おててつないで

参議院選公示前の今月3日、日本記者クラブで与野党党首による討論会が開かれた。議席を有し政党要件を満たす党の党首ということらしいが、昨年12月の衆議院選挙公示前の討論会では11党だったが、国民新党と新党改革、新党大地という3党が消滅、昨年はなかったみどりの風とかいう党が加わったが、結局今回は9党首討論会となった。

一時は13党などというとんでもないことになっていた「党首」討論会が、衆議院選での自公圧勝という中では淘汰されたということだろうし、参議院選では与党である自公が過半数を獲得し、衆参ねじれ解消となりそうだという下馬評がもっぱらだとなれば、半年で9党に減少した「党首」も、選挙後には更に淘汰されるのではないかと大いに期待される。

なにしろ、片手に足りない議員数の政党がねじれをいい事に、キャスティングボートを握り、横車を押してきたという政治混乱には辟易としていた人も多かっただけに、選挙後更に数党が減って、まともな「各党党首討論会」が開かれるようになって欲しいものだと思う。

それにしても、3日の党首討論会はひどかった。参議院選でのねじれ解消を確信しているのか安倍首相は、アベノミクスの宣伝に終始、憲法などの問題も曖昧な表現で逃げるなど「熱く政策を語る」というところがなかったし、対する野党も民主党を筆頭に安倍政権の経済政策に対する批判というか、ケチはつけるものの、「だから、自分達ならこうする！」という具体策を提示する政党は一つもないというお粗末さだった。挙句の果てには、討論会の終了後9党党首が壇上に並び「おててをつないで」ポーズを作るという、あまりにもヤラセっぽい気持ちのワルーイ記念撮影があるなどという実に醜悪で、後味も悪い討論会だった。

さて、そんな、討論会の翌日には公示があって、さあいよいよ参議院選挙か！と思うや否や6日には、マスコミ各社による、各党に獲得議席予測が出揃った。前評判どおり各社ともに異口同音で「自公で参議院過半数」だとか「民主不振」「みんな、維新伸び悩み」とい情勢分析である。

開票開始と同時に当選確実が出てしまうのと同じで、まだ自分達の選挙区に誰が立っているのかも知らない内に、選挙戦が始まった途端に、早々と議席数まで決まってしまったようなもので、選挙に対する関心は一気に薄れてしまったのではないだろうか。

各社の情勢分析通りの結果になるとしたら、選挙後には民主党やみんな、維新といったところがいつまで今のままで党を維持できるか、大いに疑問の起きるところだが、選挙後の政治面は、しばらくは、どこの党首が辞任に追い込まれたとか、どこの党が潰れた、といったゴシップめいた記事が、しばらく賑あわせることになるのだろうか。

次の選挙がいつになるのかは知らないが、その頃には党首討論会が5党位のすっきりした形になっていてくれるのではないかという多少の期待だけが今回の参議院選挙の意義であるような気がしないではない。

（07/07/13 9:00pm S.T.）

女性は偉大だ！

どう逆立ちしても男は女性にはかなわない、と思える理由は、人はだれしも母のお腹から生まれたという太古普遍の事実があるからだ。どう粋がってみたところで男には子供は産めない。

母は偉大だ、という気持ちが自分を産んでくれた母に対する尊敬の思いの基本にあるが、子供を産もうと思ったって（？）産めない男にとっては、母と同じ性である全ての女性に対する「どう考えても彼女たちには叶わないや！」という思いにつながり、それがつのれば女性に対する尊敬というよりは、畏敬もしくは崇拝といった強い思いになりがちである。

「女性は、とてつもない難事業である出産に耐えることができる強靭な生命力を持っているからこそ、男に比べて乳児死亡率も低いし、平均寿命も長いのだ」という説がまことしやかに流されているけれど、あらかたの男どもは「なるほど、それはそうだ！」と妙に納得してしまうところがある。

そんな中、スケートのミキティーこと安藤美妃さんがテレビ番組で今年4月に女児を出産していたと告白した。ワイドショーも週刊誌も大騒ぎだが、話題の中心は、彼女がこの女の子の父親が誰であるのかを明かしていないことで、「元コーチの誰某ではないか」「いや、彼は否定している」「どうも、日本人スケーターのxxらしい！」ともっぱらミキティーのお相手探しが中心だが、正直言ってスケートに興味のないタカさんは、それには全く関心はない。

しかし、浅田真央とともにあれだけ常にマスコミに追いかけられていたはずのミキティー本人が告白するまでの9ヶ月間、彼女は、大きなお腹を抱えて過ごしていたであろうに、出産3ヶ月後に本人が告白するまで、フライデーを含めてマスコミの誰もが気付かなかった―――という事実にこそ大いに興味が湧く。しかも、ミキティーは、来年2月に開催されるソチオリンピックを目指す、と宣言したというから「えっ！そんなことが可能なのぉ？」とこちらの方に驚くと同時に興味が湧く。

タカさんが大混乱を起こしているのは「出産というのは大変なことだと思っていたけれど、9ヶ月間、だれにも気付かれずにこっそりとできるものであり、出産後だというのに、これからあの激しいフィギアスケートという競技に復帰できたりするものなのだろうか？」と、今までの「出産信仰」が大いに揺るがされたからだ。今までの、出産に対するタカさんのイメージが、実はもの凄く過大なものであり、実は案外、たいしたことではない(?)としたら―――それこそ、タカさんの女性観が根本的に間違いだった、ということになるのだろうか−−−！！。

確かに以前から「出産は病気とは違う」だとか、「女性は、出産時の痛みを直ぐ忘れるようにできている」等という話は聞いたことがあるし、アメリカの産院では出産後直ぐに「シャワーを浴びてきなさい!｣といわれるとも聞いたけれど―――それにしても出産後、すぐにスケートを再開してオリンピックを目指してもいいものなのだろうか―――という疑問はどうしても拭い去ることができないのだ。

しかし逆に言えば、未だ1歳にもならない乳飲み子を抱えたミキティーがソチオリンピックでメダルを取るなどという偉業を為すことができたなら、それこそ「女性は偉大だ！」というタカさんの思いは益々強固なものになるだろう。

シングルマザーは凄い、ミキティーは凄いと思う反面、いまだに名乗り出ることもないこの子の父親は、一体、どうしているのかとも思う。やっぱり女性は凄くて、男は無責任でダメだ、ということなのだろうか。

ミキティーママには色々な意味で、是非、頑張って欲しいものだと思う。

（07/04/13 9:00pm S.T.）

父親の不行跡と子の責任

タレントの身内が犯罪で逮捕されたとなると、いわゆる「世間」が中々勘弁してくれないのが日本社会だ。好感度が高いタレントと言っても、目立つ存在であればあるほど「あのタレントは嫌い」だとか「体質的に嫌だ！」という人の数もそれなりに多くなるのは致し方ない。そんなところへの身内の不行跡、となるとそのタレントの人気に差し障りが出るのは致し方ないところだ。

ちょっと古い話になるが96年、テレビドラマなどで大活躍中だった某大物女優の未成年の次男が覚醒剤で捕まった時、「小遣いが月50万円などと、息子を甘やかしすぎていたからだ！」とか、｢親の監督責任はどうなるのだ！｣とその大物女優に対するバッシングが吹き荒れ、結局あの事件以来、彼女をテレビで見ることもめっきりなくなってしまったことを思い出す。

日本の社会は江戸時代からの「五人組」的な連帯責任を問う社会であり、まして逮捕者の親ともなると、例えその子供が成人していたとしても、「子供のやったことの責任は、親である自分にはもうない！」などと、欧米的というか、合理的なことを言っているようでは却って世間の反発を招く。（「親として世間様に申し訳ない！」という気持ちを持つということはあるだろうし、そうあるべきだとは思うが、法律的合理性からいえば、息子や娘の犯罪で親が謝罪したりする必要があるとは思わないのだが−−−）

さて、先日発表された「タレント好感度ランキング」で第二位に入ったタレント、ローラのバングラディシュ国籍の父親が、国民健康保険の海外療養費制度を悪用しての不正受給の指南役をしていたとして詐欺容疑で国際手配されたという。ローラ本人はまったく関係のない、父親の犯した犯罪なのだから、彼女には責任はないし、謝罪会見する必要すらない―――と思うのだが、どうもそうはいかないのがやはり「五人組」だの「一族郎党市中引き回しの上―――」などという意識の強い不自由な日本らしいところだ。

今、父親が指名手配中だからといって彼女を番組から降板させたりしたら「ローラが可哀想！」という視聴者もいるだろう、と思えばテレビ局側も、そう簡単には彼女を切ることはしないだろうし、タレント仲間もここはローラ擁護に回った方が自分の好感度が上がるだろう、という計算はするとは思う。

しかし、国民健康保険という公金の詐欺という、この父親の犯罪の悪質度から考えた場合、やはり一握りとはいえ「ローラをCMに使うとはケシカラン」という苦情がくる可能性もないではないだろう。そういうリスクがある以上は、一本2000万とも3000万とも言われる高いギャラを払って彼女をCMで使い続けようという奇特なスポンサーはいないのではないだろうか。CMで使えないタレントとなると美人おバカキャラといった特異さだけが売りというローラ程度のタレントの場合、いきおい出演機会も徐々に減っていく可能性は高いようにも思う。

某大物女優の次男が成人してから幾度か覚醒剤で捕まった時に、本欄では「子供の犯罪の責任は、親にはない！」という論を展開した記憶があるが（参照「親の責任はどこまで？」11/19/07他）、今回は、「親の犯罪は子にも責任があるのか？」という話だ。「全く責任はない！」というのがタカさんの主張だが、日本の社会は、この意見に、そう単純に頷いてくれるほどには寛容ではない随分とややこしい社会なのだなぁ〜という思いが増すばかりだ。

（07/03/13 9:00pm S.T.）

おしゃべりなスパイ

東欧某国のパスポートをもってNYの空港に到着したものの母国でクーデターが起きてパスポートが無効になってしまいアメリカ入国ができなくなった主人公が、国際線トランジットエリアに住み着いてしまって―――というトム･ハンクス主演の「ターミナル」を観て、国際線トランジットエリアがどこの警察権も及ばない、まさにエアポケットのような治外法権区域であることは知ったが、まさかそんなことが、現実に起きるとは思いもしなかった。

アメリカ国家安全保障局（NSA)による情報監視体制を暴露した元CIA職員、エドワード・スノーデン容疑者が、香港を追い出されてたどり着いたモスクワでも、亡命を受け入れてくれる国が見つからず、もうかれこれ2週間近くモスクワ空港トランジットエリアにいると聞いて、おとぎ話にも思えたあの映画の筋立てが、実はしっかりとした根拠に基づいていたのだ！――と驚いた。

スノーデン容疑者の行為が、本人がいうように国家による国民監視という「許されざる行為の告発」として英雄視されるべきことなのか、アメリカ政府がいうように「国家安全保障上の最大機密の暴露」であり、「国家反逆罪に相当する」ものなのかは、簡単に結論の出るような問題ではないが、国の威信にかけても反逆者の身柄を確保したいアメリカと、そのアメリカに一泡吹かせ、威信を失墜させたいロシアの双方が、「手を出せない」という今の状況は、映画同様、観客の立場からすると結構「面白い」事は確かだ。

しかし、考えて見るとスノーデン容疑者がバラしたNSAによる国民の情報監視、国家による各国大使館や国際機関などに対する盗聴行為（いわゆるスパイ活動）は、100年も前いやそれ以前から公然の秘密といってよいものであり、近年も、「エシュロン」によるインターネット監視によって、全世界の全メールなどの情報は全て監視されていることは、（勿論、各国の政府や情報機関は否定してはいても）だれもが「知っていた」ことであり、今更「世界中が驚愕！」といった類の情報ではなかったことは確かだ。　

「世界各地の大使館でNSAが盗聴をしていた！」と、英国の新聞が暴露したことで日本政府も「外交ルートを通じて真偽の確認を求める！」と公式見解を述べており、各国首脳も一応「説明を求める！」と息巻いたフリをせざるを得ないし、オバマ大統領も「同盟国が求める情報を提供する」等と神妙なフリをしているけれど、各国政府も、オバマ大統領も「お互いのスパイ合戦なんて当たり前だが、沢ぎになった以上は、一応無視する訳にもいかないし−−−」というのが本音だろう。

「実は、日本の情報機関も各国大使館に盗聴を仕掛けている」と聞いたとしても別に驚かないし、逆に「日本は諜報活動を一切やっていない！」と知ったら「日本はこれで大丈夫なのだろうか」と心配するのが「外交と言う、生きるか死ぬかの戦い」をやっている現場の感覚だろう。

昔の色町の女性は、客の名前や素性をバラしたりしないことが掟であったし、彼女達の矜持でもあったように、スパイ機関で働いている人間は、その秘密を「墓場まで持っていく」ことが国家に対する義務であったのだが―――。

風俗のお姉ちゃんが客の名前を週刊誌にぺらぺらしゃべってしまう世の中だから、スノーデン容疑者のようなプロのスパイまでもが「墓場にもっていくべき話」をぺらぺらしゃべってしまうのも致し方なかった、ということなのだろう。