暴走列車アベノミクス

「計るだけダイエット」というのがある。一日一回、あるいは二回決まった時間に体重を量りグラフに書いていくだけでダイエットができるというものだ。

食べたいだけ食べて運動もせずにゴロゴロしていても体重計にのれば体重が減る、という訳ではない。体重を量る度に「ああ、昨日はちょっと食べ過ぎたなぁ〜」「ここのところ運動もしていないからだろうなぁ〜」と反省することになるし、その結果、思わず知らずに食事量を抑えるとか運動をするなどによって体重が、少しずつ減っていくし、体重グラフを見ることで体重減少を実感することで更なるダイエット効果が生まれるというものだ。体重計が減量の為の魔法だという訳ではない。体重を減らすための単なる補助道具に過ぎないということは、だれもが知っていることだ。

インフレターゲットはこの計るだけダイエットと似ている。2％のインフレターゲットを設定したからといって魔法のように物価が2％上昇するわけではない。あくまでも、景気政策、財政政策といった具体的施策こそが本質なのであって、そういった具体的な施策効果によって物価がどうなるかが計られるべきであって、安倍首相が日銀を脅しあげてインフレ目標2％を宣言させれば景気がよくなって物価が2％上がる―――などということはありえない。部屋の温度を上げたければ暖房するしかなく、温度計に意気を吹きかけて目盛りをあげてみたところで部屋が温かくなる訳ではないのと同じだ。

日銀（中央銀行）の役目とは本来、物価の安定である。「日本はデフレだから景気がよくない」というナンチャッテ経済論が大手を振っているが、日本の物価上昇が長く抑えられているのは、寧ろそれ以前の異常な物価が調整局面にあるからであり、今のデフレ状況は、「物価調整が続いている為」と考えることもできる。そうであるという見方に立てばこの間、日銀は金融論の教科書にある「中央銀行の第一の役割」を十分果たしてきたということにもなる。

今まで日銀が「目処」としていた物価上昇率1％でさえ度重なる大幅な金融緩和策実施にもかかわらず実現していないのに、「目処」を「目標」と言い換えたからといって今から20年前のバブル期に実現した「年率2％の物価上昇」が実現するなどと考えるのはもうオカルト経済論という他ない。

政治家は経済界などの「例えバブルといわれようが、物価がじゃんじゃん上がった方がいい」という勢力や、「企業が潤うおかげで増える税収で俺たちに回る福祉のばら撒きも増加するだろう」と期待する人達におもねることによって自分達の（政治家としての）地位を確保しようと図る。

どの国でも、政治家とは、インフレどころかバブルでさえ起きた方が自分達にとっては「得だ」と考える連中なのだ。そんな政治家から一国の経済を守るためには「中央銀行の独立性」は確保されなければいけないのだ。

アベノミクスなどとはやされるようになって、株も上がり、為替も円安傾向にあることで気をよくしたのか安倍首相の暴走が止まらない。その暴走に対して毅然と「中央銀行の独立性」をまもるべき立場にある日銀の白川総裁は、あっけなく白旗をかかげて2％のインフレターゲット設定を公表した。（多分、再任狙いといった個人的な事情でもあるのだろう）

欧州各国をはじめとする国際経済の日本の仲間たちも、日銀の独立性がこんな形で破られることに対する懸念と批判が高めている。「2％物価上昇が実現するまでの無期限かつ無制限の金融緩和」は、そのアナウンス効果だけで株式相場の上昇を招くかもしれないが、実質経済の裏づけのない株式相場の上昇は単なるバブルであるし、バブルは必ずいつかは潰れる。

アベノミクス効果で円安だと喜んでいる連中もいるが、円安によって輸入原材料費は既に高騰をはじめている。ガソリンの急激な値上がりによって、早くも運輸業界や消費者におおきなしわよせがきているように、円安にせよ円高にせよ為替というものは本来一国の経済にとってニュートラルな効果を及ぼすという基本が安倍さんには分かっていないようだ。

それに急激な為替の円安への動きに対して、アメリカの自動車業界を始め「日本の人為的な為替誘導」に対する反発もひろがっている。無邪気に「円安」を喜んでいる訳にもいかないということに日本人は気付くべきなのだ。

更に言えば、アベノミクスは「国土強靭化」などという名の下に、公共事業のばら撒きによって、かつての自民党政権時代の土建国家再現を狙っている。その為の財源確保には「日銀による国債の買入れ」などという禁じ手まで使うかまえだ。そんなことをはじめたら1000兆円にも及ぶ国の借金は更に増大し取り返しのつかないことになるだろう。

アベノミクスという暴走列車を早く止めなければ−−−！