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　　日々早々エッセー

バックナンバー集（2013年1-6月分）

2013年の上半期各月バックナンバー：1月、2月、3月、4月、5月、6月、

＜＜2013年：1-6月分 タイトル＞＞  
06/28 優しさの生まれるところ 06/21 そんなものもあったねぇ〜 06/19 時代は変わった 06/13 別に恨みはないけれど 06/07 オスの生き甲斐 06/05 当たる訳がない！ 06/04 強くなった！ 06/01 いつまでも思う夜 05/30 予知は困難 05/23 ゆるキャラ活用案 05/22 開運ブレスレット 05/17 どうする、日本の英語教育 05/16 格差社会 05/13 日光過敏症で思ったこと 05/10 お二人様手巻き寿司 04/26 100％安全信仰 04/22 ボケと認知症 04/19 みんなの既得権益 04/12 スタバもある！ 04/09 命を頂くということ 04/08 お初！ 04/05 昔話のおばあさん 03/28 堤防は決壊するか 03/26 再発防止に努めたい 03/22 素数という神秘 03/15 みどりの券売機 03/08 事情判決の法理 03/04 ベンサムとブキャナン 03/01 外国語がしゃべれたら 02/22 隕石落下！ 02/18 メガソーラーは救世主ではない 02/15 真冬のTシャツ 02/14 ローマ法皇の退位 02/08 カワイーイ 01/18 日本人と色 01/16 ぼったくり 01/15 罪刑法定主義 01/11 専門家の結論

2013年6月28日

優しさの生まれるところ

最近は電車内で通話をしている人をまず見かけることはなくなったのは、ケイタイマナーが改善されてきたから、というよりはケイタイの用途がメールとかネット、あるいはゲームといったものになり、通話機能が余り使われなくなった影響ではないだろうか。そういう意味では車内放送の「電源を切るか、マナーモードにして通話はお控え下さい」の内「通話はお控え下さい」の部分はもう省いてよいのではないかとも思うが、「優先席付近では電源を切り」の部分は、まだまだ続ける必要があるのではないかと思うような光景に先日出くわした。

先日、JRに乗っていて優先席の乗客を何となく見ていたら席に座っている30代位の男女全員、更に、つり革にぶら下がっている人、横のドア付近に立っている人もすべてスマホをいじっている。回りに、心臓ペースメーカーなどの医療機器をつけている人はいないようだし（まあ外見ではわからないが）、「体が不自由な方」も見当たらなかったから、「席を譲る」必要も、「電源を切る」必要も、なかったのだろうとは思うのだが、本来、高齢者や妊婦、あるいは体の不自由な人用に優先されるべき席が若い人たちに占領され？しかも「医療機器の妨げになるので電源を切りましょう」というアナウンスも全員に無視されている−−−という光景は、なんとも異様に思えたのだ。日本人が一体いつから、こんなにも他人への「優しさ」、「思いやり」を無くしてしまったのだろうか。

以前、心臓ペースメーカーを入れていたT君が「近くで携帯電話を使われるとやっぱり恐くなる」と言っていたことを思い出す。今も病院などではケイタイが禁じられているのは、多分それなりに「携帯の電波が医療機器の誤作動の起こす危険性がある」という科学的な根拠があるからだと思うが、もしそれが事実であるとすれば「優先席付近での携帯使用」を控えるようにという注意喚起はもっと徹底すべきだし、科学的根拠がないことが既に証明されているというなら、メトロでさえ全線でネット接続ができるようになっている今の時代「携帯の電源をお切り下さい」というアナウンスはもうやめていいということになる。

それに現在「優先席」が一般席となんら変わることのないみんなで「早い者勝の席」でしかないと言う状況を考えれば、偽善的に「優先席」などというものを設けておく必要性もないような気がする。体に不調がないのならば「空いていたとしても優先席には絶対に座らない」という位の矜持は持っていたいものだ。

「優先」というのは「強制」ではないのだから「疲れているとか、空いている、というならば、だれにでも座る権利はあるはずだ」という反論が起きそうだが、人としての「優しさ」「思いやり」というものは、権利だとか義務という言葉とは無縁の事柄であるはずだ。

もっとも、最近は弱者といわれる者の側も、「負担は軽く、福祉は手厚く」「生活保護は貰わなければ損」「席を譲られて当然だ」とたかりともいえる権利主張ばかりしているようこともおおいに問題だ。

みんながみんな権利主張ばかりしている世の中では「優しさ」は生まれない。

（06/23/13 9:00pm S.T.）　

2013年6月21日

そんなものもあったねぇ〜

中村草田男の句「降る雪や明治は遠くなりにけり」は昭和6年、彼が31歳大学生であった時の句だという。明治という時代が終わってから25年、大雪の降る朝、彼の青山にある母校の小学校近くを歩いている時に詠んだ句といわれているが、草田男の句の中では一番好きな句だ。

今、昭和という時代が終わってから25年だ。今31歳の若者の昭和という時代懐古の心境がまさに草田男の句の明治に相当するということになるのだろうか。

5歳か6歳だったときの記憶が、あの句のように鮮やかにあるものなのだろうか、とも思うが、あの時に40そこそこであった自分にとっては、確かに最近とみに「昭和は遠くなりにけり」の感が強い。

昭和レトロブームの火付け役にもなった、映画「三丁目の夕日」も、第一作は東京タワーが建設中の昭和30年代前半、昨年公開された第3作も、東京オリンピックが終わった昭和39年が舞台になっており、映画の主人公淳之助の年など正にタカさんとぴったり同じ位だけに、自分にとってはあのシリーズは、まさに「ストライク！」の懐かしさがある。

あらためて考えてみると、草田男が「明治は遠くなりにけり」と感じたのは、やはりわずか25年の間に、時代があまりにも変わってしまったからではないか、という気がする。自分にとって「昭和が懐かしい」のは、やはりこのわずか25年で、日本の町の風景も、社会の様子も、まったく変わってしまったと感じるからだろう。失われたものだからこそ懐かしいのだ。

一例をあげれば、女性の服装一や、髪形だ。昭和60年代の映像でみると全く信じられないような変わり様だ。まして昭和30年代となると（「三丁目の夕日」では）町のおかみさんの中には和服に割烹着をきているという、いまの子供にとってはまるで時代劇のような服装や髪型がある。

映画の中の町の景色にしても、例えばデパートや大手スーパーは必ずと言ってよいほど、アドバルーンをいくつもたなびかせていたが、今や見上げる空もないほどに高層ビルがたちならぶ東京では宣伝効果もあがらないからだろうか、アドバルーンなど見ることもなくなってしまった。

最近、ニッポン放送の朝の番組で「日本絶滅種辞典」という、主に昭和にはあったが最近見なくなった、聞かなくなった言葉や物を懐かしむというコーナーがあって、昨日、このコーナーで『セスナが空から「大売出し！」などという宣伝ビラを撒き、子供が夢中でそれを「何枚拾えるか！」などと競争でおいかけたりもした―――』というのが取り上げられていたが（あのセスナ広告も、もう随分昔に、「子供が車にはねられる危険性がある」として禁止になったらしい）、アシスタントの女性（多分随分若いのだろうが）、まったく想像もつかないようで、反応ゼロだったのを聞いてつくづく「昭和（といっても昭和30年以前）は遠くなりにけり−−−」と思った。

この調子でいくと、今から25年後、今7歳と4歳の孫たちが大人になった時には、何を懐かしむようになるのだろうか、まったく予想もできない。案外、スマホ位でも、「ああ、そういえばそんなものもあったねぇ〜」などという話になっているかも−−−。

（06/02/13 9:00pm S.T.）

2013年6月19日

時代は変わった

今年3月から、地下鉄でも全区間でインターネットやE-メールの接続が可能になったということもあるのだろうか、今や移動中の車内の半分以上の人が、スマホやケイタイをいじっている。

若い頃から短い乗車時間でも、なんだか手持ち無沙汰な気分がして必ずと言ってよいほどに新聞か本を手にしていたタカさんだが、先日、ふっと車内を見回したら、本や新聞を読んでいるのは、どうもタカさん一人だけで、あとはスマホかケイタイ、という状況になっていることに気付いて−−−自分だけが時代から取り残されているようで愕然としてしまった。

少し前には、朝の通勤電車では背広にネクタイのサラリーマンが「日本経済新聞」を読みながらつり革にぶら下がっている−−−というのが定番だったし、帰宅時の電車では夕刊タブロイド紙を読んでいる−−−人が多かったことを思い出すと、ここ数年の車内風景の変わり様は、まさに激変という言葉がぴったり、という気がする。

今、車内でケイタイなりスマホなりをいじっている人たちが、あれで何をしているのか、と好奇心が湧く。聞くところによると、もちろん、ネットでその日のニュースや、天気予報などの情報を読んでいる人もいるが、大半はメール、パズドラなどのゲーム、Face bookやTwitterなどをやっているのだという。その一方、あの鳴り物入りで「便利だ！」と宣伝されたキンドルなどの電子書籍は（電車内では）まだほとんどいないのだとか。そうなると、ほんの数年、数十年前に、あれだけ車内で読まれていた新聞、雑誌、そして書籍といった紙のメディアの利用者は、「激減」しているということになる。「出版不況」だと巷間盛んにいわれるのも、大いにうなずけるところだ。

通勤時の新聞から得られる情報、文庫本から得られるわずかな情報だけでもアップアップしていた時代に比べたら、今、現代人が得られるようになった一日当たりの情報量はその数十倍、数百倍、いや数千倍にも匹敵するかもしれないが、他人事ながら心配なのは、受ける側の人間の情報処理能力、情報吸収能力は昔と余り変わっていないということだ。

Face bookの友達申請で100人の友達ができたとしても、じっくりと人生を語り合える友人は今も昔も、少数に限られる。Twitterで数万の人々に情報発信できたとしても、自分の真心が伝わる人の数は、今も昔も変わらないはずだし―――などと思うのは「ケイタイを持たない主義」の負け惜しみだろうか−−−。

そういえば、ケイタイやゲーム機が使われるようになる前は、電車に乗ってきた幼い男の子は、靴を脱いで窓に向かって座り、口をあけ車窓の景色を見ていたものだが、最近の子供は、DSなどに熱中、車外の景色など見向きもしない−−−やはり「時代が変わった」ということなのだろうが、幼い日々に眺めた車外の景色は、DSゲームと違って、一生の思い出になるのになぁ〜などとも思うのだが−−−。

（06/18/13 9:00pm S.T.）

2013年6月13日

別に恨みはないけれど

気象庁が先月29日に「つゆ入り宣言」を発して以来、昨夜まで2週間、関東地方では全く雨が降らなかった。

ある気象予報士が「今年は今のところ、空梅雨でして−−−」と言っていたけれど、「つゆ入り宣言がハズレた、というのと空梅雨というのとでは、どう違うのですか−−−」とキャスターに突っ込みを入れられて困った君、になっていたのが笑えた。

「記録をとり始めて以来最も早いつゆ入り−−−」などと、したり顔で宣言していた予報官も、さすがに関東では2週間近く雨が降らないとなると、随分と焦ったのではないだろうか。まあ、そういう訳だから、昨日午後から雨が降り出した時には、多分、気象庁予報室では歓声が上がったことだろうし、ひょっとしたら、その日の夜は、全員が、祝賀会に繰り出したかもしれない。

もっとも、この雨も「台風3号の影響」だというから「つゆの雨」とはちょっと違うような気もするけれど、「そんな細かいことはどうでもいいじゃないか、降ることは降ったのだから−−−」というのが、ハズレても、ハズレても、恥じ入ることもなく予報を出し続ける（厚顔なる？）天気予報士の生業なのだから―−。

仏壇の前の線香の煙の動きを完全に予測することは不可能だ。その部屋に流れ込む外気の微妙な動き、仏壇の前に座っている人の体温、あるいはその人のちょっとした体の動きや、息の向きや強さ、といった数限りない（無限ともいえるほどの）要素とその変化を完全に読みきることができるならば、一見、「完全なる線香の煙の動き予測」が可能なようにも思えるけれど、こういった実に様々な要素（エネルギー保存の法則でいうところの「エントロピー」）は、「増大し続ける」という「熱力学の第二法則」からすれば、これらの動きがどのような結果をもたらすか（いわゆる予測）が「不可能」であることは科学的に証明されている。

複雑系（Complex System）の有名な例、バタフライ効果（北京の一羽の蝶のはばたきが、遠く離れたシカゴに大雨を降らせる）も、基本はこのエントロピー増大の法則に基づくものだし、二重振り子（振り子の錘の先にもう一つ振り子を吊るした場合、この二つの振り子の動きを予測することはできない）の実験(興味のある方は、ネットで検索するといくつかの画像があります)も同じだが、要するに「数多くのエントロピーが複雑にからみあって起こる現象の結果はカオスである」という原理を、天気予報にせよ、地震予知にせよ、あるいは株価や競馬の予想を生業とする人、あるいはその予測、予報を信じてしまう人たちは、分かっているのだろうか−−−。

今日本に近づきつつある台風にしてもそうだ。今まで、例え一度でも一週間前から気象庁が発表する「台風針路予報円」が、ピタリと当たったことがあるだろうか。九州に上陸する予想が外れて四国に上陸−−−ならば、まあ当たったといえるかも（？）しれないが、上陸するという予報が全くハズレて、快晴が続いた−−等ということも、一体何回、何十回あったことだろう。

お天気キャスターやお天気お姉さんに、別に恨みがある訳ではありませんが−−−。

（06/12/13 9:00pm S.T.）

2013年6月7日

オスの生き甲斐

動物番組、例えばNHKの「ダーウィンが来た」等が、あのかつての人気長寿番組「水戸黄門」と似ているような気がする。黄門様ご一行が通りすがった藩で善良な男女が、何らかの事件に巻き込まれている。事件の裏には、悪代官だったり悪徳商人だったりがいて権力や金の力を嵩にきて男女（往々にして二人は恋仲だ）に横車を押してきていて−−−という訳だ。番組開始早々に、助さん格さんが印籠を見せてしまえば良いものを−−−毎回、状況判断がよくない黄門様が「助さん格さん、ここはしばらく様子を見ましょう！」などと言い出すものだから、皆が事件に巻き込まれてしまい、なんだかんだで事件解決までに50分位かかってしまう−−−という難点はあるものの、善人は善人顔、悪人は悪人顔をしているし、なにしろハッピーエンドになるという「お約束」があるだけに、老若男女、誰もがたいして頭を使わずに楽しめた−−−というところが「水戸黄門」が42年も続く国民的長寿番付となった理由だったと思う。

「ダーウィンが来た」もまずその回で取り上げられる様々な生き物の生態紹介からはじまり、その生き物が「恋の季節」（子供が見ているからこういう表現になるのだが、要するに交尾の季節）を迎え、メスを巡ってオス同士が猛烈に闘い、子供が生まれ、子育ての苦労があって、親たちが、必死に子供達を襲いかかる天敵から守る−−−という感動シーンもやはり「お約束子」の一つだが、何しろ、最後は巣立ちというハッピーエンドとなるのは、助けられた男女が幸せに包まれ、ご一行の旅立ちを見送る−−「水戸黄門」のラストシーンそっくりである。

いや、なにも「ダーウィンが来た」と「水戸黄門」の共通点を言いたかったのではない。「ダーウィンが来た」を見ていると、人間を含めた生き物全てが、「子孫を残すこと」にその生涯をかけているという「お約束」があまりにも厳然とした事実としてある、ということをあの番組を見ていると感じさせられるということを言いたかったのだ。「人は、なんの為に生きているのか？」などという哲学的な思いにかられる時、あの「ダーウィンが来た」を見ると、きっとその疑問は氷解するかもしれない。

ところで、百歩譲って、人の(動物としての)生きる目的が「子孫を残すこと」だとしても、我々男性（オス）はどうなるのだろうかという疑問が次に湧いてくる。ほとんどの生き物ではオス(父親)は、交尾したら終わり、子育てには参加しない。（ライオンもアザラシも、オスは子育てには全く無関心だ）人間にもっとも近いといわれるチンパンジーやゴリラだって、父親が子育てに（ほとんど）参加していないところをみると、人間だけが他の生き物とは随分と違ってきているように思えてくる−−−。

わが子を「自分のお腹を痛めて産んだ」女性には、本能的な母性本能がそなわっているのは理解できるが、お腹を痛めることもないし、この子が我が子であるという生理的な確信がもてない男性が、父性を持っているのはなぜだろう。

「ユダヤ人」であることの第一条件は「母親がユダヤ人であること」である。父親がいくら「この子は我が子だ！」と言ってもユダヤ法では認められない―――至極、合理的な考え方ではないか−−−。

「水戸黄門」と「ダーウィンが来た」から「父性とは何か」「男の生きる目的は何か」を思わずかんがえてしまったのは父の日が近い所為だろうか。

（06/06/13 9:00pm S.T.）

2013年6月5日

当たる訳がない！

気象庁が「関東・甲信はつゆ入りした」と発表したのが先週の水曜日、あれから一週間、雨はさっぱり降らない。寧ろ、暑くなってきているくらいだから、「つゆ明けしたの？」などという冗談すら聞こえてくる。それにしても−−−相変わらず当たりませんねぇ〜気象庁さん！

千葉ロッテマリーンズのホームであるQVCマリンスタジアムでは休日限定だが、87歳になる元漁師のおじいさんによるその日の天気予報を球場ビジョンで発表している。若い頃は幕張の漁師、現在は球場内のモツ煮店オーナーでもあるというこの「お天気当て名人」は、その生涯を通じて、お天気が命という職業に携わってきたこともあって(球場のモツ煮店も試合が中止になるかどうかが仕込みなどに大いに関係している)その的中率が高いことで有名な人であるのだとか。

明日どころか今日、雨が降るかどうかでさえ中々当たらない気象庁と、このお天気名人の「体感天気予報」とでは一体、どちらの成績がよいのか、誰かきっちりと検証して欲しいようにも思う。

試合予定日に、屋根なし球場であるQVCで雨が降るのか降らないのか、あるいは今降っている雨が試合開始時間までには止むのか止まないのかは、年間数十回は球場に出かけてマリーンズの応援をしているタカさんにとっては、結構重要な事柄である。降らないと言っていたからと、すっかりとそれを信用して出かけてみたら海浜幕張の駅で「本日試合中止」の知らせが出ているのを知りすごすごと帰宅したことあってあの時はつくづく「天気予報などを信用した自分がバカだった！」と、悔しい思いをしたものだ。

まあ、往復の交通費がムダになっただけのタカさんなら、その被害たるやたいしたものではないが、ゲームの主催者、選手などの関係者、球場内外の飲食関係者や場内販売アルバイトにとっては、予報の当たり外れは笑い話で済む話ではない。

とはいうものの、膨大な気象のエントロピーが複雑に作用しあった結果で起きる天候の変化を、いかに凄いコンピューターを使ったところで、ピタリと当てることなんてできない相談だということは、ちょっと科学的な思考ができる人ならわかりそうなものなのに。

ちなみに、凄い、凄いといわれる体感天気予報にしても、外れることは（しばしば）ある。もしベテラン漁師や船乗りの体感予報が当たるというならば、昔からの数々の漂流話などは起きなかっただろうし、蒙古来襲が「神風」によって撃退された！などということも起きなかっただろうに−−−。

天気予報ですら中々当たらないというのだから、地中深くでの大陸プレートの複雑な動きやら、無数にある断層同士の複雑な動きによって起こる地震などを、日単位、月単位、あるいは年単位で予知しよう！などということが、「できる訳がない！」ということに、気付かない人がどうしてこうも多いのだろうか。

「マグニチュード7の地震がxx年以内に起きる確率はxx％」などという地震予知が随分とセンセーショナルに報じられる昨今だが、気象庁の「3ヶ月予報」と同じ、いやそれの何百分の一以下の信用度しかないのではないか？という疑いは拭えない。

（06/04/13 9:00pm S.T.）

2013年6月4日

強くなった！

ボールが飛びすぎて一発のホームランで決まる試合ばかりで面白くない！という声があったこともあり「飛ばない」といわれる統一球が採用されて今年で3年目を迎えたプロ野球だけれども、飛ばないはずのボールが何故か今年は随分と飛ぶようになって、各チームとも昨年比大幅にホームラン数が増えている。

飛びすぎたら飛びすぎたで「大味な試合ばかりで面白くない」と言っていたファンが、統一球を採用してからの昨年までの2年間は今度は、「野球の醍醐味であるホームランが減って面白くなくなった」と言い出した。プロ野球も客商売である以上は、「お客様は神様」なのだから今度は、統一球を止めるのかと思ったが、そこはそれ、メンツを重んじるプロ野球コミッショナーだけにわずか3年で「統一球ヤーメタ！」というのも恰好がつかないとでも思ったのだろうか、「統一球は昨年までのものと変わらない！」との公式コメントを出している。しかし、裏では、こっそり「飛ぶ統一球」に変えているのではないか？という勘ぐりが、ファンやマスコミ、選手間でさえ囁かれている。

統一球導入前の2010年のプロ野球の、ホームラン総数は1605本であったのが、統一球を採用した初年度2011年は939 本・2012年は881本と確かに激減しているにもかかわらず今年2013年は、各チーム年間144試合中の約1/3強である50試合前後を消化した時点で既に460本と昨年のホームラン数の1/2強に達している。これは一試合平均では1.48本に相当するから、この勢いで行くと今年の年間ホームラン数は、1278本にもなる計算だというから確かに日本野球機構（NPB）がいう「昨年と変わっていない！」という言葉は、眉にツバつけて聞かなければ−−−と思うファンが多いのも当然かもしれない。

中には、今年のボールが飛ぶ理由として「打者が慣れてきた」「バットの性能向上」を上げる識者もいるようだが、打者の多くが「明らかに去年よりはボールが飛ぶ」といっていること、あるいはピッチャーや外野手の中には「明らかに昨年までの2年間ならば、外野フェンス前で落下していたような飛球が、今年はスタンドに届いている」という実感を語る者もいるとなると、やはりNPBの「変わっていない！」というコメントの信憑性は低いようにも思う。

勿論、統一球が採用されてから3年目となれば、そこはそれ何しろプロである選手達が技術を磨いた結果、統一球の規格は変わらないけれど、飛距離が出せるようになったのだろう、というプロ野球選手の技能の凄さに注目する見方もあり、小さい頃からプロ野球選手に憧れて育った（小学生の頃の夢は、「プロ野球選手」だった）タカさんとしてはこの説を信じたいところだが−−−。

ちなみにタカさんのパリーグの贔屓チームである千葉ロッテマリーンズは、昨年からほとんどと言ってよいほど主力メンバーが変わっていないが（なにせ金のないチームなので）、昨年144試合で64本だったホームランが、今年は51試合終わった昨日の時点で35本である。昨年とほぼ同じメンバーがこれだけ打つようになったということは、素直に今年の千葉ロッテは、「進歩しているし、強くなった」ということなのだと信じたいのだが−−−。

飛ぶボールの謎の答えを考えながら観戦するのも又一興ではあるだろう。

（06/03/13 9:00pm S.T.）

2013年6月1日

いつまでも思う夜

その幼い日々も若い時期にも、家族とともに何年もアメリカで暮らし、大学を出てからはキャリアウーマンとして溌剌として活躍していた麗子だから亡くなってから12年が経つからといって仏教でいう十三回忌という法要も似合わないように思うし、本人も恐らく望まないようにも思うので、あの娘の亡くなった日には極々近親者だけでお墓に集まって彼女を偲ぼうと思っている。

それにしてもあの日から早くも12年が経ったとは中々実感できないことだが、自分も既に60半ばとなり、麗子の生前にはまだこの世に生まれていなかった彼女の甥っ子や姪っ子ももう小学生と幼稚園生となっていることを思うとやはり生きているものの世界は時と共にあの日から遠くへ流れてきてしまったことを実感させられる。

仏教儀礼としての十三回忌も、物の本によればこの年以降の回忌法要は、近親のみで行い服装についても普段着に近い物でよい、となっているようだ。人の世の知恵は、千年以上も前から離別から12年近くたてば、そろそろこの世に生き残っているものも、平常心で迎えなさい、と言っているのかもしれないが―――父親にとっては、12年位ではとてもとてもそんな気持ちにはなれはしないけれど―――。

当時巨人軍の4番打者だった松井秀喜が同学年だということを麗子が言っていたことを思い出す。「同学年でもあちらは年俸5億円、私は―――」と冗談交じりに言っていたが製薬会社勤めのキャリアウーマンとして彼女なりの自負もあっての余裕の発言だったのだろう。

その松井ももう38歳、大々的な引退式までやって一線から退いてしまったというのだから―――やはり12年という年月はそれなりに長い時間だったということなのかもしれない。

あれから12年、今38歳になっている彼女は、生きていたらどんな女性になっていただろうかと思う。妻によれば、麗子は「お母さんのような主婦になりたい」とも言っていたというから結婚していたかもしれない。結婚してからも仕事は続けていただろうか、それとも専業主婦になっていただろうか。子供は何人いただろうか―――若くして亡くなった娘の父親としては、いくら考えても詮無い事だとは思うものの、ああだ、こうだといつまでもいつまでも思う夜である。

（05/31/13 9:00pm S.T.）

2013年5月30日

予知は困難

英国の歴史学者パーキンソンは官僚制を観察していく中からあの「パーキンソンの法則」を提唱するに至った。とりわけその第一法則「官僚組織は無限に増殖し続ける」は何も官僚組織に限らず人間社会における組織というものの真実を突いた言葉として有名だ。いや、組織ばかりではない一旦作ったら無限に増殖し続けるものは数限りなくある。

公共事業、例えば道路建設は、初期の計画（全国高速道路網建設xx年計画といった類の）が達成された後でも、その後、必ず「第xx次大規模拡張・延伸計画」といった物やら「大規模補修計画」が作られ、道路建設の権限をもつ省庁やその関連団体、あるいは周辺企業の組織と人員は増え続けることになる。

それはそうだ、道路建設なり何なりの権限でメシを喰っている連中、その利権のおこぼれでメシを喰っている連中にとっては、公共事業の打ち切りや縮小は自分たちの「オマンマの食い上げ！」に直接つながってしまう。どんな手を使ってでも道路建設を続けようとするし、その道路建設のおかげで票と利権をエンジョイしている議員先生たちも建設を止めようなどとはしない。

大型の科学プロジェクトも公共事業と全く同じだ。何百億、何千億の予算がついて何千人、何万人の人がそれをおまんまのタネにしているとなれば、それを止めるだとか、縮小するなどということに賛成する関係者はいない。

東日本大震災を予知できなかった地震学界だが、以前から良識ある多くの地震学者が「地震の研究は進めるべきだが、現時点では（そして近い将来においても）確度の高い地震予知はできない！」と言っていたにもかかわらず、あの未曾有の大災害にうろたえたというよりは、そこにつけ込んだ官僚や、地震学者たちの中には、「もっと予算をたくさんかけて地震予知をできるようにすべきだ！」という者がいて、又、あの酷い経験から「金をかければ予知が可能だとしたら地震予知にもっと金をかけるべきだ！」と叫ぶ素人が多くいたこともあって巨額な地震予知研究予算が組み込まれることになって久しい。

一昨日、政府の中央防災会議は「南海トラフ巨大地震の予知は困難」という最終結論を出した。巨大な予算を使った結論が「予知は困難」というのでは、今まで大騒ぎをして、巨額の研究費をかけたのは何だったのか！！ということにもなるが、マーフィーの法則通りならば「もっと予算と時間をくれれば、予知は可能！」といいそうなこの防災会議メンバーの中には、多くの「良心的科学者」がいたということではないだろうか。

自らの研究分野へ予算が付く理由を、自ら否定したのだから、官僚自身が「自分のいる部署、省庁はムダ」といったにも等しい勇気ある行動に思える。

防災会議の結論は「巨大地震の確度の高い予知は困難だが、地震（津波も）に対する防備には万全を期するべきだ」というそれこそ100年近く前に寺田虎彦が言った言葉にもどった訳だが、まさにこれこそ正論ではないだろうか。

「地震予知研究」で予算と権限の拡張をはかってきた政府の役人の中には「困難といって諦めるのは問題だ！」などと未練がましいことを言っている者が多いけれど、やっぱり官僚という奴は予算を分捕ることのみが目的化した人達だということなのだろう。

（05/29/13 9:00pm S.T.）

2013年5月23日

ゆるキャラ活用案

家族連れでディズニランドに遊びにいくと時間によってはミッキーやミニーちゃんと会えて一緒に記念撮影などができることがある。ミニーちゃんが出てくると、わっと人が群がってくるが、中には2,3歳になる子供を抱っこした若いお母さんが「ほらっ！ミニーちゃんよ！」とその子と一緒に写真を撮ろうと突進してくることもよくある。ところが、お母さんの熱意にもかかわらず幼児の多くは、泣き出してしまう、というのはよく見る光景だ。幼子にしてみたら異様にでかく、アンバランスな三頭身（？）、しかも表情が変わらないミニーちゃんは、いつもみていた小さなぬいぐるみのミニーちゃんとはまったく違うものに見えるのかもしれない。そんな幼児をみるといつも、「喜んで呉れると思って近寄った子供に泣かれた着ぐるみバイト（？）は、困っているのだろうなぁ〜」と可笑しくしょうがない。確かに、ミニーちゃんにせよ、ドナルドダックや七人の小人達にせよ、あの異形とあのデカさ等を考えると、あのキャラクターを知らない人には、モノノケ的に見えなくもないし、大人でも一瞬「ちょっと気味が悪い！」と思わないではないところがある。

ミニーちゃんたちのような遊園地の着ぐるみばかりではなく、町には様々なマスコットや着ぐるみが溢れていて、このごろは市町村や官公庁などのマスコットの着ぐるみも加わって「ゆるキャラブーム」だそうである。奈良のセント君が当初「気味が悪い！」と反対論が出たりしたことがあったし今も、「気持ち悪い」とか「ブサイク過ぎ！」などと評判の悪いものもあるが、既に二千とか三千あるという「ご当地ゆるキャラ」の大半は「カワイイ〜！」と人気があるようだ。

今や、ゆるキャラを持たない市町村は、「遅れてるっ〜！」とか「メチャ、田舎！」と思われて、肩身が狭いと迄いわれている。(我が町も、かつてはアサリの名産地だったというので「あっさり君」という、ゆるキャラがいる―――アサリの剥き身がハチマキをしている姿は、なんだかちょっとキモイが―――)

「地方重視」だとか「ご当地ブーム」という波にのった市町村のゆるキャラにくわえて、このごろは全国各地の役所、警察、消防、裁判所や検察庁、はては自衛隊などもマスコットや、ゆるキャラを持っている―――今やゆるキャラは「日本独自の文化」とさえいえるのかもしれない。（もし、ロスアンゼルス警察に「LAPD君」などというゆるキャラいたら、「警察はたるんでいる！」と市民の反発を食うだろう）

ゆるキャラは、警察や自衛隊の厳めしいというか硬いイメージを親しみの持てるイメージに変える、という効果を狙っているのだと思うが、もし本当にそんな効果があるというならば、ギスギスした領土問題を柔らかいムードに変える目的で「センカクちゃん」「タケジーマ君」「ホッポーちゃん」などというゆるキャラを作って大宣伝してみてはどうだろう―――（「ふざけるな！」とゆるキャラが焼討ちされるかなぁ〜）

上海万博やロンドンオリンピックではマスコットやら着ぐるみは、カワイイ日本のマスコットとは違って「何となく気持ち悪い！」ところがあったが、世界一のアニメ王国である日本の造形力は優れていると−−−と自信をもってもよいような気もする。

まあ外交ゆるキャラの前に国内で揉めている事案で試してみるのも一計だ。「96ジョー」とか「ティーピーピーちゃん」なんていうのはどうだろうか。

（05/06/13 9:00pm S.T.）

2013年5月22日

開運ブレスレット

雑誌広告でみた「開運ブレスレット」を購入したのをきっかけに徐霊代金など計1400万円を支払わされたとして、関東在住の女性2人がその広告を掲載していた雑誌社2社と広告代理店1社を相手取り損害賠償を求める訴訟を起こしたという記事があった。果たして、この提訴が取り上げられるのか、はたまた訴訟の行方はどうなるのか、野次馬的に大いに興味がある。

ブレスレットやら壺を買えば運が開けるとか、祈祷などによって悪霊などを徐霊することができる！等という話を信じる方がバカだし、そういった話に乗ってしまうバカから金を巻き上げる手合いは詐欺師であり、広告料を稼ぐためにそういう詐欺師の片棒を担ぐ雑誌社や広告代理店も風上に（風下にも）置けないワルだ！とは思うものの、果たして裁判に於いてこの詐欺師達と、詐欺師の共犯者を罪にとうことができるのか？となると、法律には素人である身では判断に迷うところだ。

あれだけ、散々警告されているオレオレ詐欺（最近は、「母さん助けて詐欺」とかいうらしいが）に引っかかってしまう高齢者（？）を単純に「被害者」と言ってよいのか？とおもわないではないが、開運だとか徐霊といった話を信じ何百万、何千万の金を払ってしまう人達も又、通り魔に刺された人と同じように｢被害者｣と同類項で呼んでよいのかという気がしないではない。

提訴者二人はその理由として「同様の開運商法に行政処分が出されているのに、出版社は広告を漫然と掲載し続けた」ことをあげているようだ。しかしここで気になるのは、「行政処分」とは「行政指導」よりちょっと強い行政庁の権限でしかなく、刑法上の「罪」とは違うという点だ。開運だの徐霊だのといって「迷える人達」から金を集めるのは、奨励される行為ではないが、かといって「刑務所にぶち込むぞ!｣というほどのものではない―――「ほどほどにしておけよ!｣と叱っておく―――といった程度のもの、というニュアンスだ。

そういう意味ではこの雑誌社や広告代理店がやったことも「やってはダメだと叱られたのに、又、同じことをやっている奴の片棒を担いだ！」という程度のことであり、罪だとか損害賠償の対象になるようなものでもない―――とも思えなくはない。

そもそも、開運だとか徐霊が「詐欺行為だ！」となったら、世界中の宗教は皆詐欺罪になってしまうし、教会や神社への過去の寄進はみな損害賠償対対照になってしまう。宗教なんて、教える側も、信じる側も、お互い納得ずくでやっていることであり、被害者だの加害者だの行政処分といった言葉はそぐわないという気がしないではない。

心霊ブレスレットが詐欺ということになると、これに類した詐欺は世の中に溢れかえっているということになる。水子供養はどうなる？　易や占い、あるいはテレビで毎朝やっている「今日の運勢」はどうなる？

大スポーツ新聞に全面、あるいは二面ぶち抜きで出ている競馬予想サイトの「先週も、全レース的中！」といった広告も全部詐欺罪に問われることになるだろうし、そうなれば「日刊スポーツ」や「報知新聞」は損害賠償請求でたちまち立ち行かなくなってしまうだろう。競馬にせよ競輪にせよ、全レース的中させようとすれば、全レースの全買い目を買わない限り不可能であることは、誰にでも分かることだ。

新聞社もそれが分かっていながらインチキ広告を載せている訳だが、たしかにそれは新聞社のモラル、倫理としては非難の対象にはなるだろうが、そんな単純なダマシテクニックに引っかかって、予想料ウン万円巻き上げられた奴が単に「アホだっただけ」というだけの話であり、「被害者」もそれを知っているから恥ずかしくてまさか訴えたりはしないのではないだろうか。

いずれにせよ、開運ブレスレット裁判の行方に興味津々である。

（05/21/13 9:00pm S.T.）　

2013年5月17日

どうする、日本の英語教育

自国語を誇りに思うというのは世界各国の人々の共通した思いではあるが、フランス人のフランス語に対する思い入れは半端ではないことはよく知られている。

「世界で一番美しい言葉はフランス語である」というフランス人のお国言葉（？）自慢は、京都人の京ことば自慢のようなものであり微笑ましい―――などと思っていたが、はじめてパリに行った時、地下鉄(メトゥロ）の案内所（インフォルマスィオン）で英語で道を尋ねたら、「全く理解できない！」というフリをされて無視された時には、「お国言葉自慢もいいかげんにせぇ！このコチコチの国粋主義者メ！」と思ったものだった。（いかに英語が苦手といわれる日本でも、東京駅の地下鉄「総合案内所」の案内係が英語はまったく分からないということはあるまい。まして、欧米圏のフランスのしかも大パリ地下鉄の総合案内所の係員が英語を全く理解できないなんてあり得ない！と思ったのだ）

たしかに、それ以前にパリ駐在が長い友人から「フランス人はフランスの国土の中でフランス語以外の言葉が使われることを認めようとしない」と聞いていたこともあり「ああ、これがかの有名なフランス人のフランス語に対する熱愛なのだなぁ〜」と思ったものだった。

それ以降も幾度かフランスに行ったが、ホテルのコンシェルジュ以外で英語は通じない（通じているのにわざと「そんな野蛮な言葉は知らない！」といった顔をされる）という経験をしたので、しかたなく拙いフランス語で「エクスキュゼ　モア」だの「ウェ　ラルク　ドゥ　トリオンフ？」（凱旋門はどちらですか？）等と四苦八苦した苦い思い出がある。そんな所為もあってヨーロッパ大好きなタカさんではあるが、どうもフランスだけはそんなにいい印象を持っていない。

フランス語愛の異常な程強いフランスでは、94年には、公的会議や公式文書（私的契約書を含む）での「フランス語使用義務」が法律化された。日本のようにいとも簡単に横文字を取り入れてしまう国と違って（そもそも、果汁をジュースというようになっただけでも十分日本語を捨てている！といえるのに、最近はジュースではちょっとダサいからとジュレなどというのが流行っているという。いい加減にせぇ！）フランスではIT関係などの元々フランス語にはない言葉まで新しいフランス語の単語を作って対応する等といった偏執的ともいえるフランス語保護活動を行ってきた。

しかし、そのフランスで最近、ようやく国際共通語としての普及が進む英語を取り入れよう、フランス語以外使用禁止はやりすぎだ、という動きがでてきているという。

今、中国をはじめとする世界各国では海外からの留学生が増えていて、各国の大学は、一人でも多くの留学生を呼び込もうと競争を繰り広げているという。特に、多くの留学生（例えば中国などからの学生）は、金持ちの子弟が多く、受入れ側の大学経営における重要なお客様なのだという。ところが、フランス語での授業しか行なわないフランスの大学は、英語で授業を行なう世界各国の大学（英語圏以外の国でも英語で授業を行なう国が多いという）に遅れをとっている。「この際、フランス語にこだわるべきではない！」という議論が起きているのだとか。

又、最近の先端科学、医療技術などの分野では英語が統一共通言語となっていることもあり、フランス語にこだわることでフランスが世界に置いていかれることへの恐怖も広がっているのだともいう。あれほど、フランス語に固執してきたフランスが、ついに英語を解禁しようというほどに、英語の世界共通語化が進んできているということのようだ。

まだまだ時間がかかるとは思うが、その内にパリの地下鉄案内所の案内係が、英語で道を教えてくれる時がくるのだろうか―――。なんとなく楽しみでもある。

さて、中々英語が普及しない日本だが、このままではフランスにも遅れをとることにもなりかねないが―――。どうする、日本の英語教育。

（05/16/13 9:00pm S.T.）

2013年5月16日

格差社会

プロ野球のセパ交流戦がはじまった。緒戦となった昨日(14日)は、セパの首位同士、巨人対ロッテ戦が行なわれた。

セでは巨人、パではロッテのファンであるタカさんは、例年交流戦の巨人・ロッテ戦では「勝っているチームのファン！」という観戦方針（？）をとっていることもあって、安心して（？）観戦できた。（パリーグの試合ならロッテだが、巨人対ロッテとなれば9割方---本人は7割と言っているが---巨人ファンである妻は、そんなタカさんを「汚い！」と言っている）

それにしても、昨日の巨人・ロッテ戦は、面白かった。ゲームの詳細は省くが、早いイニングで巨人が3点を先取、エース杉内の先発だったこともあり勝負あったかと思えた試合が、その後、巨人がもどかしいほどに追加点のチャンスを逃し、その内、6回には巨人の拙攻に杉内の押し出しなどもあってロッテが2点、8回には巨人の守護神的存在であるはずの山口を攻めて3点を取って逆転し、8回、9回の守りは新人の松永、2年目の益田というロッテの「勝利の方程式｣コンビで巨人の反撃を抑え切るという内容は、4時間もかかった試合だったが長さを感じさせない面白さであった。（今シーズンのロッテの試合は何しろ長い）

ゲームが面白かった理由は内容もさることながら、両軍選手の年俸「格差」が極端であったことだ。巨人の先発、杉内の年俸は5億、キャッチャーの安倍は5億7千万だが、ロッテの先発、西野は昨年11月にようやく育成枠から支配下登録された選手であり年俸は440万、キャッチャーの江村も、入団3年目、一軍登録は今年がはじめてという新人キャッチャーで年俸は560万だ。巨人バッテリーの年俸合計は、ロッテバッテリーの年俸合計のなんと107年分である。（ちなみに、ロッテのスタメン9人の年俸を合計しても阿部一人の年俸5億7千万には届かない）杉内の後続投手、マシソン、山口の年俸合計は、ロッテの後続、ロサ、南、松永、益田の4人の合計の3倍以上というから、まさに｢金持ち巨人対ビンボーロッテ｣である。

勝負の世界であればこういうことは当たり前だ。西野が年俸440万とはいっても、プロ野球選手を目指していながら未だ育成枠にすら入れないで必死に鍛えている若者は全国にいったい何百人、何千人いることだろう。そういう若者たちにとっては、西野の440万ですら「夢の年俸」かもしれない。

プロのサッカー選手を目指してブラジルに留学する日本の若者は毎年1000人近くいるというが、もちろんサッカー留学したからと言って三浦知良のようなプロのスター選手になれるのは10年に一人もいない。プロゴルフにしても、大相撲にしても「喰えるプロ」になれるのはほんの一握りであるが、勿論、こんな雲泥の差のことを一般社会のように「格差社会だ！」などと非難する人はいないし、ましてや「格差の拡大はケシカラン」と政府の所為やら他人の所為にする人はいない。

一般社会で「学校間にせよ、企業間にせよ、競争社会である以上は、能力や努力の差で、ある程度、格差がつくのはしかたがない」等と言ったら、猛烈な世間の非難を受けることになるだろう。

野球選手の年俸格差と、今盛んに言われる社会での年収格差とは、全く違う話なのだろうか―――などと考えた昨日の巨人・ロッテ戦だった。

（05/15/13 9:00pm S.T.）

2013年5月13日

日光過敏症で思ったこと

何年か前、酷い発疹に連日悩まされ、しかもある時遂に顔が四谷怪談のお岩さんのように腫れあがってしまい駆け込んだ近くの大学病院で「即入院」を言い渡され、結局2週間ほど入院したことがある。

もともとアレルギー体質なので若い頃から蕁麻疹に悩まされることが多かったのだが、あの時はほぼ全身に発疹が広がり、我ながら「これは、なんだか大変なことになってしまったのでは？」と病院のベッドで悶々と過ごしたものだった。

どんな病気でもそうだが、緊急入院したから直ぐに病名が分かり、治療法が分かり、治癒する−−−などということはない。なにしろ、連日検査、検査の繰り返しだが、一向に病名すらわからない。病名がはっきりしないのだから応急処置といえば、精々ヒスタミンの注射位しかないのだが、あれを打たれると何しろ眠くなり、半日以上は朦朧としているような状態だった。

うつらうつらしながら病院のベッドに横たわっていると「自分はこの先、一体どうなってしまうのだろう？」と不安ばかりがよぎる。それだけに入院10日目頃に医師から「日光過敏症ですね！」という宣告を受けた時には、その特効的治療法はなく、「気長に日光を避ける生活をおくること」位しか対処療法はないと聞かされたにもかかわらずホッとしたことを思い出す。

病名が明らかになったということは、病名も分からない状態とは精神的には雲泥の差だ。病名がわからないままだったら、体によいだろうからと日光浴をして益々症状が悪くなる、という事になったかもしれないし、「このままお岩さん状態で生きていかなければならないのか！」などと考え込み世をはかなむことになったかもしれない。

しかし、あれから数年たって今も日光を避ける生活を送りいくつもの楽しいイベントに参加することもできない生活を送っていると、却って病名を知らされない方が自分にとってはしあわせだったのではないか−−−などと思うようになった。

日光を極度に避けることによって「お岩さん状態」にならないで済んでいるのだ、とも思える一方では、それでもいまでも、あちこちに発疹ができて痒みで一日中、体のどこかを掻いている状態であることを考えれば、「別にそんなに日光を避けた生活をしてもたいして今と変わりがないのではないだろうか」などという思いも去来する。

「あなたは癌です」と病名を告げられ余命を宣告されるのと、告知を去れず自分の病名を知らずに日々を送るのとでは、一体どちらが本人にとってよいのだろうか。

タカさんは断然「告知派」ではあるが、その一方では、どうせ結果が同じならば、病名を知らないで死を迎えるというのも案外潔い死が迎えられるかなぁ〜とも考えないではない。特に現代では、「病気は治るものだ」という医学信仰があり、「病名が分かった」ということはすなわち「治療法がある」はずであり、治療法があるということは「病気は必ず治る」というまさに信仰に近い論理に陥り易い。

病名が分かった以上は、その病気は治る−−−すなわち病名さえわかれば「人は死なない」かのような錯覚に陥ってはいないだろうか。

熱がある、風邪気味だ、膝が痛い、息が切れる、と言っては人々は病院に行き、診断を受け、山のような薬を貰って帰る。そうやって国家財政は破綻していくとしたら---。

病名など知らない方がよかったということもあり得るかもしれない。

（05/12/13 9:00pm S.T.）

2013年5月10日

お二人様手巻き寿司　

先日の子供の日の朝、スーパーのチラシを見ていた妻が、「そういえば、もう随分長い間、手巻き寿司をやっていないよねぇ〜」という。各スーパーのチラシには、端午の節句らしくかしわ餅や菖蒲などとともに、この連休中の夕食用として焼肉セットやチラシ寿司などとともに「手巻き寿司セット」が載っている。

そういわれてみると、確かに娘達がまだ家にいた頃、幼い頃から、そして随分と大きくなってからも、休みの日の夕食に「手巻き寿司」の材料が並ぶことはよくあったことを思い出した。

80年代の終わり頃だっただろうか、お酢のメーカーであるミツカンが、それまで寿司屋（回らない方）の裏メニューだった「手巻き」を流行らせようと、「手巻き寿司キャンペーン」を大々的に行い、その効果もあって一大ブームとなったものだった。

今では、家庭での手巻き寿司はすっかり定着している上に（孫たちも子供の日は手巻き寿司だったといっていた）回転寿司にもあるというから、80年代にこの「手巻き寿司」を定着させたミツカンは、「日本に新しい家庭文化を作った」とさえいえるように思う。

普段は、家族と一緒に夕食を摂る機会のないお父さん、いつもは台所に立って食事前には家族との会話に加われないお母さん、も加わって家族全員がワイワイと食卓を囲むには、寿司メシと寿司ダネとノリを用意しておくだけでよい手巻き寿司は、ピッタリだった。

あの頃から、日本の家庭における家族の関係が、家父長制的な上下の関係ではなく、フラットな「友達家族」的なものになってきつつあるという時代背景も、各自が自分の食べる分は自分で巻くという手巻き寿司のブームをさらに加速したような気がする。（自分で手巻きを作ることに抵抗があるという古いタイプのお父さんにだけは、お母さんが「お父さん、今度は何を巻きましょうか？」などといって寿司屋並みに巻いてあげる−−−などということもあった？ようだが）

我家でも、幾種類かの刺身の他、キュウリだとか大葉、カイワレ、あるいはアボガドなどの野菜類、玉子焼とか納豆といった物を揃えて賑やかに食べたものだった。女の子とは言え食べ盛りだった頃の娘達もよく食べたし、タカさんもあの頃は今とは比べ物にならない程食べていた。（体重の‘成長期’だったのかもしれない）

妻の思い出によれば、用意した寿司メシだけでも4合だったというから、男の子がいる家庭では相当な量になるのだろう。娘達が家を出ていって夫婦二人になってからは、まさか夫婦二人で顔を見合わせながら手巻き寿司、などということもないし、そもそもあれは子供のいる家庭のメニューだ−−−と思っていた。朝方も妻と「老（？）夫婦二人で、手巻き寿司−−−なんて、絵を想像しただけでも笑っちゃうよねぇ〜」などと話していたのだが−−−。

何と、その日の夕食に妻が買ってきたのはスーパーの「お二様用、手巻き寿司セット」だった。寿司メシは1合用意し、頂き物の高級ノリ（銀座、久兵衛のものだった）で、久しぶりに「家族団らん(但しお二人様）の手巻き寿司」となったが、これが事前の予想に反して大いに盛り上がった。

「あの頃は、賑やかだったねぇ〜」などと手巻きをしながら、娘二人が幼かった頃の話しにもりあがり、今は亡き長女のことを懐かしく語り合い、今頃、一家で手巻き寿司の賑やかな晴の日の膳を囲んでいるであろう孫達のことを話したりしながらの「二人で手巻き寿司」は、大正解だった。

「手巻き寿司、又、近いうちにやろうか」と語り合った子供の日の夕食だった。

（05/09/13 9:00pm S.T.）

2013年4月26日

100％安全信仰

アメリカ駐在に帯同した子供の現地校への入学手続きで忘れてならないのが、予防接種の証明だ。アメリカでは多くの予防接種が学校入学の為の必要条件となっており、日本で予防接種を受けたことを証明する書類を提出するか、それがない場合には現地のヘルスデパートメントもしくは医者に行き予防接種を受けて、証明書を手にいれなければ、どこの学校も入学を許可してくれない。

予防ワクチンの副作用による死亡事故があったこともあり、日本ではワクチン接種は「義務」にはなっていないが、アメリカでは多くのワクチン接種が義務化されている。幼稚園にせよ、小･中学校にせよ、入学許可の条件に「予防接種証明」が必要、という関門があるのだから、アメリカでの国民予防接種率はほぼ100％と言ってよい。

例えばはしか（麻疹、measles）の場合、アメリカでは、70年頃からのこのワクチン接種義務化が功を奏し、2000年に入ってからは年間患者数は100人以下、しかも患者のほとんどが海外からの渡航者だというから予防ワクチンの効果は絶大だ。（数年前、修学旅行でアメリカを訪れた日本の高校性が、現地ではしかを発症、全米で「日本ははしかをばら撒いている！」という非難の声が上がったことがあった）

「100万人に1人、あるいは200万人に１人の割で副作用に陥る人がいるかもしれないが、予防接種で防げる伝染病を、予防接種を義務化していなかったがために大流行させてしまうリスクに比べれば、義務化の方を選ぶべきだ」というのが、アメリカの考え方だが、日本は全くその逆だ。「予防接種の副作用リスクがゼロでない以上、それを強制して、後遺症や、死亡者が、例え100万人に1人、あるいは200万人に１人の割といえども出たら取り返しがつかない！」という意見が出ると、それに対して大っぴらに反論する勇気のある人はいない。まして「責任をとらされる」ことを極端に嫌う、政治家、役人は、「そんなリスク迄負わされる位なら、予防接種は精々‘推奨!’位にしておいて、全ての責任を子供の親たちに押し付けてしまえ！」と考える。かくして、日本はいまでも2,3年毎にはしかが大流行し、アメリカをはじめ世界各国から「はしか輸出国！」の汚名を浴びせられることになるのだ。はしかは幼少時に罹ると比較的症状は軽いといわれるが、大人になってから罹患すると往々にして重篤となることが多く、後遺症も重いといわれる。大人になってはしかにかかり重い後遺症で悩むことになっても、日本では「子供の頃に、防接種を受けさせなかったあなたの両親を恨め」とでもいうのだろう。

妊婦が感染すると胎児に障害が出る可能性があるといわれる風疹が、都市部を中心に大流行しているという。風疹も子供の頃にワクチン接種しておけばほぼ100％予防できるが、ワクチンの副作用リスクは勿論ゼロではない（隕石があなたに当たる確率だってもちろんゼロではない）。ゼロではない以上、ワクチン接種を義務化すべきではない、という日本だが、その為に妊婦が風疹に罹患し障害を持つ子が生まれるとか、中絶、といったことが起きる確率は高まる。それでも構わないと言い切れるものだろうか。

「副作用のリスクを考えたら、我が子に風疹の予防接種はさせません！」という母親の「愛情」の為に、その子が風疹を発症し、そのお隣に住む妊婦さんに風疹を移してしまったら――と考えると――−。

原発にしても、予防ワクチンにしても日本人の「100％安全信仰」は、どこか狂っているようにも思える。

（04/26/13 9:00pm S.T.）

2013年4月22日

ボケと認知症

人が歳をとると起こる脳機能の低下は、かつては「老人ボケ」といわれていたが、ボケという言葉が差別的であるという言葉狩りによって「認知症」と言い換えられるようになったのは10年ほど前のことだっただろうか。

それ以前からも、「めくらめっぽう」や「つんぼ桟敷」という言葉でさえ「めくら」や「つんぼ」が差別的だからと禁止用語になっていたから、当時は、世間にも「たしかにボケだの痴呆という言葉が禁じられるのも仕方がないかぁ〜」という諦めムードがあって、反対運動もないままにすんなりとボケから認知症への言い換えが行なわれたことを思い出す。あれから10年以上が経って「認知症」がすっかり定着、ボケという言葉はもう忘れ去られてしまったが、そのことが今、高齢者を苦しめているのではないかと思う。

そもそも、人が歳をとって徐々に物覚えが悪くなり、物忘れも多くなることは、自然なのだという感覚が「認知症」という言葉によって失われてしまった。以前は「歳の所為で少しボケてきたかなぁ〜」と軽く受け流せた自然なことが、今や「老人性の認知症」などという立派な（？）病名をつけられてしまったことで、「何らかの治療を行なう必要のある深刻な事態」であるかのような大事になってしまった。

ボケもガンや心臓病と同じように、「病院に行く必要がある」「薬による治療の必要がある」という（本人を含めた）世間一般の思い込みが不幸な事態をもたらしていないだろうか。

認知症の中には確かにアルツハイマーのようなものもあるし、しかも若年性の物もあるが、その大半は「加齢によるもの」である。加齢を遅らせることができない以上、加齢にともなう脳機能を含む身体機能の衰えを遅らせることや止めることはできない。アルツハイマーにしても、現在その進行を遅らせる薬はあるが、「治す」薬はない。まして加齢によるボケを「治す」ことなどできないことだということは、医者が一番よく知っているはずなのに―――認知症治療が今や大きな収益源になっている医薬品業界が、そんな「真実」を語る訳もないし、ここに大きな権益を拡げている厚労省も「ボケは自然なこと！」などと言う訳もない。

カール・ルイスにしても大鵬にしても歳をとったらその能力には衰えが見えた。歳をとれば人は徐々に衰えるのが自然であって、それであれば人の脳機能が衰えるのは自然だとなぜ思えないのだろうか。クレオパトラが永遠の美を求めて叶わなかったことや、秦の始皇帝が不老不死を求めて叶わなかったことを知っていながら、なぜ現代の我々は「認知症にならない食生活」やら「認知症防止、治療の万能薬」を求めて右往左往するのだろうか。

かつては、「あの、おじいさんも歳で少しボケてきたようだ」と世間からも優しい目で見られていた老人が、今では「あのおじいさんは認知症で家族も大変らしい！」などと、厄介者扱いされるようなってしまった。「認知症は病気だ」「病気であるならば、治療の必要がある」あるいは「記憶力の低下した老人は、健常者ではない！」という間違った概念が、高齢者やその家族を苦しめる結果になっている。

それもこれも、「ボケ」という自然な現象を「認知症」などという言葉に言い換えたことに大きな要因があるように思えてならない。

（04/21/13 9:00pm S.T.）

2013年4月19日

みんなの既得権益

看護師には2種類あり一つは看護師、もう一つが准看護師だ。看護師は国家免許、准看護師は都道府県知事免許だというから、その資格にはかつての教授と助教授の違いのような明らかな身分(?) 格差があるという。入院してみて、その違い―――正看護師の方が偉い？―――を実感した人も多いのではないだろうか。ところが、准看護師より偉い(?) はずの正看護師だが、病院ではやはり医師の方がもっと偉いようだ。それはそうだ、看護師はいくら偉くても手術をする訳にはいかない（手術の補助はしても）が、医師免許を持っている医師なら例え若くても執刀医としての資格があるのだから、病院の一番の稼ぎ頭は医師であり、そうであるなら「一番偉い」のは当然だろう。

准看護師、正看護師、そして医師といった資格の違いが、それぞれの「身分｣の裏づけになっている。すなわち、医師資格も正看護資格もそれぞれの身分という無形の既得権になっているという訳だ。

そういう訳だから、同じ病院内でも、医療資格を持たない事務職は、残念ながら「身分が低い」ということにならざるを得ない。さすがに私立病院などの理事長だとか理事となると医療資格がなくても、人事権を持っているから医師より偉そうにしている場合も多いが―――。（理事、あるいは理事長は必ずしも医師資格をもっていなくても都道府県知事の認可があればなれる）

さて、准看護師資格だが、ここ20年余り日本看護協会は「准看護師制度の廃止」をその政治力を使って訴え続けている。外国人の准看護師免許などにもなにかとケチをつけてきた看護師協会だが、准看護師制度廃止の訴えも、自分達の看護師という資格（既得権）が、賃金の安い准看護師や、外国人看護師によって押し下げられることに対する不満が元になっていることはあきらかだ。「新規参入を阻む」ことは、あらゆる既得権益集団にとっての宿命のようなものなのだから――。もっとも、看護師協会はそんな本音の理由などもちろんおくびにも出さない。彼等が掲げる「准看護師制度の廃止」の理由は「日本の医療の質向上の為」となっている。

一方、看護師協会より数段強い政治力をもっている日本医師会は「准看護師制度の廃止絶対反対」を叫んでいる。これも本音は、正看護師より賃金の安い准看護師制度がなくなると病院の運営コストが上がってしまうこと、准看護師資格を持つ主婦などのバイトが雇えなくなり看護師不足となり病院経営に困難を来たす――すなわち医師の既得権益がおかされるからだが、もちろん医師会の反対理由は、「日本の医療の質向上の為」である。

日本の医療を現場で支える医師と看護師という主役が、「患者の為」「日本の医療の質向上の為」という同じ理由を掲げて、全く反対の事を言っているのは、それぞれの既得権益を守るためであって、理由としてあげられている――「日本の医療の質向上の為」というのはまあ、ほとんどウソ！といってよい。

TPP反対を叫ぶ農業団体も反対理由として「日本の食糧自給率維持の為」｢日本の食の安全を守る為｣といっているが、もちろん本当の理由は、高い関税障壁と手厚い農業補償によって守られている彼等の既得権益を守る為だし、日本医師会や製薬業界の「自由診療反対」や「外国人医師免許受け入れ反対」にしても「患者の為」といいながらその本音は自分達の既得権益を守る為である。

そうそう、主婦連（ちょっと懐かしい名前だが）をはじめ「消費者団体」を名乗る人たちがTPP反対を叫んでいるが、例えば輸入農産物によってコメや牛肉の価格が下がるのをなぜ「消費者代表」が反対するのか？と思ったら、なあんだ、種をあかせば、主婦連だの消費者団体を名乗る組織で喰っている連中にとって、その「常に時の政府に対して物申す組織」としての存在感を示す為、すなわち彼等の組織の既得権益を守る為の反対論なのだとか−−−なるほど、納得がいく。（世論調査、すなわち一般消費者を対象にした世論調査ではTPP賛成が7割を越している）

「既得権益が改革を阻んでいる」というが、これだけ既得権益者だらけの日本では到底「改革」なんてできない、ということなのだろうか。

（04/18/13 9:00pm S.T.）

2013年4月12日

スタバもある！

盛んに国内旅行をしていたものだが、最近はそれがちょっと億劫になってきた。

全国各地、土地それぞれに特長があって―――というのは今は昔の話。少なくとも旅行者にとっては土地ごとの特長がどんどん失われ全国どこの町も均一化された同じ風景になってしまったという淋しさがあるからかもしれない。特に新幹線の駅ができた街は全国すべて金太郎飴のようになってしまった。

高架で乗り入れる新幹線だから駅舎もやはり高架になる。高架の線路、高架のプラットホームという建設条件の下では、かつてのように個性ある駅舎を作ることもできないのはよく分かるが、あたかも全国一律の「統一規格」があるかのように同じデザインの駅舎、駅前広場を見ているとここが岡山駅なのか、秋田駅なのかを、見わけることさえ難しくなってきた。

まして、岡山も秋田もあるいは長野も、駅前広場に立ち並ぶビル群に大差はない。立ち並ぶ看板も店舗も全国に店舗網を持つ銀行、証券、サラ金、車販売、コンビニ、居酒屋、カラオケのものばかりだ。列車を降り立って駅前にある大衆食堂で地場産のつまみでビールを一杯！などという昔の旅の楽しみなどは最早望むべくもない。

もちろん、新幹線の通っていない土地ならばまだまだそういった食堂はありそうだけれど、割安パック旅行全盛の今、一人で田舎をのんびりと散策する旅は、贅沢なものになってしまった。安近短の旅に慣れてしまった身には「なにもそんなところまで出かけていかなくても〜」と旅に出る元気が出ないところがある。

それもこれも、地方そして地方都市の個性が失われてしまったからではないだろうか。「地方分権」だとか「地方を元気に」という掛け声は確かにあるけれど、橋下さんやら河村さんをはじめ、そういった掛け声を出しているのはほとんどが政治家であり、彼等がどこまでその主張に真剣なのかはどうも疑わしいところがある。（橋下さんにしても大阪府構想は、維新の中央政界入りの為の地元選挙対策ではないかと思える節もあるし、河村さんやら元国会議員の各県知事さんたちの「地方、地方」の掛け声は、自らの就職活動（選挙）道具なのではないか？と見えてしまうのだ。

「外国産のコメに席巻されて日本のコメは全滅する」とTPP反対を叫んでいる元気があるなら、「地方の元気に」と叫んでいる各首長さんたちは、地方を席巻しつつある全国チェーンの進出を阻むべきだったのではないか。いまからでも遅くない！全国チェーンのコンビニやらサラ金、居酒屋の看板を駅前から一掃すべきではないか？

先月、スターバックスが島根県の松江に店を開いたという。これでスタバの店のない県は、タカさんの出身県である鳥取県だけになったという。ネットでは「唯一のスタバなし県」となった鳥取の人達は悔しがり、他県の人たちは鳥取をからかう書き込みで随分にぎわっていることを考えると、どうも「全国チェーン進出阻止政策」は、「TPP反対」のような支持は得られそうもないようだが。「地方を元気に」という掛け声はあっても、本音は「都会と同じ金太郎飴」だとしたら−−−「全国チェーン進出阻止政策」は不人気にちがいなかろう。

新幹線に乗ってどこという特徴のない街の駅で降りて、昼は駅ビルの「COCO壱番屋」のカレー、夜も駅前の「和民」で食事して「ルートイン」に泊まる―――それだったらなにも遠くまででかけなくても―――となってしまうのは、タカさんが怠惰である所為ばかりではないような気もする。

（04/11/13 9:00pm S.T.）

2013年4月9日

命を頂くということ

アレキサンドリアに駐在していた時、ナイルデルタの大農家に招待されたことがある。

ナイル河はカイロを過ぎるあたりから7つの支流に分かれデルタ地帯を形成しているがこのデルタは河口近くでは幅が240キロにも達するという広大なものであり、アスワンハイダムが作られてナイル河の氾濫が抑えられるようになって以降、感慨水路が張り巡らされ広大な農地となっている。

我々一行が到着するとまずその家の男たちが歓迎の意味で、羊を一頭引っ張り出して客の目の前で喉をかき切って屠畜するという儀式が行なわれたのには度肝を抜かれた。「大切な羊を歓迎の意味で提供します」という意味であり、屠畜を生で見せるのは「あなた達にお出しする料理の肉は全てフレッシュなものですよ」という証拠展示の意味合いがあるのだと後で知った。屠殺した羊は直ぐにその横で沸かしている大きな釜の湯の中に漬けるのは毛や皮を剥がし易くするためだというが、皮剥がしやら解体といった一連の作業は、目を背けては折角歓迎してくれている人達には悪いとは思いつつも、慣れない我々にとって顔は青ざめ、頭はクラクラするものだった。ところが、見物している子供たち寧ろ、嬉しそうに見ていたのが印象的だった。彼等にしてみれば、お客さんのお相伴で「今日は羊肉のご馳走だ！」とわくわくする気持ちだったに違いない。

スペインに行った時「一度は見ておかないと」と思って闘牛に出かけては見たものの、その強烈な｢伝統美」は理解するものの、闘牛士たちが「牛を寄って集っていたぶり殺す｣あの残酷さに何時間も耐えることはできなかったが、スペイン人観衆の熱狂振りにはつくづく「文化の違い」を感じた。まして、闘牛場の入口に併設されているレストランではその日の闘牛で殺された牛の肉がステーキとして提供されている、と聞いた時の驚きは、あのエジプトの羊の解体を見た時以上のものだった。

日本では今や、あらゆる食肉は調理されトレイに載せられた物しかみることはない。牛肉、豚肉、鶏肉がちょっと前まで生きていた牛や豚、鶏であり、それを誰かが何処かで屠殺したものなのだ、という事実を我々が意識することはない。

昔、といってもかれこれ50年以上前なら、田舎ではまだ農家の庭先で「鶏を絞める」こともあったし、肉屋の店の奥には、半身に割った牛や豚の肉の塊がぶら下がっていたから子供心に「肉を食べるということは、生き物の命を頂くことなのだ｣と感じることができたのだが―――トレイに並べられた肉や、ハンバーガーになったひき肉しか見たことがない現代の子供たちにとって「肉とは命」という意識を持てるものだろうか。

中国の上海を流れる珠江に9万頭の豚の死骸が流れてきたという。病気で大量死した豚の処理に困った上流の養豚場が河に不法投棄したのだという。病死した豚の肉をヤミで売買する例も多いから、河に投棄したのはまだ「良い方」だという話やら、鳥インフルエンザ流行を抑えるためにと上海市では生きた鶏の市場での売買を禁止した（ということはエジプト同様、「フレッシュである」証拠を見せる意味で通常、鶏は生きたまま売買されているということらしい）という話も、世界ではまだまだ「肉、すなわち生きた動物」という実体が日常的に目に入ってくるということを表しているように思う。

そんな現実が全く目に触れることもない日本、何かちょっと間違っているのではないか―――という気もしないではないが−−−。

（04/08/13 9:00pm S.T.）

2013年4月8日

お初！

明日(8日）が新学年、新学期初日という小学校が多いという。

新学期というと、新しい担任はどんな先生なのだろうか、クラス替えでは元のクラスのちょっと気になるあの女の子と又一緒のクラスになれるだろうか等々、幼な心にも「何かが変わる！」というドキドキ感があったことを思い出す。

明日から新学期という日には母に「床屋さんへ行って来なさい！」と言われたものだった。散髪台に乗ると巻かれる首から垂らす白い布のヒモがくすぐったがりには苦手だったし、そもそも小学生の男の子にとって何十分かじっとしていなければいけない散髪というものが楽しい訳もないから、床屋にはできるだけ行きたくなかったのだがあの新学期前の母の散髪令は逃れようのないものだった。

今から半世紀以上前には、全国の小学生の男の子の髪型といえば、ほぼ全員が、丸刈りか、坊ちゃん刈りといわれる横と後ろを刈り上げて前髪を揃えた髪型だったが、今やあの髪型を見ることもない。

時々、遊びに来る4月から2年生になる孫は、小さい頃からかなり現代風のおしゃれな髪型にしている。おじいちゃんが（今も床屋嫌いなので）10分間で済む1000円床屋に行っているというのに、孫の行く床屋（キッズ専用などというのもあるらしい）はなんだかんだで6,7千円はとるらしい。（世の中間違っている！と言いたくもなるが）

そういえば、我が孫に限らず最近の小学生の男の子の髪型は、ソフトモヒカンだの何だのと、皆スカンクの尻尾のように真ん中辺りの髪を立てるのが流行のようで、昔人間としては「床屋に行ってわざわざ寝癖をつけなくてもいいのに！」などとも思わないではない。

男の子の坊ちゃん刈り同様に、女の子は「おかっぱ」というサザエさんのワカメちゃんのような髪型が多かったけれど、最近は大人にはおかっぱ（ボブとかソフトボブというらしい）はいるけれど小学生にはいないようだ。

そうそう。散髪したての頭を見た友達が、よく「お初！」と言いながら頭をピシャリと叩くという習慣（風習？）があったけれど、今でもあの「お初！」はあるのだろうか？新学期はクラス中がお初だらけなので、皆で相互不可侵条約を暗黙の内に結んでいたような気もするが―――。

床屋が理髪店にパーマ屋が美容室といわれるようになったように世の中からどんどん「屋」がなくなっている。（パチンコ屋はパーラーに、パン屋はベーカリーになったし牛乳屋だとかメガネ屋、時計屋などは街から姿を消した）坊ちゃん刈りやおかっぱ、お初！も皆、知らぬ間に消えてしまったようだ―――などと考えるタカさんの新学期である。

（04/07/13 9:00pm S.T.）

2013年4月5日

昔話のおばあさん

7歳と4歳になる孫が泊まりに来ると、二人が寝付くまでにおじいちゃんがおとぎ話をしてあげることになっている。薄暗くした電気の下、三人で枕をならべ床に転がっている中でのおとぎ話は、おじいちゃんにとってはなんだか嬉しい状況ではあるのだが−−−。

ところがおとぎ話というのがそうそう簡単なものではない。お話の途中で二人とも様々な質問をしてくる。たずねられては説明し、又たずねられては説明して―――となると短いおとぎ話も結構、時間がかかりそのうち様子をそっと見にきたおばあちゃんに「早く寝なさいよ！」とおじいちゃんと孫二人が叱られることになる。

例えば、花咲かじいさんや、猿カニ合戦の話にでてくる臼だけれども「臼ってなに？」と4歳の孫娘に聞かれるとこれを説明するのはなかなか手間がかかる。「あのお餅をつくときに手に持つやつのことだよぉ〜」と７歳のお兄ちゃんが訳知り顔にいうので「違う、違う、それは杵、臼は杵でつくときに下にある台みたいなやつ」と説明するのだが4歳の孫娘にはどうも杵も臼もぴんと来ない様子。昔のおじいさんは家のそばに臼も杵もあったろうから、説明しないで済んだだろうに。

「大判、小判がざくざく出てきてネ」というのだが、二人とも大判とか小判を見たことがあるのだろうかと、話ながら不安になってくる。そもそも「おじいさんは山に芝刈りに、おばあさんは川に洗濯へ」なんていっても二人にとっては「ワケワカンナーイ」のではないかと一々「芝っていうのはねぇ〜木の小枝のことでねぇ〜昔はこれでカマドに火を点けたんだよ」とか「昔はねぇ〜洗濯機もないから川まで洗濯物をもっていって手で洗ったんだよ〜」という説明をしなければならないのでは？などといらぬ気を回すことになる。そもそもカマドだとかタライなどという今はない物を一体どう説明したら毎日DSで遊んでいる孫たちが理解してくれるだろうか？　絵本をならそういう説明はほとんど要らないが、暗くした部屋で寝ながらのお話となるとこれがなかなか難しい。

そうそう、この間「花咲かじいさん」で「お隣の悪いおじいさんが−−−」と言ったら孫娘が「お隣のおばあさんはどうしたの？」という。正直者の花咲かじいさんの連れ合いは、「いいおばあさん」だというのは知っていたが、隣の悪いおじいさんの連れ合いはやっぱり「悪いおばあさん」なのか「良いおばあさん」なのか答えに窮して「お隣のおばあさんは随分前に死んでしまったんだよ」といったのだが、こんどは「お病気だったの？」と意外なところから深堀してくる。4歳という年齢は意外に生とは？死とは？という疑問に最初にぶち当たる年代らしい。

考えてみるとおとぎ話は結構謎だらけだ。なぜ「昔々、おじいさんとおばあさんが−−」であって「おとうさんとおかあさん」や「おにいさんとおねえさん」ではないのか、なぜおじいさんは大体「良いおじいさん」なのに（花咲かじいさん、舌きりすずめ等）のに、おばあさんはなぜ「悪いおばあさん」(舌きりすずめ等)が、多いのか？

西洋のおとぎ話ではなぜ悪い継母(白雪姫、シンデレラ等)が多いのか。白雪姫やシンデレラのお父さんはなぜ前妻が死んだ直後に「悪い女」と再婚したのか−−−。

そんなことを考えながらしどろもどろにお話を続けている内に二人ともいつの間にか寝入ってしまったけれど−−−。

（04/05/13 0:30am S.T.）　

2013年3月28日

堤防は決壊するか

堤防が決壊するメカニズムについて聞いたことがある。一つは、一般的にいう「アリの一穴」のような小さな部分からの｢漏水｣が徐々に大きくなりその一穴から一気に決壊につながってしまうケース、第二は、激流が堤防の側壁に強く当たることで一部側壁が細く削られ決壊に至る「側方侵食」、そして堤防の上縁を超えた流れが奔流となってその堤防全体をあっというまに決壊させる「越流」という三つがあるという。

あの巨大な渓谷グランドキャニオンは一般的な学説では、数億年をかけて河の流れが谷を削り続けた結果だといわれているが、数千万年前、上流にあった巨大な湖の一部から越流が起こり一気にその巨大湖の水が流れ出たことで大部分が出来、その後又何百万年かの河の流れが仕上げを行い現在の渓谷になったという異説もあると言う。果たしてこの説が正しいかどうかは知りようがないけれど、子供の頃に海辺の砂浜で砂の土手で囲った小さな池が決壊する時に、まさにこの越流によって一気に池（というか水溜り）が壊れる様子を見た記憶があっただけに「ウムなるほど」と妙にグランドキャニオン越流起源説（？）に納得したものだった。

グランドキャニオンの起源についてはともかく、どうにかそれまで耐えに耐えてきたのだけれど、もうこれ以上は耐えられない！といういわゆる「我慢の限界」を超えてしまうと、物事は一気に崩壊するという例は越流やバネの弾性限界の例のような物理的な世界だけではなく人間の心理、社会の仕組み等々でもよく見られる。

先の衆議院選挙の一票の格差を巡り全国16ヶ所で起こされた選挙無効を求める行政訴訟の高裁判決が全て出揃ったが「違憲状態」とするものが2件、「違憲だが選挙は有効」とするものが12件と14件は従来同様の事情判決（参照「事情判決の法理」03/08/13）だったが広島と岡山の高裁が出した「違憲、無効」の判決はまさに国会の不作為に対して「司法の我慢も限界を越えた！」という判決だったように見える―――。

いやいや、たった2件の無効判決なら「アリの一穴」に過ぎないから他の14高裁の選挙「有効判決」というぼろ布を突っ込んでふさいでおけば大事には至らないだろうとか、あるいは「0増5減」という微調整によって格差の大きな選挙区の定数だけをいじることで「側方侵食」を回避すればいいだろう等といった与野党の楽観論も聞かれるが、なんとなくこの2件の無効判決はグランドキャニオンを作ったような大規模決壊にもつながる越流判決ではないかという気がしないではない。

この16の高裁判決は全て上告され、最高裁はこの16件を一括審理するという。原則として最高裁は100日以内に判決を出すことになっているというから場合によっては年内に「選挙無効」という前代未聞の判決が確定する可能性もないではない。

司法の最高権威といわれる最高裁だが、その判事15人はすべて内閣によって任命されており、内閣に恩義のある最高裁の判事たちがその任命権者にたいして反旗を翻すなどということも考え難く、「上告審では再び事情判決が出て選挙無効にまではならない｣という予想が専らだが―――。まあ、｢予想と褌は向こうから外れる｣ともいうからひょっとしたら「昨年の衆議院選挙は無効」という大混乱もあるかもしれない。そうなれば安倍内閣も正統性を失い何もかも「皆、やり直し！」なんていうことにもなりかねない。

根が野次馬なのか、この2件の高裁無効判決が越流効果を表し最高裁でも無効判決が出たら面白いのに――などとも夢想するのだが――。

（03/26/13 9:00pm S.T.）

2013年3月26日

再発防止に努めたい

「謝罪」しなければならない状況などというものはできれば避けて通りたいものだ。どうしても謝らなければならないところに追い詰められていても自分が悪い訳ではなく、真の原因は別のところにある―――と誰か他人の所為にするとか、自分としてはベストを尽くしたが運が悪かった、仕方がなかった、という「言い訳」で逃れる(逃れようとする)手も考えられる。あるいは、「確かに自分が悪かった、その点は謝ります！でも、あなただって何よ！」と言った「居直り、逆襲」という手もある。

「なにはともあれ先ず謝っておけ」というのが古くからの日本人の考え方ではあるが、鎖国時代ならともかくこういった日本の常識は「世界の非常識」でもあると知って様子が大分変わってきた。‘Sorry’と一言いったが為に、交通事故の被害者であるにも係わらず裁判で負けた、といった米国での例やら、菅前首相の不用意な発言が、対馬から盗んだ仏像を返さない、という某国のような無茶苦茶を許すことにもつながるとなれば、今や「謝罪はしない」そして「言い訳、あるいは居直りで対処する！」のが正しいということになるのかもしれない。

そんな、現代社会に於いては、模範的謝罪法となると、政治家とか役人、警察、企業といった責任主体がはっきりしない団体のものが大いに参考になる。マスコミが押しかけてどうしても頭を下げなければ済まないような状況下では、まず最高責任者は顔を出さないのが鉄則だ。広報室長だとか、副何々といった肩書の人物が出てきて「皆様には多大なご心配、ご迷惑をおかけして−−−」という常套句を発する。そもそも、これを言っているご本人が、別に「ご心配」をしている人はいない(怒っている人はいても)だから、実は全く謝っている訳ではない−−−ほぼ無意味な発言だ。

それに加えて「再発防止に努めたいと思います」といえばほぼ完璧だ。「この件の責任は誰々にある」とか、「再発防止策はこうだ！」という具体策には一切コミットせず、「努める」とか「思います」と言うだけなら、それは要するに、今後又同様な不祥事が起こったとしても「あの時も、再発しなければいいなぁ〜と思ったのですがねぇ〜また、起きちゃいましたねぇ〜」で済む。(広報室長の責任とは誰もいわない)

被害者から訴えが起こされ、再びマスコミが押しかけてきたら「訴状を見ていないのでコメントを差し控える」とか「責任者が不在なのでよく分からない」と答えておけば、記者たちももう次の日には来ないだろうしその内事件はうやむやになる。

もっともこの手の謝罪は個人がやるとケンカになる場合もあるので要注意だ。奥さんに浮気がバレたからといって「多大なご心配と、ご迷惑をかけ−−−」とか「再発防止に努めたい−−」などといったらタダではすまないし、離婚訴訟になったらいつまでも「訴状が届いていないので−−−」という訳にもいくまい。

そうそう、今朝、新聞に、徳島の警察署が、路上で見つかった変死体を棺にいれたとばかり思って親族の依頼で、火葬場で焼いたら遺骨がなくびっくりして調べてみたら、遺体はまだ警察の霊安室に安置されたままだった−−−という珍妙な「事件」が出ていたが、その記事の最後に、『県警の担当者は「再発防止に努めたい」と話している』とあったのには大いに笑った―――いかに不祥事慣れしている警察の常套句とはいえ、遺体の入っていない空の棺を荼毘に伏すなどということは、もう二度と起きないと思いますよ。

（03/24/13 9:00pm S.T.）

2013年3月22日

素数という神秘

今から1万年前に最後の氷河期が終わるまで、現在の北米五大湖地域は厚い氷河に覆われており昆虫類が生きるには極めて厳しい環境であった。氷河期が終わってからも、メキシコ湾という大きな海洋にさえぎられている所為もあって北米には昆虫の飛来も少なく、その為にこの地域に住む昆虫の種は今もかなり限られている。虫の種類が少ないから、五大湖周辺に住む人たちは当然、あまり虫になじみがない。アメリカ北西部の人たちが、虫の名前を余り知らず（というか関心がなく）ゴギブリもコオロギもセミも皆一言‘Bug'で片付けてしまうことは、虫には中々詳しい日本人にとっては、ちょっと滑稽なくらいだ。

虫にあまり縁のない五大湖地域だけれどもここには13年と17年という素数の発生周期を持つセミがいる。吉村仁氏の「素数ゼミの秘密に迫る」によれば、この二種のセミ（13年ゼミと17年ゼミ）は、素数という神秘の数の周期を持つからこそ氷河期を生き抜いて今も繁栄を続けているのだという。この地域の化石からは、かつて17年ゼミと13年ゼミの他に12年ゼミ、14年ゼミ、15年ゼミ、16年ゼミ、18年ゼミなどがいたという、しかし、素数の周期を持つ種だけが生き残っている理由は、一言でいえば「素因数分解が難しい」という現在も暗号技術などに生かされている数学上のメカニズムが働いているからだ。

例えば13年ゼミと17年ゼミの大量発生が同じ年に起きるのは13と17の最小公倍数である221年に一回だからこの二種の交雑は起き難い。しかし、例えば偶数年ゼミ同士であれば、ほとんど毎年、何種かのセミの同時発生が起こってしまい、同種の種族維持が難しくなってしまうし、又、天敵の発生周期ともあってしまうことによって更に種族維持が困難になるというのが同書の解説だったが−−−。

京都大の研究グループが今週この13年ゼミと17年ゼミのDNA解析から、これらのセミがその発生周期を得たのは氷河期であったという解析結果を発表したという新聞記事があった。やはり、これらの「周期ゼミ」が、氷河期という過酷な環境を生き抜く為に素数を利用したことが裏付けられた訳で、あらためて90年にシカゴ在住時に見たあの赤い目をした17年ゼミがもつ神秘的ともいえる数学能力に感心した。

それにしても素数は不思議だ。この100年以上に亘って研究されている数学の超難問といわれる問題の中で、フェルマーの定理、4色問題、ポアンカレ予想などはそれぞれ天才ともいえる数学者達によって遂に解かれたが、素数に関する難問、リーマン予想はまだである。リーマン予想をわかり易い言葉で言い換えてみると「素数の出現には、ある規則性がある」ということなのだが、2, 3, 5, 7, 11, 13, 17, 19, 23, 29, 31, 37, 41, 43,---という素数には何らかの規則性があるようにも思えるが、いまだにその規則を解明した者はいない。リーマンはこの規則性についてのある提案（予想）を述べているのだが、そのリーマンの提示した「素数出現の規則性」が果たして正しいのか、間違っているのかさえこの100年、多くの数学者が挑戦したものの解答が得られていないという訳だ。

もっとも、リーマン予想が解決してしまうと、現在の情報社会のセキュリティーを支えているRSA暗号が破られることにもなる訳で、社会に破滅的なダメージを与える可能性もあるという。

セミが氷河期を生きのびるために使った素数が、現代の情報社会が今後も生き延びられるかどうかのカギを握っているというのだから―――。

素数は―――やはり永遠に神秘のままであって欲しい―――とも思うのだが―――。

（03/21/13 9:00pm S.T.）

2013年3月15日

みどりの券売機

駅に券売機が導入されたのはいつ頃からだっただろうか。確か最初の頃は投入できるのも硬貨だけ、購入できる切符の金額も少額の近場の駅までのものだけだったような気がする。ちょっとした遠出の場合は駅員がいる窓口で「xx迄大人二枚」などと言って購入するしかなかったし硬貨の手持ちがなければやはり窓口で購入しお釣りを貰うという方式だったように思う。（改札で駅員が切符にパンチを入れていたのはいつ頃までだっただろうか）

その後、窓口の数はどんどん減る一方、特急券なども含めたあらゆる種類の切符が自動券売機で買えるようになり――というか券売機で買うしかなくなってきて――「券売機の前でオロオロしているお年寄り」が、古代の遺物のような扱いをうけるなどという時代もあった。

しかし、そんな状況もSUICAなどの電子マネー式の乗車カードが導入されるに至って自動券売機でさえそんなにいらなくなり数は大幅に減少、改札付近には駅員さえ見かけないといった状況になったことで「券売機の前でオロオロしているお年寄り」はさっぱり見なくなった―――と思っていたのだが―――。

今全国のJRの駅から券売機に続いて「みどりの窓口」がどんどん無くなっているという。例えば思い立って京都に遊びに行こうと最寄りの駅に行って切符を買う場合「今日、日帰り往復で京都、行きは、これから東京駅に行って間に合う「のぞみ」の指定席、帰りは指定席だが、時間は京都であらためて決めたい」などという買い方を、今までは最寄り駅のみどりの窓口（窓口の駅員は女性の場合が多かった）でやっていたのだが、みどりの窓口が次々と閉鎖され、「みどりの券売機」（？）のような機械を相手にしないといけないとなってきている。新幹線の切符位なら、説明をよく読んで使ってみれば、みどりの券売機も便利にできており思った程には操作は難しい訳でもないからどうということはないのだが−−−。

もう少し複雑な切符を買うとなるとこれが中々の難物だ。機械という奴は、一度途中で間違ってしまうと中々元に戻せないから慌ててしまうしそんなことが重なると「もし万一、操作ミスをしたら−−−」と多少ビビる気持ちが隠せない。「ああ、やっぱりみどりの窓口のお姉さんが懐かしい！」という気持ちになる。

例えばタカさんの自宅近くの駅から房総半島の突先の館山に行こうという場合、今までならみどりの窓口で、「この駅から京葉線快速で曽我に出て乗換えて館山まで行くのと、一旦、東京駅まで戻って特急に乗るのとでは、時間的にそして料金的にどちらが得か」などといった相談をお姉さん駅員は親切に答えてくれていたが、これからは「みどりの券売機」相手ではそんな注文も中々できそうもない―――となると「昨年も行ったことだし、別に菜の花を観に館山くんだり迄行くこともないか」となってしまう―――。

あれっ、これって結局、いつの間にかタカさんも「券売機の前でオロオロしているお年寄り」になってしまったという事なのだろうか。

（03/14/13 9:00pm S.T.）

2013年3月8日

事情判決の法理

昨年12月の衆議院選挙における一票の格差を巡る訴訟で、昨日(3月6日)には東京高裁、今日は札幌高裁が「違憲」だが「選挙そのものは有効」という判決を出した。

「違憲だけれど有効って--- 一体どっちやねん！」といった突っ込みが入りそうな話ではあるが、これがいわゆる「事情判決の法理」という奴だ。

「事情判決」の判例を調べてみた。ある土地改良組合が、組合員百数十人が所有する合計約60町歩の農地を対象とした大規模な土地改良及び区画整理事業を実施した。ところがこの事業は、わずか10日余りの短期の公示後に開始したために、一部の組合員などへの十分な説明がなされておらず「違法」であり「事業は無効」であるとの訴えがなされた。第一審、第二審ともに訴えを認め「違法」であるとの判決を出したが、その時点で既に巨額の費用を投じた土地改良、区画整理は終わっており、既に百数十人の組合員がこの事業による恩恵を得ていた為に、この事業をすべて「無効」とするのは著しく公共の利益に反する、として「事情判決の法理」を適用して「違法であるが、無効請求は棄却」という判決が出たというのだ。

今回の衆議院選挙の違憲判決も「一票の格差が大きく今回の衆議院選挙は違憲ではあるが、選挙を無効にしてしまうと国会が大混乱してしまうから無効にはしない！」というものでまさに「事情判決の法理」そのものと言ってよい。

確かに、今後続くであろう十数件の「一票の格差訴訟」のいずれもが「違憲」となると予想されてはいるものの、だからと言って「今の国会議員は全員失格！」という荒療治をする訳にはいかないというのも確かだ。（野次馬的には、一度やってみたら面白いとは思うものの）

「事情判決の法理」という奴、いつまで経っても確たる理論が確立しない経済学に比べたら、「法律ってぇ奴は、中々面白いじゃないか！」と思わせるものだと思う。

会津の什の教えの「ならぬことは、ならぬものです」みたいな固いことはいわず、「ダメといったって、今更、元に戻す訳にもいかないのだから、まあ、いいことにしよう」というのだから−−−。

世の中には｢ダメといわれても今更−−−」という類のことはたくさんある。奥さんが幾ら「夫の不貞だ！」と騒いだところで、夫が浮気して子供を作ったとしたら「婚姻関係における契約違反であり、子供は無効！」という訳にはいかない。―――まあ、これは「事情判決の法理」とは全く関係ないけれど。

「事情判決の法理」が、法律の杓子定規な適用ばかりを是とするのではなく、現実の社会生活と法律とにあるていどの整合性を持たせるものとして優れた（とはいわないまでも合理的な）法概念−−−とも思える。

もっとも、今回の一票の格差訴訟では国会議員達が、どうも「どうせ選挙無効にはならない事情判決がでるだろうから、定数是正は、別に急ぐ必要はないや」とサボり続けてきた要因になった節も伺えるけれど。

どんな法律でも制度でもかならず悪用する奴が出てくる！というのが「人の世のならい」であるようだ。

（03/07/13 9:00pm S.T.）

2013年3月4日

ベンサムとブキャナン

18世紀の英国の哲学者ジェレミー・ベンサムは人間行動や政治においての正しい行いとはすなわち「最大多数の最大幸福をもたらすものであるべきだ」と説いた。結果的にトータルで社会的にプラスとなるのであればそれは「正しい行い」であるというのだ。（彼の理論によれば、当時タブーとされていた同性愛も、誰に迷惑をかける訳ではないし、当人たちには快楽をもたらすものであるから、最大多数の最大幸福という観点に立てば善である−−という）

ベンサムのこの考え方は「功利主義」と呼ばれているように、神だとか正義といった物指しとして分かり難いものを持ち出すのではなくぶっちゃけた話、どっちが社会全体にとって「得か」でものごとの善悪を決めてしまおうというのだから一見、分かり易そうだし「最大多数の最大幸福」などという理想的とも思えるキャッチフレーズに彩られているだけに人道主義者、民主主義者、あるいは多くの宗教家たちでさえ賛同してやまない理論でもあった。

実際問題、一見対立しているようにさえ見えるアダム・スミスの古典派経済学も、ケインズの近代経済学も、共に経済の基本原動力は「人間の善意」と規定している点で、ベンサムの「最大多数の最大幸福」理論というお釈迦様の掌での争いに過ぎないともいえる。

ところが、1986年にノーベル経済学賞をとったジェームス・ブキャナンが提唱した「公共選択論」は、このベンサム流の楽天的な人間性善説に冷水を浴びせるものであった。すなわちブキャナンは、政治家や公務員を含むあらゆる人間の行動の原理は、「自己利益の最大化」すなわち人間の動物的本能である「欲望」なのだと喝破したのだ。

役人も政治家も表面的には「社会の為」「最大多数の為」といいつつも、結局は自分の地位の確保とその地位から得る権益の最大化を図るのは―――いたし方ないことなのだ―――という、夢も希望もない話なのだが、現実の社会や政治を見た時に、あまりにもこのブキャナン説にぴったりの事柄ばかりが起きていることに人々は気付いてしまった。

人間性善説に基づく経済理論も、ベンサム流の功利主義も、その夢が一旦覚めてしまった後では、もう信じる人は少なくなってしまった―――というのが現在の世界を支配するなんとも淋しい現実である。

例えば、グローバル化を善悪で捉えた場合どうだろうか。今、世界には豊かな国があり一方では貧しい国がある。グローバル化の過程においては、貧しい国が益々貧しくなり、富の更なる偏在が起きるという事態も起きうるが、そのようなことが起きないように調整しながらグローバル化を進める方法はあるはずだし、グローバル化がすすめば、貧しい国の雇用が移転され人々が豊かさを享受できるようになることはあきらかだ。すなわち国境を無くし、貿易の障壁を取り除く方向にすすむことは長い眼でみた「最大多数の細大幸福」への道につながるはずなのだが―――。

しかし、今TPPという自由貿易化への一つのステップを政策課題とするときでさえ、ここで繰り広げられているのは、例えば農業保護政策という利権に守られている人達の「絶対反対論」であり、片や自由化推進によって利得が期待できると考える輸出産業者などの賛成論であるが、いずれにも「最大多数の最大幸福」などという悠長な理想論はかけらもないといってよいだろう。

こうなると、いずれの側の「欲望」をも満足させうる手段に訴えるしかないわけだが―――。TPP参加を進める一方、農業利権者を更に満足させうる「農業者保護策」「所得保障」といったばら撒きを行なうことでいずれの側の「欲望」を満たしてやる以外には政策者の選ぶべき道はない。

悲しいかな日本ほどブキャナンの公共選択理論がぴったり当てはまる国はないとさえ言えるのではないだろうか。

（03/03/13 9:00pm S.T.）

2013年3月1日

外国語がしゃべれたら

海外に行くといつもその国の言葉がしゃべれたらなぁ〜と思う。

「おはよう」「こんにちは」「ありがとう」「さようなら」といった程度のほんの一言、二言でもその国の人の言葉で声をかけたときに相手がみせるちょっとした驚きの表情や、その後にみせる嬉しそうな表情は、おおげさに言えば自分が少しだけでも日本人として国際交流の一翼を担ったような気さえするし、逆に日本を訪れている外国人に「オハヨーゴザイマス」等と声をかけられ嬉しくなったりもする。

ほんの一言、二言のあいさつならばその地に数日もいればどうにか使えるようになるけれど、滞在がそれよりも長くなるとか、その地に数ヶ月、数年滞在するとなれば、やはり日常生活を送るのには、その国の言葉がある程度使えるようになりたいものだ。英語があれば、多くの国や地域で現地語がしゃべれなくても不自由しないということもあるけれど、国際会議に出るとか、文学論をその国の人と戦わせようという訳ではない、いわゆる日常においては、やはり片言でもよいから、現地の言葉で話しかけるのと、英語で話しかけるのとでは相手の反応がまるで違う。現地の言葉でのその地の人々との交わりは、すなわちその国の文化に触れたのと同じような意味合いを持つようにさえ思える。

随分、昔の話だけれどポルトガルを旅行していた時、一日現地のタクシーをチャーターしたことがあった。観光タクシーをチャーターした訳ではなく、現地のホテルで客待ちをしていたタクシーを交渉して雇ったのだが、その運転手さんは、英語が全くダメだった。(ポルトガルでは、他のヨーロッパ各国ほどには英語が中々通じない)

こちらのポルトガル語も、にわか仕込みの「促成ポルトガル日常会話」程度のものだったので最初の内はこちらももの凄く不安で、中々意思疎通もできなかったけれど、そこはそれお互いが「会話が成立しないとどうしようもない」という状況に追い込まれているだけに、地図や観光案内パンフレットを見ながらの身振り手振りをやっている内に、不思議と会話が成り立つようになってきた。

午前中はリスボンの市内観光、午後は、その運転手さんが、お勧めの郊外にある中世の城や教会、さらにはローマ時代の遺跡にまで連れて行ってくれた。そればかりではなく運転手さんから「ポルトガルは中世から優秀な人材ほど海外に出ていってしまい、今残っているのは海外に出ていく能力のない奴の子孫ばかりだ」とか、「ポルトガルとスペインは、昔から何度もとったりとられたりをくり返してきたので仲が悪い」などという旅行ガイドには絶対にのっていないようなトレビアまで教わり（ウソかホントかはさだかではないが）、最後にはリスボンで運転手さんのなじみのバル（バー）まで教えてもらった。このバルには当日だったか、翌日でかけてみたが観光客などほとんどいない地元の人たちの憩いのバルのようで料金も安くて最高の雰囲気だったことを思い出す。あの日の観光こそが、ポルトガルでの最高の思い出だ。それも、これもやはりあの時、片言のポルトガル語で運転手さんと「友達」になれたからだ。

サッカーや野球などで外国人の選手や監督、コーチが多く来日しているけれど、日本語で意思疎通をしようとしないパートタイマー気分の連中の成績は今一だけれども、白鵬やDeNAのラミレスなどのように日本語を使いこなしている外国人の成績がよいのは、やはり「言葉の力」がかなりあるようにも思うのだが。

（02/28/13 9:00pm S.T.）

2013年2月22日

隕石落下！

アリゾナの砂漠の中にあるバリンジャークレーターの直径は約1.2キロ、深さは170メートルという巨大な物だ。このクレーターは今から5万年前の隕石衝突によってできたものだが、その隕石の大きさは推定で直径20-30メートル、重さは2万トンから8万トンだという。先週、ロシアに落下した隕石（チェバルクリ隕石と命名されたらしい）が直径15メートル、重さ約1万トンだったというから、このバリンジャーの隕石の大きさとそれほど大きく違わない。(ちなみに、6500万年前の恐竜絶滅の原因になったといわれるユカタン半島沖に落ちた隕石の大きさは直径約10キロ、重さは3億トンだとうから、それに比べればバリンジャー隕石などはホコリのような物ということにもなる)

ところが、直径20-30メートルという「ちっぽけな」隕石でさえあれだけ巨大なクレーターをえぐったというのだからチェバルクリ隕石の被害が「今世紀最大級」とは言いながらあの程度で済んだことはある意味ではラッキーだったとすら言える。

バリンジャークレーターにその名を残すバリンジャー氏は、このクレーターの大きさから推定して、地下には1億トンの鉄隕石が埋もれているはずだと考え、今から約100年前、自分が経営する鉱山会社を使って27年間かけて、クレーターの地下を500メートルの深さまで掘り進めたが遂に鉄は出て来ず、失意の内に亡くなったという。

確かに、純度100％の鉄1億トン掘り当てれば「大金持ちになれる！」とバリンジャー氏が皮算用したのも当然だが―――現代では、バリンジャー隕石の重さは大気圏突入時でも精々8万トン、しかもそのほとんどがチェバルクリ隕石同様に地上に到達する前に燃え尽きてしまっていたことが分かっている。

チェバルクリ隕石は、石質隕石といわれる石と金属などの混じった物だが、バリンジャー隕石はほぼ鉄からできている鉄隕石といわれるものだった。鉄は沸点が2750度という高温なので我々が地球上で鉄が気化するようなところを見る機会はほとんどないものの、隕石が大気圏にマッハ50等という猛スピードで突っ込んでくれば、その温度は2万度近くなるというから、さすがの鉄も一瞬の内に気化してしまい地上にまで届くのはほんのわずかになってしまうのも当然だ。鉄よりも沸点が低い石質が主であったチェバルクリ隕石が元は1万トンあっても地上で回収されたのはわずか50個ほどの小さな破片だけだったことからしても、8万トン近い鉄の塊でも地上に到達したのはわずか30トン余りであったということも納得できる。しかし、8万トンの鉄を一瞬で蒸発させてしまうほどの高熱とは−−−大自然の力の凄さは正に驚異というしかない。

地球誕生直後から20億年ほどの間には、地球に巨大な小惑星が頻繁に衝突していたという。大気がない為に過去の隕石衝突痕をそのまま残している月の表面の無数のクレーターを見れば、地球にもあれと同じ密度で隕石衝突があったということが分かる。しかし、その後、隕石衝突の頻度は少なくなり、この数億年の間では直径1キロ級で三千万年に一度程度、100メートル級で千年に一度の割合でしか衝突していないのだとか。

もっとも、頻度は低いとは言え「この40万年前間に一度でも動いた活断層は全部危険！」という原発安全基準からすれば、千年に一度の隕石落下は「めちゃくちゃ危険」ということになりそうだが−−−原子力規制委員会に聞いてみなければ！

（02/21/13 9:00pm S.T.）

2013年2月18日

メガソーラーは救世主ではない

メガソーラーの一つである京都ソーラーパークの総面積は9ha（90000�u）だが、公称出力は4200KW(年間420万kw/h)だ。そういわれてもどの位の電力なのかは素人にはちょっとイメージし難い。それもあって同社(ソフトバンクの子会社)のホームページには「一般家庭1160世帯の年間消費電力に相当」との説明が載っている。

原発再稼動は絶対にまかりならぬという反原発の声が実際どれほどの比率なのかは定かではないが、そういった声が「大きい」ことだけは確かだし、逆に、「再稼動容認」という意見の人がいたとしても、彼等は「一刻も早く稼動せよ！」などとむしろ旗を立てて叫ぶなどということをする訳もないから、政治家も役人も再稼動に対しては、どうしても後ろ向きになるのは致し方ない。

火力発電用の石油・天然ガスの国際価格の上昇、円安の進行、によって発電コストの上昇が続いている。このまま原発稼動ゼロが続けば、電力料金の値上げが更に進むだろう。電力料金の上昇は一般家庭の家計に負担をかけるだけではなく、日本のあらゆる産業、社会コスト上昇につながり、しいては日本に致命的なダメージを与えることも懸念される。

（原発なしで）どうやって安定的かつ経済的な電力を供給するのかを夢想論ではなく現実論として皆が真剣に考えるべきなのだが―――そのような姿勢は政府にも、そして国民にもまったく見えてこない。

「あれもダメ、これもダメというなら一体どうするつもりなのか！」などと言おうものなら、反原発を叫ぶ人たちや、タレント評論家（コメンテーター）達が異口同音に「だから自然エネルギー（新エネルギー）を推進すべきなのだ！」とナントカの一つ覚えのような呪文を唱えるが―――。

彼等がいう自然エネルギーの中でも最近もっとも「人気がある」のが太陽光（ソーラー）エネルギーだ。なにかと環境問題を起こしている風力発電に比べたらソーラーは耕作放棄地の活用にもなるし−−−等と、あたかも「原発代替はこれで決まり！」のようなことを彼等はいうし、発電コストをはるかに上回る42円/KWhというベラボウに高額の買い取り価格が今後20年間保証されるというあの民主党政権の作ったトンデモ買い取り制度のおかげ（？）で、孫さんのような目端の利く商売人がこぞって「じゃんじゃん作って一儲けしよう！」とあちらでもこちらでもメガソーラーの建設が続いている。今現在、稼働中もしくは建設中のメガソーラーは80ヶ所以上あるという。

その中でも冒頭に紹介した京都のソーラーパークは最大規模のものだ。その最大規模のメガソーラーの発電量が「一般家庭1160世帯分」という事実をもう一度冷静に考えてみて欲しい。日本の電力消費に占める一般家庭用は約30％だ。（レストランやオフィス、学校など用の民生用が約40％、鉱工業用が30％）日本の総世帯数は約3千万世帯だ。京都メガソーラーの最大供給量をもってしても日本の電力消費の3割を占める3千万世帯の一般家庭用の内のわずか1160世帯の電力を賄うに過ぎないのだ。

ちなみに福島第一原発の敷地面積約350万m

しかも、メガソーラー建設は日射の問題などもあって周りに建物や山、樹木などのない平地（もしくは洋上）である必要があり、頻繁に草刈りなどのメンテナンスが必要だ。（除草剤の散布などをすればあらたな環境問題を引き起こす）福島原発敷地にソーラーパネルを敷き詰めたとしても、その発電量は原発の約1/30という計算もある。この国土の狭い日本でしかも広々とした平地が一体どれほどあるというのだろうか。

自然エネルギーとしてのソーラー発電は希望のエネルギーではある。例えばアフリカの砂漠に井戸を掘ったとしたらそこでソーラー発電によるポンプをつけて組み上げれば、アフリカの人々に喜ばれるだろう。しかし、「原発に変わる日本の新たなエネルギーの救世主になる！」などということは以上のことから考えて全く無理だし、そういう間違った宣伝をすること、それを信じることは、日本のエネルギー問題の真摯な解決策を考えるための障害にしかならないということを、我々は知るべきなのだ。

（02/17/13 9:00pm S.T.）

2013年2月15日

真冬のTシャツ

5時に起きて1時間ちょっと走ったりしているのだが、立春を過ぎたとは言えまだまだ今が寒い盛りといってもよい時期だけに、上下ヒートテックの下着をがっちり着込み、ネックウォーマーやら厚手の手袋、毛糸の帽子等々、とても「運動着」とはいえないような重装備で出かけている。

同じコースで行き交うほとんどのジョガー達もこの時期、タカさんと似たり寄ったりの厚着をしているのだが、週一、二回すれ違う50代位に見える白人だけは、この極寒の季節だというのに短パンにTシャツといういでたちでにこやかに走っている。

大柄ではあるが、デブという訳ではなくがっしりした筋肉質の体型だから厚手の余分な脂肪を纏っているようには見えないのに寒さを感じないのだろうか???

そういえば昔、冬の最中、シカゴのオヘア空港でロスから来る客を出迎える為に到着ゲートで待っていたら続々と降りてくる客の中に何人かのTシャツ姿の若者がいるのを見てたまげたというか、笑ってしまったことがある。シカゴの冬の寒さは半端ではない。日中の最高気温でも−10度程度だし、‘Windy City’というニックネームがある位で、冬は北極下ろしの寒風が吹きすさんでいるから体感温度はそれこそ−20度、30度にもなるというのに−−−。温暖なロスの空港の服装のままシカゴに来てしまった若者は、まさかシカゴがこんなに寒いとは想像もしていなかったのだろうか？　空港内はホームレスが避難してきているように暖房が効いているからまだいいようなものの、あのままゲートから出て外に行ってこの寒さを知った時の彼等の驚く顔が見てみたい！などとちょっと意地悪な好奇心にかられたものだった。（はたして、彼等が遭難しないで今も無事に生きているかどうかはさだかではない）

サンフランシスコの観光名所、フィッシャマンズワーフに行くとここでもアメリカ人の服装に驚かされることが多い。「一日の内に四季がある」 といわれるサンフランシスコでは、朝の内は霧が出ていることが多く半島の近くを流れる寒流から発生するこの霧のおかげで夏でも朝の気温は相当低くなる。ところがこの霧が晴れると、カリフォルニアの太陽が輝き気温は急激に上昇してくる。（まあ、それでもロスやオークランドに比べれば涼しいと言ってよいのだが）そんな訳でフィッシャマンズワーフに集う人たちは、自分が自宅を出た時に丁度良いと思った服装、即ち、てんでんばらばらの服装で集うことになるのだ。短パン、Tシャツにサンダルの若者は昼頃に家を出てきたのだろうし、毛皮のコートを着ている年配の女性観光客は朝の比較的早い時間にホテルを出てきたのかもしれない。日本人のように、夏ならこれ、冬のこの季節ならこれ、といったある程度決まりきった服装をするのではなく、思い思いに、自分が着たいと思った服装をするし、他人がどんな服装なのかはそんなに気にしない−−−という典型が（夏の）フィッシャマンズワーフを歩くアメリカ人なのではないだろうか。

そういえば、日光過敏症であるタカさんは夏の早朝ジョギングには、長袖、長ズボン、白手袋、日よけフード付ツバ広帽子、という出で立ちだ。日焼け防止の為にこんな恰好をしている女性はいるものの、オッサンでこんな恰好をしている人はいない。ちょっと間違ったら「危ないオジサン」と思われそうな恰好で走るのは、典型的日本人であるタカさんにとっては結構勇気がいる行為なのだ！―――今朝走っていたアメリカ人は−−−うーん、全然恥ずかしそうではなかったなぁ〜

（02/14/13 9:00pm S.T.）

2013年2月14日

ローマ法皇の退位

プロテスタントよりもカソリックの方に不倫問題が多いように思う。ちょくちょく浮気をして奥さんを泣かせていた友人がいた。彼に『お前は、カソリックなのにモーゼの十戒にもある「姦淫の罪」をどうしてそうしばしば犯すのか！おかしいじゃないか！』と説教を試みたことがある。ところが、彼の答えは「いやぁ〜、罪を犯す度にこれはいけないことだと思い、教会に行って懺悔をして神父さんから「神は赦す」と言ってもらっていますから」というなんともとんでもないものであった。

カソリックには、プロテスタントにはない「懺悔」または「告解」と呼ばれる儀礼がある。これは信者が自分の犯した罪を神父に告白することで、神からの赦しを得る−−−というものだが、30年程前「おれたちひょうきん族」の「ひょうきん懺悔室」で、横沢豹の神父、ブッチャー武者の神様というパロディーで見たことがある人もいるのではないだろうか。その友人によれば、罪を告白し、反省している旨の告解をすると、神父さんは「祈りなさい、神は赦されるでしょう」みたいなことをいうのだそうだ。（そういえば、「ひょうきん懺悔室」でも、横沢豹の神父さんが「祈りなさい！」と言っていたっけ）

「ごめんで済むなら警察要らない！」という言葉もあるが、カソリックの場合は、ごめん！で済んでしまうというのだから、中々、優しい宗教（？）にも思える。これでは、カソリックの信者である友人の女癖が治らないのも当然という気がしたものだ。（彼とはもう随分会っていないが、あの女好きは治っただろうか？）

そんなことを思い出したのは、ローマ法皇ベネディクト16世が今月末で退位すると自ら発表したというニュースを聞いたからだ。終身制の法皇が自らの意思で退位するというのは実に600年振りという極めて異例なことだが、「老齢の為」という本人のいう理由を信じる人は多くはなく、カソリック聖職者による少年少女に対する性的虐待、その性的虐待事件の隠蔽事件での法皇を頂点とする教会関係者の不手際、無責任に対する非難に耐え切れなくなっての引責だという見方が専らだ。

実際、法皇退位の報に、世界各地で「聖職者による性的被害者の団体」等が「ベネディクト16世は聖職者が児童に性的虐待を行う恐ろしい状態の解消にほとんど尽力しなかった」と批判し、退位を歓迎する声明を発表している。カソリック聖職者による性的虐待事件は、世界各国で起きておりその告発リストを見ると、件数の多さ、破廉恥さの度合いに胸糞が悪くなってくるほど酷いものだ。しかも、いずれの事件も「聖職者がこのような行為を行ったとなっては教会の威信に傷か付く」と考えたのだろう、隠蔽し、隠蔽仕切れなかったものは高額の示談金の支払いを条件に闇から闇に葬るなど、なんとも「神に仕える者」にはまったく相応しくない処理を続けてきたという恥ずべき事例ばかりだ。そんな事件隠蔽の総元締めであったことが明らかになり、さすがのベネディクト16世も逃げ切れなくなっての退位―――そんな噂もあながち荒唐無稽とは言い切れないような気もする。（いじめや体罰問題の隠蔽を図った元締めである教育委員会や校長が逃げ切れなくなって辞任するのと似ている）

カソリックは聖職者の妻帯を認めていないからこういう性的虐待が止まらないのだという説がもっぱらだが、「罪を告白し反省すれば、赦される」というカソリックの懺悔のシステムが、この種の犯罪が治まらない理由の一つのようにも思うのだが。

（02/13/13 9:00pm S.T.）

2013年2月8日

カワイーイ

旅行中、女子高校生の二人組みと親しくなった。娘の世代でもなければ、孫の世代でもないし姪っ子達（皆、もう20代にはなっている）にも最早この17,8歳という年代の若い女の子はいないだけに彼女達の話は新鮮だった。

最初、彼女たちの連発する「カワイーイ」を聞いていて、「近頃の若い娘はなんと語彙が少ないのだろう」と年寄りじみた感想をもったのだが、二人に聞いてみると実はこの「カワイーイ」には、多様な意味合いがあり中々フカーイようだ。

彼女たちの「カワイーイ」は形容詞として、愛らしい、美しい、小さい、幼い、微笑ましい、といった我々の年代にも理解できる意味合いだけではなく、美味しそう、こじんまりしている、面白い、愉快な、滑稽な、ぶかっこうな、という意味にまで使われ、その時発せられた「カワイーイ」が、どんな意味を持っているのかはその時の状況や雰囲気によって瞬時に理解できるし、しなければならないのだという。（寝癖で髪の毛が少し立っていたタカさんを見て、彼女たちが「お父さん、カワイーイ！」といったのは「オカシイ」という意味だったようだ）

そういう意味では「カワイーイ」は時には感嘆詞の あっ！えー？まぁ〜？といった意味でも使われるようだ。（巨大遺跡を見ての「カワイーイ」は、「ワッ〜」に相当するのだろうか）

タカさんは、言葉をあくまでも「意味を伝える道具」と考えがちだが、少女たちは言葉を本来の、意味を超えた感情や心を伝えるための手段として使っているようなのだ。（動物は鳴き声で、色々な意味を表すように、原始の時代、人類の祖先も言葉ではなく音だけで色々な意思を伝え合っていたのだろう）

旅行中に18歳の誕生日を迎えたという一人がいうには、「カワイーイ」にはもう一つのこれらとは違う意味合いもあるという。すなわち、なにかに対して「カワイーイ」と感じている自分自身が「カワイーイ」という意味もあるのだという。何を見ても「カワイーイ」と感じて、それを素直に「カワイーイ」と表現できる少女である自分ってなんて「カワイーイ」のだろうという自己陶酔的な気分を指しているのだという。この話を聞いて、いままで「何と語彙の少ない幼稚な娘たち」と思っていたこの娘たちが実は「なんて優れた感性を持っているフカーイ娘たち」なのだろう、と思えてきた。

今から1000年前に書かれた清少納言の「枕草子」は、「をかしの文学」との別名もある位、頻繁に「をかし」が使われているが、この「をかし」の意味は、現代の女の子たちが発する「カワイーイ」と同じように思う。（冒頭部分、夏は夜---の段にある、蛍のおほく飛びちがひたる。また、ただ一つ二つなど、ほのかにうち光りて行くもをかし。雨など降るもをかし。---を当時のギャルであったであろう（？）清少納言の言葉のまま現代語訳すれば、「をかし」の部分は「カワイーイ」と訳すとぴったりする−−−ちなみに「いとをかし」は今なら「チョーカワイーイ！」だろうか）

旅行中、妻がこの少女たちをはじめ同じツアー参加者の女性達と繰り広げる、とめどのないおしゃべりに、女性の男とは違う優れた言語能力（？）というかコミュニケーション能力に感心させられ、枕草子の時代から現代の若い女の子まで、言葉の使い手としては女性の方がはるかに男より優れていることをあらためて認識させられた。男が女に口では勝てないのも当然だ。

（02/07/13 9:00pm S.T.）

2013年1月18日

日本人と色

日本人の色彩感覚は豊かだといわれている。平安時代の十二単などの実に繊細で多彩な色使い、色の組み合わせの感覚は現代のハイテクノロジーの色彩感覚を上回るとすらいえるように思えるほどだ。

多彩な色を感知できるから色彩感覚が豊かだというだけならばどうということはないかもしれないが、日本人はそれに加えて色がないこと、即ち無彩にまで色を見てそれを美しいと感じる感性をもっている、

今に残る法隆寺などのくすんだ古色、いってみれば無彩もまた我々の色彩感覚においては美しい色と認識されるではないか。（むしろ、CGで復元された建立当時の色彩を見た時には、けばけばし過ぎて、それほど美しく思えないこともある）

利休の唱えたわび、さびを具現しているといわれる質素な作りの茶室は美しいとおもえても、全ての内装に金箔がほどこされ、すべての茶器も金色に輝いている秀吉の作った茶室を再現したものや、中尊寺の金色堂を「美しい」という形容で語る人はそれほど多くはない。これは日本人が金色よりも無彩の方が美しいと感じる一種哲学的な美的感覚をもっているからだと思う。

元々、日本人の優れた色彩感覚は、世界でもまれな程に豊かな日本の四季、海から急激にそそり立つ急峻な山という高度差が作る木々の色彩の変化によって育まれたものだとも言われている。

確かに赴任前に出張でカイロを訪れた時、機上から砂の色一色に染まっているカイロの街を見て、これから数年はこの地で暮らすのか――と思った時には、実に暗澹たる気持ちになったものだし、逆に赴任を終えて日本に帰りついた時に見た緑に囲まれた成田がこれほど美しいものなのか、と感嘆したものだった。四季のない国の色彩の単調さは、日本の四季の多彩な色彩に慣れてしまった日本人には耐え難いものにうつるのかもしれない。

確かに赤道直下の国に行きジャングルのその深い緑を見た驚き美しいものだとは思うが、ある程度見慣れてくるとその緑が余りに単調なので飽きがくるといったことはある。しかし日本では例えば「緑」と一口でいうが、その緑には様々な種類があり、そのそれぞれにちゃんと名前がついている。（森の緑をあらわすだけでも、浅緑／深緑／若緑／老緑／もえぎ色／苗色／わか苗色／柳葉色といった具合に3-40はあり、英語の緑の種類に比べたら恐らく4-5倍にはなるだろう）

緑色のみならず赤にしても同じだ。英語ではRedとScarletと何種類かの違いはあるものの日本の赤のように朱色／赤丹／東雲色／茜/曙色/海老色等々といったような細かな名前はない。十二単などでその微妙な色合いの差のグラデーションをつけて衿元や、袖口に見せる−−−などという着こなしは当時のヨーロッパのどんな王侯貴族婦人でさえしていなかった優れたファッションセンスだったのではないだろうか。

朝鮮王朝や琉球王朝の女性達の服装のカラーセンスも実に素晴らしいとは思うが、和装の色彩感覚に比べるといささかきつすぎる（派手すぎる）と思ってしまうのは、やはりタカさんが日本的な色彩感覚に慣らされてしまっている所為かもしれない。

世代間による色彩の好みの違いというものが確かにあって、若い時には派手な色を好んだ女性も歳とともに好みの色が落ち着いてくるということはある。それでも、例えば渋谷の街を歩いていると、その服装の色合いの違いで何となく、日本人なのか、韓国人なのかは分かるのは、やはり色彩というものに対する国民性の違いがあるからだろうか。そんな色彩感覚に豊かなはずの日本人男性の服装が一向に垢抜けないのはなぜだろう。哺乳類の中で色の識別ができる種の数は決して多くはないという話も聞くが本当だろうか。

色について色々調べてみるのも面白そうだ。

（01/17/13 9:00pm S.T.）

2013年1月16日

ぼったくり

アメリカで大型ホームセンターに行くと「こんな物まで売っているのか！」と驚くようなものがある。

工賃が高いこともあって、アメリカでは自動車修理や家の修理はお父さんの仕事だ。

家の場合、壁の塗り替えとか、カーペットの張替えといったことは、自分たちでやってしまうのは普通だし、田舎に行くと「日曜大工で自宅を建てた」などという人はごろごろいる。ホームセンターもそういうお父さんたちの需要に応えるために何でも揃えている。

アメリカのホームセンターでびっくりした商品の一つに「ドア」がある。室内用から外装用、材質も木製、スチール等様々、スタイルや、飾りの模様、色彩も実に多様な品揃えだ。なによりも驚くのはその値段だ。玄関用のドアでも安いものなら500ドルもしない。「500ドルがそんなに安い訳ではない」と思われるかもしれないが、これと同じようなドアが日本では安くても40万円、50万円はするということを知れば、その余りの価格差に「何故だ！」と言いたくもなるというものだ。

「そんなに安いなら日本でもアメリカ製のドアを輸入したら？」と思われるかもしれないが、ことはそう簡単ではない−−−というか実際上できない。

日本の住宅は住宅メーカー毎にドアのサイズが微妙に違う。パナホーム基準で作った家にはミサワホームのドアは合わないし、他のメーカーでも同じことなのだ。アメリカのドアは勿論、どの日本の住宅メーカーの家にも合わない。

アメリカではドアのサイズは国内統一規格だ。そうなれば、ドアだけを作っている独立系のドアメーカーも出てくるし、海外のドアメーカーの製品も大量にアメリカの住宅市場入ってくる。そんな訳で、ホームセンターは、安いドアを売ることができるとし、お父さんもそのドアを買って帰り自分でドアの付け替えをすることもできるという訳だ。

こういう仕組みを官民グルになって作ることで、日本の住宅産業は、いわゆる「非関税障壁」を築いている。

アメリカのドアメーカーにしてみても、わざわざ何十種類もある日本のドアサイズに合わせて少量多品種の生産をしようとは思わないから、日本の住宅産業は、海外勢参入の脅威にさらされることがない。住宅産業とその監督官庁は万々歳だが、その分日本の消費者は高いドアを買わされることになる。

なぜこんなことを思い出したかというと、自宅のプリンターのインクカートリッジがドアと同じような仕組みになっているからだ。すなわち、プリンターやインクカートリッジはわざわざ「規格を統一しない」ことで不当に儲けているように思えるからだ。

今、家電量販店でプリンターを買えば安いものなら1万円以下でいくらでもある。ところが各メーカー毎に（同じメーカーであっても機種毎に）、インクカートリッジの型番は異なっている。しかも、4色とか6色のインクをセットで買うと純正品ならば5−6千円はする。

家電量販店にインクカートリッジを買いに行って、新しいプリンター（インクカートリッジ込み）とそれほど値段が変わらないからと、プリンターが壊れた訳でもないのに買い換えたことが一度ならずある。

事務用の複写機メーカーが複写機本体ではなくインクで儲ける仕組みになっていると聞いたことがあるが、パーソナルユーズのプリンターまで、「本体は安く売ってインクで儲ける」仕組みになっているというのはなんだか詐欺商法にひっかかっているようでどうも釈然としない。(ネットなら、互換品が純正品の1/10位の値段で売っていることからすれば、純正品と称してメーカーが売っているインクカートリッジの価格は、まちがいなく「ぼったくり」だ）

スマホやケイタイあるいはデジカメなども充電器の規格やサイズが皆違っているが、あれだってアメリカのドア同様、統一規格にしようと思えば簡単にできるはずだと思うのだが。

日本の一流企業といわれるメーカーが姑息なぼったくり商法で儲けているとは思いたくはないが−−−。

（01/15/13 9:00pm S.T.）

2013年1月15日

罪刑法定主義

日本の刑法は罪刑法定主義を原則としている。刑法が禁じている行為を行えば犯罪だが、刑法に規定がない行為ならば犯罪を構成しない。古くは電気を「物」とする規定がなく、盗電を窃盗罪にすることができるかできないかで長く争われたこともある。（今は勿論、盗電は窃盗罪という犯罪であるが）

逆に、「これは本当に犯罪なのか？」と疑問が呈せられるが、「法律が禁じているのだから犯罪に決まっている！」と問答無用の犯罪もいくつかある。近年も、例えば、音楽や映像のダウンロードといった犯罪については、著作権者と一般の間で盛んに論争があるところだが、激しいロビー活動をおこなった権利者側の主張に沿った形で法律が成立、「法で禁じているのだから！」という理由で一方的に犯罪だとされることに不満を持つ人は多い。

古くから論争があるのは麻薬と売春だ。いずれも罪刑法定主義に基づいて「法が禁じているのだから当然犯罪だ」ということになっているが、個人の自由意志に基づく行為を罰することは、個人の自由の侵害ではないかという論もないではない。

麻薬を吸って刃物を振り回す人がいるからとか、危険運転をする者がいるから麻薬を禁じるのは当然だということになっているが、刃物を振り回すことも、危険運転をすることも、別の犯罪（傷害罪とか危険運転罪などで）で罰すればよいことであって、自分の部屋でおとなしく麻薬を吸っていることまで罰するというのは、行きすぎだし麻薬を吸って廃人になるのも個人の選択である以上は国家がそこまでおせっかいをする必要はない、という考えもあながち無視できない。（社会で守らなければいけない青少年の麻薬使用を禁じる必要は勿論だが、たばこ等のように青少年への譲り渡しは別に規定を作って罰すればよい）

世界でもっとも古い職業といわれる売春についても同じようなことが言える。女性の人権を侵害するとか、人身売買、あるいは組織犯罪の資金源になるからというのが、売春を犯罪であるとする根拠として言われるが、成人に達した女性が全くの本人の自由意志で、それを求める男性から対価をとって行なう行為をなぜ権力が禁じるのか−−−となると、これに明確に答えるためには唯一「法が禁じているのだから」という罪刑法定主義を持ち出すしかなくなる。

韓国で売春婦たちが「われわれは性労働者！労働者に働く権利を！」と主張し「成人男女の私的な行為に法律が介入するのは違憲！」と当局を憲法裁判所に訴えた。憲法裁判所では近いうちに判断を下す予定だという。他国のこととは言え憲法判断が注目される。

多くの宗教は売春を禁じているが、個人の自由を重んじる民主主義国が、政教一致国のように「神が禁じているのだから法律で禁じるのは当然」という理屈を持ち出すのも何か変だし、「法が禁じているからダメなのだ！」という罪刑法定主義は特に売春にはそぐわないように思わないではない。又、欧米にも売春を合法化しているところも少なくないことを考えるとあらためて「本当に売春は犯罪か」という疑問がわいてくる。

そもそも「売春とは何か」という問題も中々一筋縄ではいかない。対価が金銭ならば売春だが、金目当ての結婚は、売春とは言わないのか、とか、「愛のある売春行為」はやはり犯罪か−−−等々。まあ長くなるのでこの辺で。

（参照：「売春はなぜいけないのか」10/23/09）

（01/14/13 9:00pm S.T.）

2013年1月11日

専門家の結論

我が国にはどんなくだらない（といったら失礼だが）分野にも「専門家」がいる。名前も聞いたことがないようなある国で事件が起こったとなると夕方のテレビニュースにはもう「A国の事情にお詳しいxx大学の誰某教授」が出てきてコメントし、原発敷地内の活断層の話になれば、｢活断層専門家｣のみならず「地すべり専門家」といった素人には区別もつかないようない分野の専門家がああでもないこうでもないと滔々とコメントしてくれる。

まあ、我々素人は、そういった専門家のご高説をありがたく拝聴するしかないのだが、困ったことに専門家になればなるほど「結論」をはっきり言わないことだ。

競馬や競輪の予想屋(専門家）ですら（ハズレてばかりにせよ）一応は結論としての買い目を明らかにするというのに、政治や経済、あるいは科学技術関係の評論家達がいつも「成行きを見守りたい」などという言葉で評論を結ぶのは、よほどその手の評論や予測に自信がないからではないかとも思う。

例えば、我々素人は「東通原発内には活断層があるのかないのか」を教えてもらえれば十分なのに、専門家がよってたかっての結論となると「もう少し、詳しく調べてみなければ分からない」などという素人にも言えそうな屁でもない物だ。

「四十万年前の活断層ならば危ないが、四十一万年前の活断層ならば大丈夫という根拠は一体何？」なという素人の質問が新聞にあったが、専門家の「ズバリ」の答えはなかった。そうなると「以前は二十万年前だった活断層基準を四十万年前に厳しくしたことになにか意味があるのか？」と思わないではない。要するに「安全な原発」の設置基準なんて、素人はもちろん玄人にも分からないということなのではないだろうか。どうせ分からないことで、ここまでワイワイ騒ぐというのも何だかバカバカしく思えてくる。

以前仕事の関係で親しくしていた某経済評論家から「長くこの商売を続けていたければ、ああだ、こうだと講釈を述べた後で、（成行きが注目されます）と言っておけばよいし、短期的でいいから評論家として注目を浴びたいというなら、なにしろ（極論）を言うことだ！」と教わって目からウロコの思いがしたことがある。

そういう目で、政治家や評論家を見てみると「ああなれば、こうなる。こうなれば、ああなる」などとグダグダ述べた後で、「注意深く見守る必要がある」だの「慎重に対処するべきだ」と結論にもならない、どうでも良いような話で結ぶ連中ばかりだ。

政治家が結論らしいことをいわずに講釈ばかり述べ始めたら要注意。特に前民主党政権が、以前の自分達の発言に足を救われたブーメランで自滅したのを見ていた安倍政権では、益々、「慎重に」だとか「注意深く」という話が増える可能性は大だ。

この十年、「尖閣、竹島、北方領土などをどう対処していくつもりか」｢エネルギー基本政策は？｣「原発再稼動は？」「財政再建と景気回復をどうバランスをとっていくのか？」Etc、Etc、と問われて、ポピュリズムに踊る政治家は皆、「注意深く」「慎重に」あるいは「成行きを見守りたい」という、なんだかよく分からない言葉をくりかえしてきたが、これが日本の「失われた十年」「失われた二十年」を生んだ原因だった。そういう観点から今の与野党政治家の言動を「注意深く見守りたい」ものだ。

（01/10/13 9:00pm S.T.）

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