」などと弁解し、謝罪に追われるのは当然だが、一様に「意図的ではなかった」と逃げの姿勢だ。
「意図的ではなかった」と言うことで「障害者雇用推進をないがしろにするつもりではなかった」とか「ちょっとした手違いから起きたことだ」と言い逃れ、「だから我々の責任ではないのだ」と言いたいのだろうが―――。
法律に基づいて行政を運用する当事者である彼等が昔から、はっきりと「障害者手帳などを持っている者を障害者とする」と書かれている法律の条文を一度も読まずに50年余り運用してきたと言っているに等しく、これでは、日本の障害者福祉、障害者雇用もまったく進まないわけだ。（近眼も障害者としてカウントしていたというからもう笑い話レベルだ）
「仏作って魂入れず」ということわざがあるが―どんなに立派な仏像を作っても、霊力を込めてなければ、薄っぺらなものになってしまう―――という意味だが、日本の障害者福祉も、障害者に対する思いやりの心が入っていないこんなことをやっていたというのでは、実に薄っぺらなものにすぎなかったということであり、何とも嘆かわしい限りだ。
（10/23/18 10:00pm）
2018年10月22日
スーパーヒーロー
地球温暖化の元凶であるとされる石油や石炭、そしてLNGなどの化石エネルギーに対する風当たりは強く、又、チェルノブイリや福島での事故の記憶、使用済み核燃料処理の難しさなどから核エネルギーに対する人々の反感は益々強くなってきている。悪役が化石エネルギーや、核エネルギーと決まっているのだから、「自然エネルギー」といわれる「太陽光」や「風力」などに対する人々の期待はややますばかりだ。
自然エネルギーといっても、水力や波力、潮力なんていうのもあるけれど、これは大規模なダム工事を伴うとか、効率が悪すぎる、コストがかかり過ぎる、などの問題があって大きな期待が持てないとなれば、どうしても太陽光や風力に対する期待は、本来それらのエネルギーが持っているポテンシャルさえも上回るものに膨らんでいて、今や太陽光発電などはその実力以上にもてはやされているように思う。
特に、ソーラー（太陽光）発電は、民主党政権時代、各電力会社に民間が作ったソーラー電力を高値買い取るように義務付けたものだから、言い方は悪いが、一攫千金を目論んだ事業者たちが、ソーラーバブルとも言われる勢いで、山を削り、原野を切り拓いてあっちにもこっちにもソーラーパネルを敷き詰めたものだから、皮肉なことに、自然環境の破壊が広がったともいえる状況だ。（この夏の大雨では、ソーラーパネルを敷くために大規模に山の斜面を切り拓いたところで、大規模な土砂崩れが起き、兵庫や北海道では住民が損害賠償訴訟を起こしている）
九州電力では、電力需要を上回る太陽光電力の需給があった為、電力需給のバランスが崩れ、大規模な停電（ブラックアウト）につながるおそれが出て来たため、全国で初めて、太陽光発電の買い取りを一時的に停止させる「出力制御」を実施せざるを得なくなったという。
電力会社は全域の電力需給バランスをとるために（バランスが崩れると大規模停電が起きてしまう為）綱渡りをするように火力や原子力の発電量の調整を図っているが、太陽光は高値で買い取ってもらえるからと日照時間がよい時間帯で電力需要が多くない昼間に大量に供給してくるは、電気が必要とされる夜間や、雨などの悪天候の際には送ってこない―――という実に勝手気ままな売り付け方をしてくるのだから―――幾ら法律で買い取りを義務付けられているといっても、いい加減にしてくれよ――という気にもなる。（しかも、他の電源に比べてソーラーはバカ高いときているのだから―――電力会社もたまったものではないだろう）
九電の太陽光発電への出力制限実施のニュースが流れるや、自然エネルギー推進派の団体が、一斉に反発し、「玄海原発を動かすために、太陽光の出力制限を図っている！」などと、あらぬイチャモンをつけてまたぞろむしろ旗を掲げて九電に押しかける―という話もある。
電気というものは、溜めておくことができない（やるにしてもコストが莫大過ぎて、電力料金が現在の何倍にもなってしまう）のだというイロハのイを国も電力会社も無知な人々にもっと周知すべきだ。
エネルギーには悪役ばかりという訳ではないが、少なくともスーパーヒーローはいまのところいないのだ。
（10/21/18 10:00pm）
2018年10月19日
Here or To Go?
アメリカのハンバーガーショップで品物を注文すると最後に‘Here or To Go?’と訊かれるが、日本語でいうところの「店内でお召し上がりになりますか、それともお持ち帰りですか？」という意味だ。マックなどの店は店内でゆっくり食べられるスペースも充実しておりHereと答える客も多いが、品物を袋か何かに入れてもらい持って出て、車を運転しながら食べようという客や、家や公園にもって行きゆっくりと誰かと一緒に食べよう〜という客等はTo
Goと答えるだろう。日本でも同じことだ。
ハンバーガーショップのみならずフードコートや、スタバやドトールといったコーヒーショップ、最近はコンビニ店の中にも買った品物を店内で食べられる店（そういえば、角打ちの飲み屋なんかもそうかもしれない）が随分多くなったが、こういうスタイルの店のことを日本では「イート
イン」というらしい。「イート
イン」はナイターやベビーカー（英語だとstrollerストローラー）同様、アメリカでは意味をなさない（場合によっては誤解をうむ）英語？である。（ベビーカーは赤ちゃんが運転する車――という意味にとられるかも知れない―――危険極まりない！）
何回か先延ばしされてきた消費税率10％への上げを、いよいよ来年10月に実施する、と首相が表明した。前回、消費税率上げの際には、駆け込み需要とその反動によって景気が酷く落ち込んだことを考慮し、今回は前広に発表することで影響を和らげようという作戦だとも言われているが、税金の上げを歓迎する納税者など古今東西いない！という「黄金律」どおり文句というかブーイングの声が起こっている。
与党のやる事には何でも反対するのが仕事だと思っている野党は、消費税上げに賛成したメンバーが政党名を変えているだけ―――なのに、かつて自分達が賛成したことなどなかったかのように、「消費税10％実施断固阻止」を叫んでいるし、不足しているという福祉財源をどこに求めるのか――という点については空っとぼけている。
一方で社会保障の充実を要求しながら、その財源としての消費税上げの実施には難色を示す――枝野さん辺りは（かつて民主党時代には税率上げに賛成した身でありながら）、しれっと「消費税率上げ断固阻止」を叫んでいる――いやはや、彼の頭の中ではゲシュタルト崩壊がおきているのではないだろうか。
まあ、社会保障費財源論まで遡ると、いかに何でも真正面から消費税率上げに反対！という訳にも行かないと思ったが「やっぱり、政府の言う通りになるのも腹立たしい」というマスコミは、「軽減税率の仕組みが複雑すぎる！」という理由で消費税率上げ反対論、いやイチャモンをつけている「識者」や「コメンテーター」がいる。
先日テレビでは、同じハンバーガーをイートインで食べれば外食になるから10％、持ち帰りなら食料品に分類されるので8％という税率が適用されることになるが、これはおかしいではないか――！なんていう議論を延々とやっていたが―――。
消費税と福祉財源問題等という本質論を離れたいわば難癖、イチャモンの議論を吹っかけて喜んでいるマスコミのいかに多いことか―――イートインスペースで食べたければ‘To
Go’と答えて8％の税率を払い店内で食べればよいだけの話で、まさか警察が来てTo Goと答えたのにお前さんはHere
でたべているではないか！と言って脱税で逮捕しにくることもないと思うのだが―――。
（10/18/18 10:00pm）
2018年10月18日
始末に困る人
南洲翁遺訓にある西郷隆盛のことば「命もいらず、名もいらず、官位も金もいらぬ人は始末に困るものなり。此の始末に困る人ならでは、艱難を共にして国家の大業は成し得られぬなり」は、多くの維新の功労者たちが権力の側に立つやいなや、（井上馨や山形有朋などを筆頭に）ほぼ全員が、不正、汚職に走り富を手にし、豪邸に住まい、妾を侍らせたことを見て、西郷は「こんなことの為に維新をやったのではないのに―――」と嘆き、叫んだ言葉であるという。（西郷は死ぬまで清貧を貫いたといわれる）
先日、NHKでIS（イスラム国）が一時首都として占拠していた町のリーダーの邸宅跡から発見されたDVD画像を流していたが、住民や末端の兵士たちには厳しいイスラムの教えを強制し、貧しい暮らしをさせていたというのに、彼の家では派手に飾ったケーキにキャンドルを飾り家族で大盛り上がりのパーティーを連日やっていた―――ISのリーダーは、敬虔なイスラム原理主義者のガチガチに違いない――というイメージとは正反対の堕落し切った姿に驚いたものだった。
信者たちに厳しい断食を要求しながら、自分はサティアンの秘密部屋に隠れ大好物だった高級メロンを大量に取り寄せさせムシャムシャ食べていたオームの麻原彰晃も同じだ（サリン事件で逮捕状が出たが、当局がどこにいるのか分からなかった彼を、ついに逮捕できたのは、人のいないはずの第六サティアンに連日、静岡の果物屋から大量の高級メロンが配送されていたことを突き止めた、当局がきっとここに麻原が隠れているに違いないと目星をつけて踏み込んだからだった）
貧しい身分から身を起こし、貧しい者、弱い者の代表として革命をなしとげた革命家も、その多くはというよりは殆どが一旦権力の側に立つと腐敗し、私利私欲に走った例は、歴史上枚挙にいとまがない。アフリカの独立の英雄といわれる連中が、権力を掌握した後は独裁者となり国民を飢えさせながら、豪奢な生活を送っている例も数限りない。
いや、現代の日本でだって弱者の味方を名乗って選挙に出て議員になった人達のほぼ全員が、若い頃に言っていたことなどどこ吹く風で、富に埋っているではないか―――。
「命もいらず、名もいらず、官位も金もいらぬ人」がいないからこそ世界は、そして日本では「国家の大業は成し得られぬ」のだと考えれば、まさに南洲翁の遺訓は、現代の日本において逆説的に正しい―――と言えるのではないだろうか。
（10/17/18 10:00pm）
2018年10月17日
どうせタダなのだから
病気になった時の治療費や薬代の個人負担は、日本が世界に誇る国民皆保険制度によって大幅に減額されている。（タカさんの場合、ちょっと前まで3割負担だったが、今年の後半から2割負担になるらしい）
従ってこれからは１ヶ月に一回、医者で書いて貰った処方箋で薬を買っても5000円位払えばよくなるわけで、「血圧だの、血糖値だのとあちこちガタがきていても月5000円位の薬代なら、まあ、安い方か！」なんて思うが、よく考えみると、これがタカさんの薬代の2割とか3割に過ぎない額であり、総額17000円の薬代のうちタカさんの個人払い5000円、あとの7割相当の月12000円を「誰か」が払ってくれている―――ということになる訳だ。
「誰か」とは一体誰なのかを考えてみると「国」だとか「健康保険」などと考えがちだが、「国」や「健康保険」というのは一人一人の個人の集合体のことであり、具体的には少ない年収で子供を抱えてで汗水たらして毎日働いている若い人たちかもしれないし、増え続ける社会保障費の為に国が抱える莫大な借金を背負わせられる子、孫、曾孫などの将来世代かもしれないのだ。
そう考えたら、少しでも薬代を節約できるなら節約するのが、国民皆保険の国の国民の使命ではないか―――なんて思えてくる。
年齢を重ねると、なにやかやと体にガタがくるし、それは仕方がないこととはいえ、健康に悪いと分かっていること（暴飲暴食とか夜更かしといった）は極力避けるとか、運動がいいと言われれば適度な運動をする、ストレスが万病の素というなら、極力ストレスのかからないように努力する（毎日、できるだけ朗らかに暮らす――とか）といったことは心がけたいものだ。
どうしても薬を飲まなければいけないということになったら、ジェネリック医薬品（先発医薬品と同じ有効成分が含まれるが、薬価が5割程度安い薬）を処方してもらい医療費の抑制に協力すべきだ。
ジェネリックはどうせバッタ物ではないか？なんていう誤解もあるようだが、成分も薬効も新薬と変わらないことは、国が検査済だ。
ところが、今朝の新聞に、15才以下の「医療費負担ゼロ」（すなわち無料）だという某県では、「どうせタダなのだから」と、ジェネリック医薬品を利用せず、薬価の高い新薬を要望する親が多く、医療費が下がっていない―――という調査結果が出ているとか。
医療費無料の厚い社会保障のお陰で子供の医療費の親の負担はゼロになっているかもしれないが、その親の負担分と市町村が払ってくれているように見える子供の医療費は将来世代を含めた国民全体が払っているのだ―――という事実を忘れ、「どうせタダなのだから」と考える人が多いというのは―――どう考えても美しくない。
そう考えると、世界に誇るといわれる「国民皆保険制度」やら、手厚い社会福祉も、（いい事であるのは間違いないとはいうものの）日本人をさもしくしているという負の面もあることは―――否定できないようにも思える。
（10/16/18 10:00pm）
2018年10月16日
パッチを履いた
真冬のシカゴのオヘア空港に到着する成田発LA経由の便に乗っている知人を出迎えに行ったことがある。
シカゴの冬の寒さは厳しく1月なら最低は－10℃にもなるから、それを知っている成田からの乗客は、しっかりとしたコートや防寒着を着て、あるいは手にもって続々と降りてきたのだが、LAから乗って来たと思われる若者の一団がTシャツ姿で降りて来たのにはびっくりした。
LAの1月だと最低気温でも＋10℃位、日中だと20℃にもなる位だから搭乗したLAの気候に合っている服装のままシカゴに来てしまったのだろうが、「おい、おい、あなたたちそのまま空港の外にでたら死ぬよ！」と言いたくなったし、アメリカは広いから同じ国でも他の地区の気温なんか知らない――なんていう奴が一杯いるのだろうと呆れたものだが――（「アメリカっていう国は、テキサスより広いのかい？」なんていうテキサスの田舎者がいた等というジョークのような話がある位だったし――）
シカゴとLAのような大きな違いではないが、ここ数日の気温の違いは随分大きいように思う。
昔から気温の変化に敏感な（妻に言わせると、体温調節が下手なだけだそうだ）タカさんのことだから一昨日、昼はTシャツを着て過ごした日の夜には長袖シャツを着てカーディガンまで引っ張りだしたし、その翌日にはついにこの秋はじめてタイツの下着（ズボン下）を履いてカーディガンを着て出かけた。
Tシャツから厚手の股引ともいえるタイツに変わるまでわずか1日なのだから、さすがに妻の言う通り体温調節が下手すぎるのか、それとも最近の地球を襲っている「異常気象」の所為なのか分からないが―――。
中一の孫などを見ているとタカさんがパッチを履いているというのに、あのLAから来た、身の程知らずの若者たちのように、まだTシャツ姿だ。老人と若者の新陳代謝が違う―――といってしまえばそれまでの話ではあるのだが―――。
そういえば、タカさんも40代頃までは、冬でもなるべく厚着をしない「伊達の薄着」を通し、自分なりにお洒落に気を使っていたようにも思うが、年齢と共にしゃれっ気も失せ、最近は随分と厚着になってしまったようだ。
パッチという奴、一度履いたらもう春まで脱げなくなる麻薬のようなものだとはわかっているのだが―――。
（10/15/18 10:00pm）
2018年10月15日
抜け駆け横取り
自然番組でチーターが獲物のインパラ追いかけるシーンをみることがあるが、地上最速を誇るチーターも、そのスピードを長いこと持続できないから、巧みにターンを繰り返すインパラを取り逃がしてしまう場合が実に多い。チーターの狩りの成功率は決して高くはないのだとか。何日も狩りに失敗しやせ細っていく子供を抱えて授乳中のチーターなんていうのを見ていると思わず「チーターがんばれ！」と握りこぶしに力が入る。（インパラの身になったらタカさんの考え方はなんと残酷なことか――）
この手の自然番組だと、更にチーターの受難は続く。チーターは、悪戦苦闘の末、やっと獲物を仕留めても、とるものも取り敢えず急いで獲物を咥えて高い木の上にその獲物をもって上がらなければならない。のんびりしていると獲物の匂いを嗅ぎつけたハイエナや、ライオンがすぐその獲物を横取りしに来てしまう―――。
何頭ものハイエナに取り囲まれれば――あるいは、自分より大きくて強いライオンに脅されれば、足の早いだけが取り柄のチーターはとてもかなわない。苦労して獲った獲物を諦めてすごすごとその場を立ち去るしかない―――何ともみじめな姿を見るとタカさんは、「ハイエナ、きたねぇ〜」「何が百獣の王だ！」なんて憤りを覚えるのだが――。弱肉強食という自然界の掟からすれば、当然のことでありその掟があってこそ、自然界の秩序が保たれているのだという事実の前には、タカさんの憤りの方が理不尽というものかもしれない。
そんな、自然のバランスを人間が壊すと、例えば北海道の食物連鎖の頂点にいたオオカミを人間が絶滅させた為に、オオカミがエサにしていたエゾシカが増えすぎ、知床の自然林の木々がシカに若木や樹皮を食い荒らされて――今や荒廃しつつある―なんていう話を聞くと「自然を自然のままに」しておくことの大切さを思い知らされる。
人間社会における「経済の大原則は自由競争だ！」という考え方があり、この200年余りの人類の発展にはこの「自由競争原理」の寄与した大きさは、計り知れないといわれているが―――その一方では「自由競争の行過ぎ」による弊害も大きく、独占禁止法のような様々な法律や規制によって「獲物の横取り」のようなことを禁じようという試みも行われてきた。
しかし、規制が行き過ぎて「チーターが獲った獲物はチーターだけのもの」「他の動物の獲物の横取りは禁止」などとしてしまえば、図体が大きくて足もそんなに速くないライオンや、群れを作って強い動物の獲物や死肉を食べるしかないハイエナなどは絶滅せざるを得なくなるだろうし、それどころかインパラばかりが増えすぎても、草原の草が食べ尽されて荒廃してしまい――なんていうことにもなるかもしれない。
経団連が自主的に決めた大学生の就職採用活動開始時期のルールを守っている企業が何とわずか全企業の4割にも満たず、他は皆フライングをやっている―――という実態があって、経団連の会長が「正直者がバカをみるような自主規制ルールは意味がない」と、怒ったのか「自主規制ルールの撤廃！」を打ち出した。「規制の解除」「自由競争への回帰」を宣言したが、なんでも規制したがる政府は勿論、本来自由競争が大好きなハズの経済界を始め、大学当局、そしてマスコミなどまでもが大騒ぎになっており、「規制は必要だ！」の大合唱が始まっている。
人間だって自然の一部なのだからその社会も、剥き出しの競争原理で成り立っているのは当然―――と考えれば、企業の採用活動に、「抜け駆けや横取り」があっても当然だ―――とは思えなくて、怒り出してしまった経団連の会長さんは、「ライオンやハイエナは許せない！」と憤激するタカさんのような人物なのだろうか？
（10/14/18
10:00pm）
2018年10月12日
身の引き時
昔の職人の世界では、「名人」（現代なら人間国宝）といわれるほどの技量をもつ職人が一線を退いて隠居する年齢というのは随分と早かったという。平均寿命が短かったのだから、それも当然という面もあるし、そもそも人間国宝指定されるのが、それなりに歳をとってからという現代では、「名人」の50代、60代での隠居、ということ自体が、物理的に不可能だが―――。
早くに隠居したらどうやって食べて行くのか――等という収入の心配やら、「早くに引退したら、やる事がなくて何十年もの余生を、どうやって生きていくのか？」「早くに引退などしたら、女房に粗大ごみ扱いされて―――」と考えれば、いくつになっても、自分から身を引くなどという踏ん切りがつかない現代のサラリーマンからすると、昔の名人たちの早目の隠居という話は、ちょっと信じられないが――。
早目の隠居をした「名人」は、古女房とこじんまりした隠居所に引っ込み、仕事は弟子や息子たち、後進に譲って、趣味の世界に生きたり、時には釣りにいったり（昼間から酒を飲んで早寝してしまうこともあったかも）と、悠々自適の生活をしていたらしい。
それもこれも、若い時代に一生懸命働き技術を習得して名人上手といわれるほどになったからこそ手にいれた隠居生活というわけで、弟子たちやその名人に憧れる若い世代が、「俺も、名人といわれる程の人物になって、あの名人と同じように早く悠々自適の隠居生活をおくりたいものだ」と思い一生懸命仕事に励むから、その職人技が代々、幾世代も続くようになる―――という訳で、「早目の隠居」は、次世代の担い手を育てるために、意図的にやっていたというから、中々素晴らしい話しではないか。
名人とちやほやされれば、いつまでも次の世代に自分の技をゆずらず、その内、口うるさいだけで腕の落ちた年寄り頑固職人になってしまうかもしれないし、そういう古手ばかりで上がつかえた世界では、若い者もやる気がでないし育たないから、名人が死んでしまえば、その技術は一代で廃れてしまうかもしれない。
そういう意味では、名人の早目の引退と憧れの隠居生活を、次世代に見せることは、職人芸を次世代、そして行く末永く続ける為には必要だったのだという。
中には、もう後、十年は現役を続けたい――と思った名人もいただろうが、その職人技の世界の将来を思って敢えて早目の引退の道を選んだ―という事もあったらしい。
いまの時代、昔の職人の世界のような「身の引き時が綺麗」という例は殆ど聞いたことがない。
政治の世界を筆頭に企業のトップにせよ、スボーツ、芸能の世界など、ほとんどの世界で「惜しまれながら早めに身を引く」等という話をさっぱり聞かなくなった。
いやむしろ、「もう辞めたらよさそうなものに」と回りが思っているのに、本人は「まだまだやり残したことがある！」「まだ、若い者には任せられない！」と現役にしがみつき、それが回りの迷惑になっている例は多いし、最近は、そんな例を「幾つになっても、やり続けようとするその執念が素晴らしい！」などと賛美する論調の方が強いような気がしないではない―――。
日本社会の物の考え方が、この数十年で大きく変わってしまったようだ。
（10/11/18
10:00pm）
2018年10月11日
高額配当
タカさんの競馬歴はかれこれ50年になるが、若い頃は、朝の第一レースから、いそいそと現場（競馬場）に出かけて、最終レースまで馬券を買っていたものだが、最近は現場に出かけることもなくなり、せいぜい重賞レースを電話投票で買う程度になってしまってはいるが、相変わらず馬券を買うからには「一攫千金」の夢を追って、「穴狙い」に出ることが多い。
1レース当りの購入額も少ないから、大穴狙いで夢を買って、「大金が手に入ったら〜」としばし空想するのが楽しいし、なあ～に、ハズレたところで大金をかけた訳ではないから、「しばし楽しい夢でワクワクした―」ことに使った金額だと思えば安いものだ、と思えるのだ――（まあ、こんな境地に達するには、それなりの授業料（？）とウン十年という歳月を要したわけだが）
いま現在JRAの馬券の中で、最も高額の配当が狙えるのはWIN5という、一日の指定された5レースの一着馬を全て当てる、という超難度の馬券だが、この馬券、一口100円単位で買えて最高額だと6億円が当たる〜というのだから、狙ってみたくなるまさに一攫千金の馬券だ。（実際、過去には最高払戻額4億2千万円という配当が出たことがあるという）タカさんのような「大穴狙いの少額馬券購入者」にとってはありがたい馬券といえるものだが、いつもこの馬券を買う時に一つ悩むことがある。
WIN5の馬券は普通の馬券のように窓口で現金で買うことができず、買う為には口座を開設してその口座からではないと買うことができない。すなわち、万が一、高額配当が当たった場合、どこの誰が買ったが分かってしまい、普通の馬券で高額配当を当てた場合のように「どこの誰があてたのか？」が分からないという（すなわち匿名性がない――）ということが、悩みのタネなのだ―――。
ギャンブルなどでの儲けも、税金の対象になるという法律があり、とくに高額配当金の場合、「当たり投票券の購入に要した経費を差し引いた上で、50万円の特別控除を超える利益があった場合、超えた額の２分の１が所得税の課税対象となる」と定められているから、例えばWIN5で1億円当てた場合、4000万円近くの所得税とその他に1000万円近い住民税を納めなければならないという。今のところ競馬の儲けは、自己申告だから現金で買った馬券で1億の配当を窓口で受け取り、人混みに紛れてしまう――という人ならともかく、口座を開設しどこのだれだかを税務当局が調べさえすれば分かってしまう人が、税務申告しないでいると、「脱税」で摘発され5000万円の税金の他に、多額の追徴金やら罰金を支払わなければならなくなるかも知れないし、それが「前科」となることもあるかもしれない―。
そんなことになれば、「一攫千金を稼いで楽しい夢を実現！」どころか「不名誉の悪夢のどん底」に落ちかねない。考えただけで、なんだか楽しくなくなってくるのだ。
気の弱いタカさんのことだから、万が一の万が一でも高額配当が当たったら脱税する勇気（？）などなく、正直に税務申告するに違いない。（納税は、国民の義務でもあるのだから―――）でも、一生に一度、折角、1億円当てて5千万円も持って行かれるというのも―――何となく気分は良く無かろう――という気もする。
まあ、競馬を50年もやっていて高額配当というのを一度も手にしたことはないというのは、案外、タカさんにとってラッキーだったのかもしれない。
（10/10/18
10:00pm）
2018年10月10日
化学の力
昔は、入学式や卒業式などの祝い事があると写真屋さんが来て記念撮影をしたし、お宮参りやら七五三といったより私的な祝い事ならこちらから写真館に出向いて記念写真をとったものだが―――小学生までスマホをもって気軽に写真が撮れるようになった今、写真にそんなに希少価値がなくなった所為かさっぱり記念写真、あるいはそれに類した写真を撮る機会は減ってしまったような気もする。（タカさんの世代の女性の間では、生前に「遺影」を写真館で撮ってもらうという「終活」が一部の人の間では流行り始めおり、生前遺影専門の写真館があるとかないとか――）
昔々の写真屋さんでの記念撮影といえば、懐かしいのはマグネシウムを焚いての閃光ストロボだが、もうそんな物を知っている人さえ少なくなってしまっているのは、今やスマホカメラにさえHDR機能というのがついており、夜の記念撮影でもシャッターさえ押せば誰でも簡単にきれいな写真が撮れるようになったからだろう―――。
あの昔懐かしいマグネシウム粉というやつ、小学校の理科で「激しい酸化作用をもっており、発火させると一瞬で回りの酸素と結合し、閃光を出して酸化マグネシウムになる云々」と習って「なるほど〜、だからボッと音を出して一瞬で燃えるのだなぁ〜」と妙に納得し、「化学」に興味を持つきっ掛けになったものだった―――。
9月初めの台風21号による高潮で海水を被ったボートアイランドのコンテナヤードにあった3個のコンテナの中に、計66トンものマグネシウムが積んであり、このマグネシウムが発火しはじめ火は回りのコンテナにも次々と燃え広がったという。消防署では消火作業に努めているが、なにしろ相手はマグネシウム粉だ。水（H2O――酸素と水素の化合物）をかければマグネシウムは益々勢いよく燃え出すだろうからそういうわけにもいかず―――重機でソロリソロリと未だ水を被っていないマグネシウムを取り除くとか、砂を被せて酸素との接触をさせない―――といった手間のかかる作業しか消化方法がないそうで、台風から1ヵ月が経つが未だに鎮火していないという。
ほんのひとつまみであの音と閃光を発して燃えたマグネシウムが66トンもあるのだから―――これは早々簡単には鎮火しそうもないと、神戸の消防局に同情する。
旋盤などの鉄の切り屑を「ダライ粉」というが、これをスクラップヤードに積んであるときにシート掛けなどをしていないと、大雨などが降ると発火することがある。鉄もマグネシウム程は激しくはないが酸化することで燃え始め、一旦、燃え始めると水をかければ火勢がより強くなってしまうので砂をかけるなどして酸素の供給を止めるしかないという厄介な性質をもっている。
昔はスクラップを満載した船が航海中に火災を起こして沈没する―――等という海難事故が時折あったものだが―――あれも、「鉄の酸化」という化学の力によっておきたものだ―――。
神戸の火事で、久々にマグネシウムストラボのことやら、鉄の酸化やら、化学の力についてあらためて思い出した。
（10/09/18 10:00pm）
2018年10月9日
やっぱり腹が立つ
スルガ銀行という銀行はスルガと名がつくのだから静岡にある銀行だろうなぁぐらいの知識しか持ち合せてはいなかったが、シェアハウス向け融資などで問題をおこし金融庁が検査に入ったというニュースで知ってから調べてみると、事件の発覚前には、監督官庁の金融庁の長官自身が「この低金利のご時世に工夫次第で高収益をあげている『地銀の優等生だ』」との評価を与えていた評判の良かった銀行だったというから驚いたというか、大笑いしてしまった。
連日報道される検査で明らかになったこの銀行の実態は、「地銀の優等生」どころか暴力団組織でもここまでの事はやっていないのでは―――と思わせる酷いものだ。
シェアハウス向け融資では組織ぐるみで手持ち資金が皆無な借主に巨額の融資をしていた、禁じられている暴力団への融資を堂々と行っていた――という問題では上から下までそれが不正であることを知りながら、業績数字になるから、あるいはボーナスの実入りが増えるから〜という理由で実行していたというから、上から下まで、金融マンのモラルのかけらもない連中ばかり―――といってよいだろう。
オーナー一族の企業には何百億単位での回収の見込みもない不正融資を実行、不正に手を染めるのに躊躇している従業員には、「死んでも成績をあげろ！」とヤキをいれていたというから、ヤクザ組織内の出来事かと思うが―――これが優良といわれた銀行での出来事だとは〜。
スルガ銀行の不正問題でタカさん自身が、直接被害を受けた訳でもないのに、この不正の巣窟問題で、物凄く腹がたつのはまあ、恰好よくいえば「社会的義憤」という奴だが、よく考えてみると監督官庁の金融庁をはじめとしてオーナー、経営幹部、行員、株主全員そしてマスコミまでもが、「こんなこととは知らなかった」となんだか騙された被害者面をしていて、いまのところ「こいつこそが悪の元凶」といった人物が明示されたわけでもなく、腐り切ったスルガ銀行という組織が今のところ倒産もしていない―――という摩訶不思議さに腹が立っているのだという気がする。
いま、検査を実施してその結果、「スルガ銀行はこんなにケシカランことをやっていた！」と指弾している金融庁が、ちょっと前には「地銀の優等生」だとお褒めの言葉をかけ「他の銀行もスルガを見習え！」とハッパをかけていた事実をどう落とし前つけるのだろう？
お役所のことだから、そんなことはなかったかの如くスルガ銀行に「業務停止命令」を出して叱っている姿勢をみせて「悪に鉄槌を下すお奉行さま」のフリをして済ますのだろうし、お褒めの言葉をかけた金融庁長官も、その内、順調に出世を重ねていくのだろう―――。
やっぱり、何故か腹がたつ！
（10/08/18 10:00pm）
2018年10月5日
再建断念
諸説あるようだが世界三大がっかりスポットといわれる「世界名所」がある。
幸いにして（？）そのほとんどを実際に見たが確かに「なんじゃこりゃ〜」というがっかり感は確かに味わえる。（ただのコンクリート製――近くでみると結構汚い―――の噴水であるシンガポールのマーライオン、コペンハーゲンの別に風光明媚でもない海岸にポツンとあるアンデルセンの人魚姫像、少年が立小便をしている――という何の面白みもないブリュッセルの小さな小便小僧像等）
なかでも、小便小僧は、世界中どこにでもレプリカが溢れており（タカさんが一番なじみのあるのはJR浜松町駅の川崎寄りにある小便小僧だが――）、子供の立小便なんて今時、中国人観光客でもやらせないようなことをやっている像がなぜあんなに世界中でもてはやされるのかわからないのに、そのオリジナルだからといって観光客がブリュッセルに行ったら必ず見に来る理由がわからない―――あの像なら浜松町駅のレプリカの方が毎月着せ替えもされているし、まだ面白いと思うのだが）
小便小僧の由来には12世紀のベルギーの独立戦争の物語があるし、像自身400年程前に設置されたという相応の歴史があるようなのだが――要は「子供が立小便をしている姿」でしかなく、しかもその小便で噴水池ができている―ということは――噴水池は小便池ということになり――がっかりするのも当然だ）
この手の、歴史的建造物やら美術品の価値というものは、その背景にある歴史や、文化的価値観が違えば、人それぞれに（あるいは国ごとに）違って当然であり、それを裏返せば「小便小僧は素晴らしい！」とする人も「がっかりした」という人もいるのが当然だ―――。
ミケランジェロの作品の中でも最高傑作という評価の高い「ダビデ像」は、すでに建立から500年、イタリア人にしてみれば（あるいは多くの世界の国々でも）人類の誇るべき芸術作品！であると思っているだろうし、世界中で多くのレプリカが作られ多くの人達が今も感激に打ち震えつつ鑑賞しているが――島根県奥出雲町にあった高さ約５メートルのダビデ像が、4月の地震で足首部分から倒壊してしまったことでちょっとした騒動があったという。
実はこのダビデ像、2012年の設置時には、「公園に巨大な男性の裸像をおくのは教育上ふさわしくないのでは――」（ダビデ像は全裸姿で男性器も表現されているから）という反対意見と「何をいうか、世界も認める一流の芸術作品ではないか！」といった論争が起こった経緯があり、この騒ぎは、当時、海外メディアでも報道されたということがあったという。
町では地震後、像をよみがえらせる予定だったが、以前の反対論の経緯や、新たに住民から「目のやり場に困る」とか「再建するなら下着を履かせろ！」などの声があがり、町議会議員の中には「教育上もよくない、子ども達も嫌がっている」との発言があったそうで、町長は結局、再建を断念したという。
まあ、いずれにせよバンツを履いたダビデ像を立てたりすれば、それこそダビデ像の著作権をもつイタリア政府が怒るだろうし、世界から「芸術への冒涜だ！」等と、激しい非難を受けたかしれないだけに、町長の再建断念は英断だった―――のではないだろうか。
（10/04/18
10:00pm）
2018年10月4日
髪の薄いオジサン
散髪に行って、散髪ももう終わろうとする頃、理髪師が大きめの手鏡と前面の鏡とを合わせ鏡にして「これでよろしいでしょうか？」と聞いてくる。「後ろ頭のカットはこんなものでよろしいでしょうか？」という意味らしいが、普段、自分の後ろ頭など見ることはない（物理的に見られない）から、一瞬見えた自分の後ろ頭に「あれ！こんなに髪の毛が薄かったっけ！」とドキリとしてしまうのだが、「えっ、まさかこんなに後ろ頭は薄い訳ないだろう！」と他人に文句をいう訳にもいかず、冷静な声をよそおって「結構です」と答えるのがいつものことだ。
洗髪をしてくれながら理髪師が「どこかかゆいところがありますか？」と聞いてくる時と同じで、関東人は「頭のてっぺんの左側がかゆい」とか、「もみあげ辺りがかゆい」などと、いちいち注文を付けることはない（といわれている）のと同じで、関東人は「後ろ頭をもう少し刈りこんでほしかった、etc」などと注文をつけず、「結構です」とこたえてしまうものらしい。（関西人だと「鼻の頭がかゆい」とか「足の裏がかゆい」「後ろ頭のハゲを隠して欲しい！」などと一応ボケてみる人もいると聞くが）
我が家の、洗面所の鏡も三面鏡にもできるようになっているから、毎朝、無理をすれば、真後ろは無理にしても横顔位は見られるとは思うが、タカさんは見た事はない―――女性は毎朝、三面鏡とにらめっこしているのかもしれないが―――オジサンが三面鏡で後ろ姿を入念にチェックしている姿等は――あまり見た事はない。
落語に「松山鏡」という話がある。昔、鏡というものが一切ない松山村に正助という男がいた。両親が死んでから18年間というもの毎日墓参りを欠かしたことがないという親孝行者であったので、領主の知るところとなり、ご褒美を貰うことになった。
名主らと村役場に呼び出された正助は、「何なりと望みの物を与える」と領主に言われたが、「欲しい物は何もございませんが、望みを叶えて頂けるなら死んだ父親に会いとうございます」と答えた。
困った領主が、名主に父親のことを訊くと、「父親の、顔立ちは正助と瓜二つでございました」と答えたので、領主は一計を案じ、「望みを叶えてやろう。会いたくなったらこれを見るがよい。但し、余人には見せるなよ」と言って役場に置いてあった鏡を褒美として与えた。
生まれて初めて鏡というものを見た正助は、鏡に写った自分の顔を父親と思い込み、大事に家へ持ち帰り、領主に言われた通り、女房にも内緒にし、納屋のつづらの中に鏡を隠して折に触れて納屋に入り、父親との再会を楽しんでいたのだが―――。
あまりに頻繁に納屋に入る亭主の行動を怪しんだ女房がこっそり納屋へ入り、鏡を見付けた。見ると、鏡の中に女がいるので、てっきり浮気相手をつづらの中に隠していると思った女房は、亭主を詰問し、ついには夫婦喧嘩になってしまった。
そこに丁度、通りがかった尼寺の尼さんが仲裁に入り、事情を訊いたのだが、女房は「つづらの中に浮気相手の女がいる」と言い、正助は「中にいるのは父親だ」と言い張ってラチがあかない。「それなら私が確認して上げましょう」と尼さんは、納屋へ行ってつづらを開けて鏡を見たのだが――。
夫婦のところへ戻ってきた尼さんは、二人に言った。「二人共もう仲直りしなさい。つづらの中の女は、夫婦喧嘩をさせて申し訳ないと反省して尼さんになっていますから」
タカさんが見た髪の薄いオジサンは、きっと松山鏡の話と同じだったに違いない。
（10/03/18 10:00pm）
2018年10月3日
時代の読み
血眼でさがしていた大阪府警を尻目に、50日余りも逃亡を続けていた樋田淳也容疑者の逃亡時の様子が徐々に明らかになってきているが、当初の手配写真とは髪型ががらりと変わり丸刈りになり、色も日焼けして黒くなっていた姿で「日本一周」と大書したボードを掲げてロードバイクに乗っていれば一人で逃亡中の樋田容疑者だとは警察は勿論、素人は中々気付かなかったに違いない。
いかにも、日本一周の旅をしている青年！といった雰囲気を醸し出したのは、逃亡の途中で一緒になったこれまた盗んだロードバイクに乗って「日本一周中」という男と道連れになっての二人旅をよそおっていたこともあったと思う。
富田林警察から脱走しこそこそと逃げ回っているはず―という先入観が強かった警察や、一般市民は、大阪から400キロも離れた広島を日焼けした顔で、「日本一周旅行中」というボードを掲げて、カメラを向けられたら気さくにポーズを作って笑顔まで見せる（リクエストに応じてサインまでしていたという）男が、実は大阪を震撼させ、大阪府警を手玉にとっている逃亡犯だとは―とても思わなかったに違いない。
逃亡に関しては天才的とまでいえる、樋田容疑者にとっての手抜かりといえば、大阪での何件かのひったくりなどで手に入れた現金をほぼ使い切ってしまい持ち金が280円と尽きてしまい、万引きというリスクの高い行動を取らざるを得なかったことと、ふくらはぎにうさぎが打ち出の小槌を振って小判を出しているという――中々ユニークな図柄の刺青（タトゥー）を入れていたことだろう。身元不明の死体の確認でも、アザとかホクロ以上に、刺青は非常に役立つ確認手段だ。
外国人観光客がタトゥーをしていたために、「刺青入浴お断り」の温泉に入れなかった、という事件があり、「外国では刺青は普通であり、日本だけが国際常識から逸脱してタトゥーを差別している―」等という批判も聞かれるが、タカさんがよく行くスーパー銭湯や、温泉ランドでは未だ「刺青お断り」がまかり通っており、一般客も圧倒的にそれを支持している。そんな状況では、日本でタトゥーが「おしゃれ」として認知されるのはまだ先のことになりそうだし、刺青はタブーであり続けるだろう。
しかも、近年でも酒井法子や清原が刺青をしたことで、一気に白い目でみられはじめ、実際彼等が、覚せい剤使用で問題を起こしたこともあって、刺青イコール犯罪者、もしくは犯罪予備軍、といったイメージがさらに固定化してしまったことも、樋田容疑者にとっては不運だったともいえよう。
日本には古くから「身体髪膚（はっぷ）、之を父母に受く、あえて毀傷（きしょう）せざるは孝の始めなり」（人の体は全て親から頂いたものであり、これに傷をつけないようにすることは、親孝行の始まりである）（孝経）という教えがあり、タカさんの同年代だと耳にピアスの穴さえあけず今もイヤリングをつけている女性も少なくないが、最近の若い世代は、韓国に行って美容整形であごやほほの骨を削ったり、乳房にシリコンをいれたり「毀傷しまくり」でも「おしゃれの為なら自由でしょう！」というのが当たり前になってきたというから、後、数十年もすれば日本の刺青に対する考えも随分かわるかもしれないが―――。
樋田容疑者という逃亡の天才も、その辺りの時代の読みは完全に間違えていたようだ。
（10/02/18 10:00pm）
2018年10月2日
知恵者がいる?
現代生活に於いて水道、ガス、電気は生活に欠かせない。（なければ生活がなりたたない）従ってそれらのインフラ最重要品の料金は、公共料金といって、その料金を供給者が上げたい放題に上げることができず、料金は政府などの許認可が必要だ。
一般の商品を供給する企業であれば、その企業目的はぶっちゃけ「株主利益の最大化」（いわゆる儲けること）であるから、目的の為には料金を上げたり下げたり自由にできるはずだが、インフラ企業（公共交通機関なども）の場合、料金を自由に上げたり、下げたりは出来ない仕組みになっているという訳だ。
例えば電力会社であれば、本当なら電気の供給可能量が需要を上回っているならば、料金を下げてでも「もっと電気をジャンジャン使いましょう！」と宣伝した方がより儲かるだろうし、黙っていても皆が電気をジャンジャン使ってくれるような時期ならば料金をチョコっと位上げる方が儲けの最大化が図れるのに―――もちろんそうはいかないから、本来ならば一般商品を売る企業であればしないような宣伝―――例えば「節電にご協力を――」を等と「うちの社の製品をなるべく使わないで下さい―」等というCMを流す―――等ということもしなければならない。
今や、現代生活に於いてなくてはならないインフラだともいえる携帯料金は、95年までは電気料金などと同じように政府の許認可制であったのだが、当時の規制緩和ブームの一環として携帯サービスの会社が7社（あるいはそれ以上）にもなったことで、競争体制が整ったと判断した政府自身が、「今後は自然競争によって料金はどんどん下がるはず」と許認可制を廃止してしまったから、今現在、政府には携帯料金の上げ下げを命じる権限をもってはいない。
しかし、現在、携帯大手は三社（NTTドコモ、au、ソフトバンク）に集約されており3社の儲けの合計は18年3月期で約3兆円にも上る。消費税を予定通り上げたい政府としては、消費税による負担増（2.2兆円程度）での消費者からの反発を避けるためには、この携帯三社の儲けを削って庶民の喝采を浴びたいところだ。
そんな思いがあるからだろう、今年になって安倍首相の｛携帯料金は高すぎる」発言をフォローする幹事で9月になってからも菅官房長官は立て続けに「携帯三社は、儲け過ぎでおかしい、携帯料金は今より4割は下げられるはず！」と言いはじめている。本来ならば自由に料金を決められるはずの私企業に、なんの権限も持たない政府が「料金が高くてケシカラン」などと口出しするのは、企業活動への国家干渉として批判を受けるかもしれない行為だが、今のところ菅長官発言の評判はすこぶる良い。
2016年の1世帯当たりの電話通信料支出（固定電話を含む）は12万392円に達しているというのも事実であり、以降も毎年増え続けていることを考えると、年10万円に達しようとしている携帯電話料金が4割も下がれば、消費税上げによる負担増（約2兆円）の痛みも少しは和らぐ可能性もあり、庶民の消費税上げに対する不満も和らぐ可能性もあるから、政府としては携帯三社に対する値下げ要求のパフォーマンスは（例えそれほどの成果が上がらないにせよ）やっておいて損はない策だ。
携帯料金に目をつけるとは――安倍さんだか菅さんだか知らないが、中々の知恵者だと思うのだが―――。
（10/01/18 10:00pm）
2018年10月1日
破獄
デュマの「モンテクリスト伯」や、吉村昭の「破獄」等が今でも愛読されているのは、いずれも「脱獄」を扱っており、その方法が神業的といえるほどの知能犯であり、スリルに富んでおり、警察や検察という威圧的権力、権威に対して（弱き）個人がその鼻をあかす――ところに痛快さを感じるから―――かもしれない。
大阪府警富田林署の面会室のアクリル板を蹴破っての逃走－-という余りにも意表を突いた方法だが、後から聞いてみると実は綿密に計画、準備していたらしい犯人の粗暴犯に見えるが知能犯的要素や、更にはメンツを丸潰しされた大阪府警が意地をかけての、3000人態勢での捜索網を敷いたにも関わらず、それらの警察網も、尻目に50日余り逃げ回っており、もはや捕まらないのではないか―――とまで多くの人が思い始めた頃になって容疑者が大阪から西になんと約350キロも離れた山口県周南市内で、万引きを働いたのがきっかけで逮捕された―――というニュースには、あまりに長期の逃亡故に最近は、ニュースネタとしての面白み（？）がなくなったかのように、このニュースのフォローをしなくなり、やれ吉澤ひとみだのボクシングだの、貴乃花だのの（これまたどうでもいいような）ニュースで時間の穴埋めをやっていたテレビ局も、来週、少なくとも4-5日は、このネタに飛びつき、ひとしきりこのニュースで持ち切りになるのではないだろうか。（どういう逃走経路で逃げていたか―――協力者はいたのか――等々、興味の湧くところだ）
それにしても、結果論ではあるが「逃げた！」経緯を後から聞くと、（逃げた方が悪いには決まっているのだが）逃げられてしまった富田林署（多分、大阪府警全体も）間抜けさや、どうしようもないほどの管理の緩みには呆れるばかりだったし、別に警察に恨みがある訳でもないのに何だか笑えてしまうのはどういう訳だろう。（もう、何年も面会室のアクリル板がユルユルのまま放置されていたとか、弁護士の接見が終わって弁護士が帰った後も、被疑者を何時間も面会室に一人でほったらかして係員は誰もいかかった等という―管理体制の緩みというよりはたるみ―には本当に笑える）
こういう事件が起きると以前からの全国で一二を争うといわれる大阪府警やら兵庫県警でのダメ警察ぶりが再びネットでほじくりかえされるのも致し方ない。（警察と暴力団との度重なる癒着、裏社会からの袖の下――といった）
どんな不祥事が起きようが、絶体に「謝らない」ことで悪名の高い警察だが、今回ばかりは遅まきながら府警本部長が出てきて、謝罪会見に臨まなければいけなかったのも、まあ、事件の世間に与えたショックの程を考えれば致し方ない。
各道府県の警察組織に属する警察官は地方公務員であり府県本部毎に採用された人たちだが、府警本部長だけは国家公務員一種試験に合格し、国家公務員として警察庁で職に就いていたもののなかから抜擢され天下りしてきた人達であり、本部長として2-3年無事務めあげれば再び警察庁に戻り、警察エリートとして最終的には警視総監などのトップにもなるポジションだが―――まあ、残念ながら、今回の事件の総責任者である大阪府警本部長殿は、さすがに今回の件でエリートコースの道を閉ざされたと言えよう―――お気の毒に―――。
（09/30/18 10:00pm）
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